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『声をあげて、世界を変えよう!』

2022年1月12日

おとといの月曜は「成人の日」でした。
新成人の皆さん、おめでとうございます。

大人の皆さんは、今の若者たちのことをどう思っているでしょうか。

大人はいつの時代も「今どきの若者は…」と否定的に見がちですが、
この本を読めば、きっと若者たちに対する印象が変わるはずです。

今日ご紹介する本はこちら。

『声をあげて、世界を変えよう! よりよい未来のためのアンダー30の言葉
/アドーラ・スヴィタク、訳:長尾莉紗、イラスト:カミラ・ピンヘイロ』

この本には、30歳以下の世界の若者45名の功績とスピーチが収録されています。

45人の中には、タリバンによって襲撃されたノーベル平和賞受賞者で
教育機会論者のマララさんや、環境活動家のグレタさんもいます。

また、今の時代の若者だけでなく、かつての若者たち、
たとえば、フランスの英雄ジャンヌ・ダルクや
1960年代や1990年代の若者もいます。

どの若者も常識を疑い、
おかしいことはおかしいと声をあげ、
どうしたらよくなるのか改善策を自分たちで考え、
実際に行動を起こしています。

「これ、おかしいよね?誰かやってくれないかな」ではなく、
どうしたらいいのか、自分で解決すべく行動に移しているところがすごい!

たとえば、設計者・発明家のケネス・シノヅカさんは、
アルツハイマー病を患う祖父が夜中にベッドから起きて
外にさまよい出てしまうことを心配し、靴下センサーを開発します。
その靴下を履いた人がベッドから出ると、
介護者にアラートが送られるという仕組みです。
なんと彼が14歳の時のことです。

ケネスさんは、スピーチでこう話しました。

「世界変えることは、ほんの小さな出来事をきっかけに、
ひとりの人間の手によって始まるのです」


青少年の活動を支援する活動家のイシタ・カティヤルさんは、
「大人になったら何になりたい?」と子どもに尋ねるのをやめて、
子どもたちに今何ができるかを尋ねて、
その夢をサポートしてほしいと訴えます。
そして、今を生きることが、よりよい未来を創ると言います。


起業家・服飾デザイナーのメガン・クラッスルは、
年齢の低い女子に合ったブラジャーが無いことに気付き、
妹やその世代の女子たちのために、
ネットで生地の仕入れ先を調べ、
仕立て屋さんやアパレル業界の大人たちに相談しながら
自ら作ってしまいます。

この低年齢向けの下着は大人気となり、
彼女は「タイム」誌の「最も影響力のあるティーン25人」
にも選ばれたそうです。


他には、女の子の早すぎる結婚に反対する14歳の活動家、
廃品から音楽プレーヤーとラジオ送信機を組み立てた14歳の発明家、
北朝鮮を逃れてきた人権活動家、
12歳で報道メディアを立ち上げたジャーナリストなどもいます。


大人になればなるほど、良くも悪くも現状を受け入れるというか、
考えることを放棄してあきらめてしまいがちですが、
若者たちは未来をあきらめていません!

この本は、彼らと同世代の10代から大人まで
多くの皆さんに読んで頂きたい一冊です。
きっと若者たちから気付かされることがあると思います。

そうそう、この本はカラフルでポップなイラストもいいんです。
この本に出てくる若者たちは写真ではなくイラストで描かれているのですが、
どの若者もピュアで力強いまなざしが印象的です。

yukikotajima 11:20 am

『最強脳』『スマホ脳』

2022年1月5日

明けましておめでとうございます。
今年も毎週水曜の13:45頃〜のユキコレ(grace内コーナー)では、
私、田島オススメの本を紹介していきますので、
どうぞよろしくお願いします。

さて、年末年始はずっとスマホを見ていた方もいるのでは?
普段あなたはどれくらいの頻度でスマホをチェックしていますか?

なんと私たちは1日に2600回以上スマホをさわり、
平均して10分に一度スマホを手に取っているんですって。
時間すると一日4時間だそうです。

何の本の話をしているか、もう気付いた方もいるのでは?
2021年に一番売れた本『スマホ脳』です。

本を書かれたのは、スウェーデンの精神科医、アンデシュ・ハンセン先生。
日本のメディアにもよく登場していましたよね。

ハンセン先生によると、スマホの使い方を間違えると、
睡眠障害、うつ、記憶力・集中力・学力の低下、依存といった
様々な問題を引き起こしてしまうそうです。

では、どうしたらいいのか?

ハンセン先生のもとには、たくさんの質問が寄せられたそうです。
中でもご自身のお子さんを心配する親御さんからの質問が多かったのだとか。

今日ご紹介するのは、そういった質問に対する答えとなる本です。

『最強脳 『スマホ脳』ハンセン先生の特別授業
/アンデシュ・ハンセン 著 、久山葉子 訳(新潮新書)』


この本は「私たちの脳の取り扱い説明書」と言える本で、
親子で読めるように書いたそうです。
ハンセン先生が『スマホ脳』の前に書かれた『一流の頭脳』のジュニア版で、
教育大国スウェーデンでは、10万人の小学生が読んだのだとか。

そもそも私たち現代人の脳は、4万年前の「サバンナ脳」と同じなんですって。
食べ物を集めたり、獲物をつかまえたりしていた時代と同じままなのです。

そして、当時から私たち人間は「生きのびるために良いこと」をすると、
ドーパミンが出て、気分が良くなるそうです。

ところが、今の時代、私たちは獲物をつかまえなくても
いつでも好きなものが食べられますよね。

でも、気分が良くなることはしたいので、
お菓子やジュースもたくさん食べたいし飲みたくなるそうです。
また、スマホも同じで、スマホを使うことで多くのドーパミンが出るのだとか。

もちろん、スマホにはいい面もたくさんありますが、
ドーパミンのわなにはまらないようにすることが大切だそうです。

今の子どもたちは、すぐにごほうびをもらうことに慣れてしまっているからこそ、
何に時間を使うかが大事だと言います。

では何に使えばいいのか。
脳トレ?実は、脳トレはそのトレーニングがうまくなるだけで、
脳のトレーニングにはならないのですって。知らなかったー!

では何をすればいいのか。
それは、「運動をすること」です。

実は、本の2ページ目にさっそく答えが書かれています。

そして、この本には、なぜ運動が脳にいいのか、どんな運動をしたらいいのかが、
小中学生向けのわかりやすい表現で書かれています。
詳しくは、この本を読んでみてくださいね。

ちなみに、スウェーデンの小学校では、毎日体育の授業をしたことで、
成績が上がったという研究結果もあるそうですよ。

また、ハンセン先生によると、この本をしっかり読んだ人は、
前よりも幸せな気分になり、賢くなり、集中もできるようになり、
ストレスに強く、発想力が豊かになり、ゲームも上手くなり、
さらには記憶力も良くなるのだとか。

私はこのハンセン先生の言葉を読んだだけでいい気分になりました。
きっとたくさんのドーパミンが出たように思います。

そして、大人の私も今年は去年以上に運動をするぞ!
とあらためて誓いました。
今年は体を鍛えるために運動を頻繁にしようと思っていましたが、
体だけでなく脳もあわせて鍛えられるなんて、なんだか得した気分です♪

『スマホ脳』が未読の方もこの本だけでもぜひ読んでみてください。
親子向けで読みやすいので、難しい本は嫌!という方にもオススメです。

あなたも新年の1冊目にいかが?

yukikotajima 11:52 am

2021年ユキコレランキング!田島が選んだ1位の本は…

2021年12月28日

今日のgraceは、年末の特別編成のため
火曜日ですが、私、田島がgraceを担当します。
そして、今日が年内最後のgraceです。

明日明後日のgraceはありません。

さて、毎年最後のgraceの本紹介コーナー「ユキコレ」では、
田島が選ぶ本ランキング「ユキコレ ランキング」を発表しています。

最近は、リスナーの皆さんからも発表を楽しみにしている!
と言われることが増え、嬉しい限りです。

先日、紀伊国屋書店富山店に行ったときには、
書店員の方から「今年の田島賞は?」と聞かれました。(笑)

毎年のことですが、今年も悩みました。
選ぶ基準は、その年ごとに少しずつ異なるのですが、
共通しているのは、いかに心に残り続けたか、ということです。

たくさんの本を読んでいると、
読んだ直後は「ああ、面白かった!」と思っても
しばらくすると忘れてしまう本もあります。それも多々。。。
今年の本ですらそうです。

そんな中でもずっと心に残り続け、時々ちらりと思い出す作品があります。

今年私が選んだ本は、読書中は心が大きく動かされ、
読んだ後は心が温かくなり、その後もじわじわ保温が続くような作品です。

***

※本のタイトルをクリックすると、田島の本の感想ページが開きます。


1位:『犬がいた季節/伊吹有喜(いぶき・ゆき)【双葉社】』

この作品は、目が腫れるほど泣きました。
昨夜、あらためて読み直しましたのですが、やはり泣きました。

『犬がいた季節』は、三重県の高校に通う高校三年生たちの連作短編集で、
どのお話にも学校で生徒たちが世話をしている「コーシロー」という犬が出てきます。
物語は、1988年から2000年までコーシローが高校で過ごした12年間が描かれています。

どの時代の高校生たちも色々悩んでいます。
自分の気持ちを人に伝えられなかったり、あとから人の本心を知ったり。
そして、悩んだり後悔したりしながら、自らの道を選び進んでいきます。

最後には、令和元年も描かれ、登場人物たちのその後の人生も明らかになります。

現役の高校生にも、大人の皆さんにもぜひ読んで頂きたい一冊です!


2位:『ばにらさま/山本文緒(文藝春秋)』

この秋、お亡くなりになった山本文緒さんの作品です。
山本文緒さんの作品には、多感な学生時代からたくさん影響を受けました。

『ばにらさま』は、二度読みしたくなる短編集で、
短いお話ながらも「え?どういうこと?」という驚きに満ちた
読書の面白さ、本ならではの楽しさを堪能できた一冊でした。


3位:『川のほとりで羽化するぼくら/彩瀬まる(角川書店)』

こちらは、五感を感じさせる文章が読んでいて心地良い一冊でした。

「今の時代」が切り取られた短編集で、
たとえば、働く妻に代わって家事育児をメインにする夫などが出てきます。

どうしたらもっと自分らしく生きていけるのだろう…
と思っている方は、この短編集からきっとヒントが貰えると思います。

***

偶然ですが、選んだ3冊ともに短編集でした。
長編も読みましたが、今年私の心をつかんだのは短編集だったようです。
短編ですと、まとまった時間が取れそうに無いという方でも
少しずつ読み進めることができますので、読みやすいと思います。

ぜひ年末年始の本選びの参考になさってみてください。

今年も私の本紹介にお付き合い頂きありがとうございました。

yukikotajima 11:51 am

『新版 いっぱしの女』『ちいさな手のひら事典 薬草』

2021年12月22日

graceでは、毎週水曜日の13時45分ごろから
「田島悠紀子コレクション、略してユキコレ」のコーナーで
様々な本をご紹介しています。

今日は、リスナーの皆さんからgrace宛に
「読みたい!」「早速読んだよ」とメッセージが届くなど、
すでにgraceも話題になっている本です。

『新版 いっぱしの女/氷室冴子(筑摩書房)』

約30年前の1992年に刊行され、今年「新版」として再刊行された
人気小説家、氷室冴子さんの名作エッセイです。

北日本新聞の「02」で山内マリコさんが紹介されているのを機に
この本のことを知りました。

そして、早速読んでみたのですが、これがとても良かった!

本が良かったことと、リスナーの皆さんからのメッセージのことを
山内さんに伝えたところ、とても喜んでいて、
ぜひ多くの方に読んでいただきたいとおっしゃっていました。
ちなみに、山内さんは来年、新刊が出る予定だそうです。
こちらも楽しみですね!

さて、話を『新版 いっぱしの女』に戻します。

著者の氷室冴子さんは、
1980年代から90年代にかけて活躍された作家さんで
2008年にお亡くなりになりました。

『なんて素敵にジャパネスク』や『クララ白書』、
スタジオジブリがアニメ化した『海がきこえる』
といったヒット作で知られています。
昔よく読んだわ〜。懐かしい〜。という方もいるのでは?
私は氷室さんと言うと「コバルト文庫」の印象が強いです。

『いっぱしの女』は、氷室さんが30代のころ、お書きになったエッセイです。
1992年の今から約30年前に書かれたのですが、まったく古さを感じません。
それどころか今の時代に合っているのです。

もし今、このエッセイに書かれているようなことをSNSにアップしたなら、
きっとたくさんの「いいね」がつき、そして拡散されると思います。

当時、氷室さんは様々なインタビューを受けながら違和感を感じていたそうです。
何でこんな質問をするんだろう?とか、
あとからインタビュー記事を見た時に、私こんな言い方してたっけ?とか。
記事ではキャピキャピの女の子語になっていることが多かったそうです。

そこで、自分がどういう“三十女”なのか、知ってみたいと思って
エッセイを書くことにしたのだとか。

エッセイは、人との会話の中で感じた違和感などが正直な言葉で綴られています。

「違和感」は伝え方次第では「ただの愚痴」になってしまいますが、
氷室さんの場合は、読んでいて共感できますし、
時には相手を打ち負かすこともあり、スカッとします。

例えば、独身の氷室さんはそれだけで
年上の既婚女性から嫌なことを言われることもあるものの、
その女性に対して、相手が黙ってしまうくらいの一言を放ちます。

また、氷室さんは「あなたってこういうタイプよね」と言われる度に、
そのイメージの枠に押しこめられてしまいそうで嫌だったそうです。

これ、私も苦手です。
「田島ってこういうタイプだよね」と言われる度、
それとは逆のことをしたくなりますもん。(笑)

あと、「女ってこうでしょ?」という言い方にも注意が必要だと言います。
氷室さんですら使ってしまい、「女」を「私」に書き直していたそうです。

確かに「女って他人の不幸が好き」のような
女性をひとくくりにするような言葉って
少し前までは当たり前のように使われていましたよね。
さすがに令和の今は、そういった決めつけは前よりは減ってきたように感じますが。

でも、氷室さんは30年前からその違和感に気付いていたのですよね。さすがです!

『いっぱしの女』は、約30年前の本なのに、まったく古びていません。
もちろん、懐かしさを感じる話題もありますが、でも感覚的なものは今と変わりません。

令和の今、復刊されたのは、やっと時代がこの本に追いついたということなのかも。
ほんとこの本を読んで良かった!

ぜひ男女問わずお読みください。
きっと大事な気付きがたくさんあると思います。

***

今日はもう一冊!
クリスマス前なので、クリスマスプレゼントにオススメの本です。

『ちいさな手のひら事典 薬草(グラフィック社)』

こちらは、富山県美術館のミュージアムショップで買ったものです。

レトロな装丁の可愛さに惹かれ買ってしまいました。
サイズは手にすっぽり収まるくらいで、
ページの縁は金で彩られていて華やかなので、
クリスマスプレゼントにもいいと思います。

「小さな手のひら事典」シリーズは、
「花言葉」「月」「魔女」「天使」「ねこ」
などもあります。

ちなみに、ミュージアムショップで一番人気は「ねこ」だそうです。
私は「花言葉」が欲しかったのですが、無かったので「薬草」にしてみました。

ハーブなどの薬草の由来や効用がイラストともに紹介されています。

例えば「ラベンダー」という名前は、
古代ローマ人が、ラベンダーで湯に香りをつけて入浴していたことから、
ラテン語で「水で洗う」という意味の「ラヴァーレ」にちなんでいる、
といったようなことが載っていて、読み物としても楽しめました!

***

さて、毎年最後の「ユキコレ」では、
私、田島が選ぶ「本ランキング」を発表しています。

本来なら12月29日が年内最後の水曜日なのですが、
今年は年末の特別編成につき
12月28日(火)が、私が担当する年内最後のgraceになります。

いいですか。火曜日ですよー。

なお、29日(水)30日(木)のgraceはありません。
来週は、27日(月)が垣田さん、28日(火)が田島です。

そして、「ユキコレ本ランキング」は、28日(火)の14時25分ごろ発表します。
合わせてこちらのブログにも同じ内容でアップしますので、
どうぞよろしくお願いします。

さて、私はどの本を今年の1位にするのでしょう?
良かったら皆さんの今年1位の本も教えてください!

yukikotajima 11:56 am

『虚魚』

2021年12月15日

あなたは肝試しをしたことはありますか?
また怪談はお好きでしょうか。

私は子どもの頃からかなりの怖がりで、
家族で旅行に行っても夜の宿の雰囲気が怖くて寝られず、
子どもの頃は母の手をずっと握り続けていました。

なぜこんなに怖がりになったのかというと、多分、テレビのせいかと。(笑)

私が子どもの頃は、テレビで怖い話をよくやっていたんですよ。
見なきゃいいのに、なぜか見てしまって
夜、なかなか寝られないなんてことを繰り返していました。

さすがに大人になった今は、怖がりも落ち着きましたが、
積極的に肝試しをしたいとは思いません。

でも、あえて怖い場所に積極的に行く人たちもいるようです。

今日ご紹介する本は、本当に人が死ぬ怪談を探し、
その怪談が本物かどうか確かめ続ける若い女性二人の物語です。

『虚魚(そらざかな)/新名智(にいな・さとし)【角川書店】』

新名さんは、この作品で横溝正史ミステリ&ホラー大賞大賞を受賞しデビューしました。

この賞は、歴史ある「横溝正史ミステリ大賞」と「日本ホラー小説大賞」を
2018年に統合した新たな文学新人賞のことです。

『虚魚』は、選考委員の皆さんから絶賛され大賞受賞となったそうです。

たとえば、『闇祓』が話題の辻村深月さんは、

怪談と怪異を巡る新たな小説の形が一緒に解き放たれた、と感じた。文句なしの大賞。

と評しています。

***

『虚魚(そらざかな)』とは、どんなお話なのか、ご紹介しましょう。

20代の女性二人、三咲とカナちゃんは、ある理由から一緒に暮らしています。
実は二人の利害関係が一致しているのです。

三咲は、怪談師として活躍しており、
日本各地の「体験した人が本当に死ぬ怪談」を集めています。

両親を事故で亡くした三咲は、
幽霊や怪談、呪いや祟り、オカルトや超常現象などの情報を集めては、
その怪談で両親を事故死させた男を殺したいと思っています。
呪いや祟りなら法律を犯すことなく殺せるからと。

一方のカナちゃんは、ある理由から、呪いか祟りで死にたいと思っています。

三咲は初めてカナちゃんに会ったときに「わたしで実験してみなよ」と言われ、
二人はともに暮らし、様々な怪談を試し続けています。

ところが、どの怪談も嘘ばかりです。

そんなある日、「釣り上げた人が死んでしまう魚がいる」という噂を耳にします。
三咲は早速、その怪談を調べ始めます。
すると、同じ川の河口で似たような怪談がいくつも発生していることがわかります。

様々な噂をまとめると、
その魚は言葉を発し、その言葉を聞いたことで死んでしまうらしいことがわかります。
いったいその魚とは?

二人は様々な人から協力を求め、その不思議な魚を探しことにします。

果たして、その魚とは?
そして、二人の目的は達成できるのか。
(となると、カナちゃんは呪い殺されてしまうわけですが…)
どんな結末が待っているのか。
ぜひドキドキしながら本のページをめくってみてください。

***

私、怖い話は苦手なのに!
最近、ホラー系にも手を出すようになってしまいました。(笑)
そして、この本も怖いと思いながらも
結局ノンストップで最後まで読んでしまいました。

三咲とカナちゃんの二人のキャラクターが程よくドライで、
文章もテンポがいいので、ページをめくる手は止まらず、サクサク読めました。

だからと言ってサラリと読めてしまうかといったら、そういうわけでもありません。

ちゃんと怖いです。(笑)それも色んな意味で。

三咲とカナちゃんと一緒に「本物の怪談」を探している気分で
本のページをめくってみてください。

二人はいったい何を見つけるのでしょうか。

yukikotajima 11:10 am

『冬を越えて』

2021年12月8日

昨日は二十四節気の一つ「大雪(たいせつ)」でした。
まさに大雪の降る頃と言われています。
富山は先週の木曜日に初雪を観測して以来、雪は降っていませんが、
これからどんどん寒さが厳しくなっていきます。

今日もどんよりとしたおなじみの北陸の冬の空の色をしていますが、
この鉛色の空が続くことで、
冬は元気が出ない…という方もいるかもしれません。

冬には「冬季うつ」もありますしね。

日照時間が短くなると起きるとも言われているうつ病のことで、
悲しみや絶望感、過眠、過食などの症状があるようです。

また、季節と関係なく、人生そのものを四季にあてはめ、
良くないことが続いたときにも「冬の時代」と言うことがありますよね。
あなた自身は、今どの季節の状態でしょうか?
また、これまで何回、人生の冬を経験してきたでしょうか。

今日ご紹介する本は、そんな「冬の時代」を過ごす
40歳の女性の「人生体験記」です。

『冬を越えて/キャサリン・メイ 訳:石崎比呂美』


この本は、イギリスでは去年2月に発売され、
11月にコロナ禍のアメリカで発売されたところ話題になり、
『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラー入りを果たしたそうです。
そして、現在では20を超える国での出版が決まっている世界的な話題作です。

著者は、ロンドン近郊の町に住む女性です。

四十歳を目前にストレスから仕事を辞めることにした直後、
夫が病気で倒れてしまいます
その後、自分自身も体調を崩し、
さらに息子も不登校になってしまうなど、
まさに冬の時代を過ごしています。

著者によると、人生の冬は突然やってくることもあれば、
ゆっくり忍び寄ることもあるそうです。
そして、その冬を避けることはできないのだとか。

でも、著者は10代の頃から冬の過ごし方を学んでおり、
冬がやってきそうな頃にはわかるようになったそうです。

では、冬の時代がやってきてしまったとき、どうすればいいのかというと、
春が来るまで、できるだけ快適に冬を乗り切る方法
を見つけることが大事なのだとか。

冬がやってきてしまった著者は、
冬をよく知る人たちと話をし、冬に対する理解を深めていきます。

たとえば、家で静かに手を動かす仕事もいいそうで、
編み物にはヨガと同じくらい血圧を下げ、
慢性痛を緩和する効果もあるそうです。

冬季うつの方からは、家じゅうの電球をすべて明るいものに変えて、
点けっぱなしにしているという話を聞きます。

また、話を聞くだけでなく、どうやって冬をしのぎ、春を迎えるのか、
著者自身、実際、色々試していきます。

アイスランドに旅に行ってサウナに入ってみたり、
真冬の海に入る冷水浴をしてみたり。

とは言え、冬の時代を快適に過ごす方法は人によって違います。
ですから、この本でも「こうすれば絶対に元気になる!」
というような決めつけはしていません。
だからこそ信頼できますし、読んでいて疲れません。

今まさに、冬の時代を過ごしている方は、
あなたは自身の方法で心と体をいたわってみませんか。
この本を読むのも、ひとつの方法かと思います。

そうそう!

「冬の時代」というと、
まるで冬が悪者のように思えてしまいますが、
悪いことだけではありません。

冬は考えを深め、身体を休める時期であり、
暮らしを整え、英気を養うための季節だと著者は言います。
冬の木も死んでなどいない。春に備えているだけだと。

また、すべてが壊れるときは、なんでも手に入れるチャンスで、
それこそが冬の贈り物だと言います。

冬の時代を過ごしている方は、
読んだ後、すこ〜し春が近づいたように感じられるのではないかしら。

気になる方は、無理せずご自身のタイミングで読んでみてくださいね。

yukikotajima 12:27 pm

『夜が明ける』

2021年12月1日

今、あなたは何かに対して頑張っていますか?

仕事、趣味、勉強、家事など
人によって力を入れていることは異なると思いますが、
いずれにしても、あなたを突き動かす原動力はなんでしょう?

今日ご紹介する小説は、
友人から、ある俳優に似ていると言われたことで、
その俳優になりきることを人生を捧げた男性「アキ」と、
そのきっかけを作ってしまった友人である「俺」の物語です。

『夜(よ)が明ける/西加奈子(新潮社)』

物語は「俺」の目線で進んでいきます。

二人が出会ったのは高校時代です。
「俺」はいたって普通の家庭で育ちましたが、
アキは、母親にネグレクトされていました。
また、アキは身長が191センチもある上、
高校生らしい溌剌とした雰囲気は無かったため、
みんなから恐れられていました。

共通点などない二人でしたが、「俺」がアキに
「知る人ぞ知るフィンランドの映画に出てくる俳優に似ている」
と伝えたところから、交流が始まります。

そして、その俳優になりきることがアキの人生の目的になり、
学校内でもモノマネをし始め、気付けばアキは人気者になります。

二人の交流は、高校を卒業して離れ離れになってからも続いていきます。
「俺」はテレビの制作会社に就職、アキは劇団に所属してと
二人とも夢に向かって頑張り始めます。
ところが、2人とも理不尽なことも多く、なかなか思い通りにはいきません。
そして、気付けば33歳。
大人になった二人はそれぞれどんな人生を送っているのか。
ぜひこの続きは、本のページをめくってみてください。

10代後半から30代前半の二人の男性の物語には、
今の日本の問題がぎゅうっと詰まっていました。
働いても働いてもお金が足りないという貧困と過重労働の問題、
職場でのパワハラ、親から子への虐待…。

とくに「俺」が働くテレビの制作の現場が酷くて、
体力もやる気もあった「俺」がどんどん壊れていく様が
リアルな温度と質感で描かれているため、
読んでいるうちに「俺」が私自身のような気がしてきて、
辛さを自分のこととして感じている私がいました。

肩書きだけで偉そうな人に対して苛立ちを感じながらも何も言えず、
その一方で上の立場の人にも正論を堂々と言える正しすぎる女性の後輩。
一見いい人にそうに見えて、自分の思い通りにさせようとする年上の女性。
突然いなくなるADたち。文句ばかりの出演者たち。
もうこれでもかというほど、ストレスが積み重なっていきます。

読みながら本当にしんどくなりました。
もはや私は本を読んでいるのか、体感しているのかわからなくなるほどでした。

西さんの文章からは、温度とか匂いとか表情とか音とか
感覚的なものすべてが実際、感じられるのです。
そのため、西さんの作品を読む度、作品の世界に入りすぎちゃうのです。

今回も入り込みました。
だからこそ、読み終えたときに光が見えました。
今回の本のタイトルの『夜が明ける』の通り、
読み終えた時、視界が、そして心が、明るくなるのを感じました。

頑張っても頑張ってもうまくいかない。
それは、自分の努力が足りないから。
自分ができない人間だから。
全ては自分のせい…。
と、思っている方はいませんか?

そんな方にはぜひこの本の言葉に出合ってほしいと心から思います。

それから、読み終えたら、本のカバーも外してみてくださいね。
本のヌードも素敵ですから。
読んだ人だけがわかる感動がありますよ。

ちなみに躍動感ある力強いタッチの表紙のイラストは
西さん自身がお描きになっています。

yukikotajima 11:39 am

『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』

2021年11月24日

あなたのまわりには「頭のいい人」はいますか?
また、あなた自身は「頭のいい人」になってみたいと思いますか?

そりゃあ「頭のいい人」になってみたいけれど、
そんなの無理に決まってるよ、と思いました?

でも「頭のいい人」がどんなことをしているのか知ることはできます。
そして、それを真似することで、人生がちょっと生きやすくなるかもしれません。

今日ご紹介する本はこちら。

『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた
/中野信子(アスコム)』

著者は、脳科学者の中野信子さんです。

中野さんは、東京大学を卒業し、
東大の大学院で医学博士号を取得した後、
フランス国立研究所に研究者として勤務し、
世界中のたくさんの「頭のいい人」の姿を見てきたそうです。

そして、逆境も自分の見方にして、したたかに生き抜いていくのが、
世界で通用する、本当に賢い人の要件だと強く思われたそうです。
と同時に、日本人にはそれが足りないと。

でも、少し意識を変えるだけで「頭のいい人」には誰でもなれるそうです。

そして、脳のメカニズムから見ても
「世界で通用する頭のいい人」がやってきたことは
理にかなっているそうなんです。

では、具体的に「頭のいい人」はどんなことをやっているのか、
少しご紹介しましょう。

苦手なことはきっぱりと断る

苦手なことはできる人に任せる。
人は誰かに頼りにされると嬉しいものなので、
結果的に頼んだ人も頼まれた人もハッピーというわけです。

逆に自分で抱え込んでしまってはいい結果は残せないそうです。

決まった儀式を行う

勉強や仕事の前に集中力が高まる動作をする。
中野さんの場合は、サイフォンで美味しいコーヒーをいれているそうです。

また、どうしてもやる気が出ない時は
「ちょっとだけガマンして、5分間だけ集中してやってみる」
と、脳は勝手に勉強モードに入ってくれるのだとか。

集中力を身につけるのではなく、集中できる状態を作る

詳しくはこの本を読んで頂きたいのですが、
途中で邪魔が入らないようにすることも大事なんですって。
たとえば、スマホのメッセージを見てすぐに返信したとしても、
頭をもとの集中状態に戻すのに30分以上かかることもあるそうですので、
集中したい時は、スマホは見えないところに置いたほうが良さそうですね。

生きる指針も友となる人物も本の中では必ず出会える

これは本好きの私が一番共感したことです。
私には味方はいないなと思っても本の中には絶対にいる、
と考えれば、前向きに色々なことに挑戦していけるそうです。
確かにその通りです!

ちなみに、本ではなく「マンガ」を使って勉強するのもいいそうです。
著者の中野さんは受験生時代に
あるマンガを地理の先生からすすめられたそうです。
この作品、有名ですが私はちゃんと読んだことが無いので、
今度、読んでみようと思います。
マンガのタイトルはぜひ本を読んで確かめてください。

という感じで「世界で通用する頭のいい人」たちの
31の習慣が紹介されています。

ぜひあなたもこの本を読んでできることから始めてみてはいかがでしょう?
中野さんによると、3週間続けることがポイントだそうです。

今から本を読んで3週間というと、ちょうど年末年始の頃ですね。
新しい年を新しい自分で生きていくのも良さそうじゃないですか?

yukikotajima 11:47 am

『闇祓』

2021年11月17日

セクハラ、パワハラ、モラハラをはじめ
今や様々なハラスメントがありますが、
こちらは聞いたことはあるでしょうか。

ヤミハラ

ヤミハラとは、闇ハラスメントの略です。
闇ハラスメントは、精神・心が闇の状態にあることから生ずる、
自分の事情や思いなどを一方的に相手に押しつけ、不快にさせる言動・行為。
本人が意図する、しないにかかわらず、相手が不快に思い、
自身の尊厳を傷つけられたり、脅威を感じた場合はこれにあたるそうです。

ヤミハラなんて初めて聞いた!という方もいるかもしれませんが、
人気作家の辻村深月(つじむら・みづき)さんが作った言葉です。

今日ご紹介する本は、10月29日(金)に発売されたばかりの
辻村さんの小説『闇祓(ヤミハラ)』です。

辻村さんはこれまで様々な賞を受賞されていますが、
最近では2018年に『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞されました。
この本、とても良かったです。まだお読みでない方はぜひ!

今回の『闇祓』は、辻村さんにとって初の本格ホラーミステリ長編です。

物語は5つの章にわかれており、
学校、職場、団地などの様々な場所でのヤミハラが描かれています。

つまり、どこにでもヤミハラは存在するということです。

第一章は、高校2年生の澪(みお)が主人公です。
クラスの委員長で、周りからは「優等生」と言われ、
自分でも人に対して気を遣いすぎると思っています。

そんな澪が、転校してきたばかりでクラスになじめずにいる
男子に対してもいつも通り親切に接したところ、
ずっと見つめられたり、突然、家に行っていいか聞かれたりしてしまいます。

恐怖を感じた彼女は、憧れの部活の男子の先輩に助けを求めます。
頼りがいもあって優しい先輩に澪はどんどん惹かれていきます。

しかし、ある日、転校生から「先輩と仲良くするな」と言われてしまいます。

この続きは、ぜひ本を読んでみてください。

第一章だけでもかなり濃かったです。
この後はきっとこうなるのでは?という私の予想は簡単に裏切られ、
別の恐怖が襲ってきました。いやあ、ほんとこわかった!

そして、第二章も同じパターンでくるのかしら?と思ったら、
こちらもまたまた予想が外れまして、
本のページをめくりながら、ずっとドキドキしていました。

学校にも会社にも近所にもヤミハラをする人たちはいるもので、
一見いい人そうだったり、優しそうだったりする人から
ヤミハラをされることもあるので注意が必要です。

距離感がおかしく、一方的に自分の都合や事情、思いを押し付ける人、
あなたのまわりにもいませんか?

この人おかしい!と思って離れられればいいけれど、
追いつめられることで、考えることすら嫌になってしまうこともありますよね。

この物語にも自分が一番正しいと思っている人が出てきます。
職場の上司がそういう人で、間違いを指摘しても全く伝わりません。
そして、部下は思うのです。この人には絶望的に、言葉が通じないと。

時々いますよね、こういう人。
自分の話ばかり押し付けて、全く人の話を聞かない人。

そういう人の話を聞いた後の疲労感たるや。。。
でも、その方は、逆に元気になっていたりるすのですね。
話をしながら元気を奪っているんじゃないかなと思いますもん。

わかるー!今、共感された方もいるかもしれませんが、
今、ちょっと気持ち良くないですか?

自分のほうが正しいと思って、
間違っている人を非難しているときって、
ちょっと快感だったりしませんか?

でも、その正しさが行き過ぎると、それもヤミハラになります。
この物語にも正しすぎる人が出てきます。

他にも様々なヤミハラがこの物語には出てきます。

ちなみに、本のタイトルはヤミハラと読みますが、
カタカナではなく闇を祓うという漢字が使われています。
その意味については、ぜひ最後まで本を読んで確かめてください。

本当はもっと色々言いたいことはあるのだけど、
なるべく情報はいれずに読んでいただきたいので、だいぶ我慢しました。(笑)

『闇祓』は、フィクションですが、どこまでもリアルな物語で、
読み終えた直後に、まさにヤミハラを感じた出来事が続きまして、
ヤミハラという言葉を知らなかったときは嫌だなという感情だけでしたが、
ヤミハラ認定すると、結構ヤミハラってあふれているのかもと思いました。

と同時に私がヤミハラ加害者にならないようにしなければ、とも思いましたが。

あなたも『闇祓』で様々なヤミハラを客観的に見てみませんか?
そうそう、もちろん怖いだけでなく、物語としても大変面白かったです!

yukikotajima 11:37 am

『君の顔では泣けない』

2021年11月10日

毎週水曜のgraceでは13時45分頃からの「ユキコレ」
様々な本をご紹介しています。

今日ご紹介する本は、小説野性時代の新人賞を受賞した話題作です。

『君の顔では泣けない/君嶋彼方(きみじま・かなた)【角川書店】』

9月の終わりに出たばかりなのですが、
この本、今、話題になっているようです。

ここまでの情報だけで「読んでみたい!」と思った方は、
今日の私のブログは読まないでください。(笑)

内容に関する情報を一切いれずに読んでいただいたほうが
え?どういうこと?という心地いい裏切りが味わえますので。

でも、そうなると、この本の紹介が一切できないので、
少しのネタバレならOKという方は、最後までブログをお読みください。(笑)

では、紹介していきます。

***

この本は、こんな一文でスタートします。

年に一度だけ会う人がいる。夫の知らない人だ。

この一文からどんなことを想像しますか?

私は不倫のお話かなと思いました。

夫と娘を残して、ある人に会いに行く妻。
そのある人というのは地元の男性であることが分かります。
久しぶりに会った二人は喫茶店で会話を始めます。

でも、女性のほうは自分のことを「俺」と言い出します。
そして、相手の男性はどうやら女性であることがわかります。

ん?私、名前を勘違いしてる?どういうこと?
と、ここで一度こんがらがります。(笑)

もしかして心と体が一致していない二人の物語?
そして、それを結婚した旦那さんに伝えていないということ?
と思いながらページをめくったところに答えが書かれていました。

二人は15年前に体が入れ替わってしまったようなのです。
しかも一度も体は元に戻っていないのだとか。

女性になった彼は、なんと結婚もして出産までしています。

二人が入れ替わったのは高校一年生の時です。
きっといつかは戻るだろうと思って
入れ替わったことは二人だけの秘密にすることにします。

家族にも友人にもバレないよう
二人はそれぞれの家のルールや家の間取りの他、
好きな食べ物など、お互いのことを伝え合います。

そして、二人はそれぞれ自分の顔を見ながら話をするわけですが、
彼は自分の辛そうな顔を見るのは、辛いと思い、あることを誓います。

元に戻った時に体の本来の持ち主である彼女が辛い思いをしないよう、
女性として完璧に生きて、家族も友人も騙してみせると。

物語は、入れ替わってから15年後と
入れ替わった当時のことが交互に描かれていきます。

また、交互というと、こういった入れ替わりの物語の場合
男女それぞれの視点で描かれることが多いですが、
この物語は、女性になった男性の目線だけで進んでいきます。

そのため女性になったことで感じたことがメインになっているのですが、
あまりにも女性の体や心のことが丁寧に描写されているので、
私は著者は女性だと思って疑いませんでした。

でも、読み終えた後に著者のことを調べたらなんと男性だったのです。
びっくり!

ちなみに主人公の彼は、女性になったことで
世の中の女性たちが様々な努力をしていたり
理不尽な思いをしていたりすることに気付きます。

また、客観的に自分の家族を見ることになるのですが、これが生々しかった。
他人だから仕方ないのだけど、態度がよそよそしいのです。

男女が入れ替わる物語は数多くあれど、
この物語からは今の時代の空気感を感じました。
また、設定はファンタジーだけど感覚的なものはとてもリアルでした。
一言でいうなら浮ついていない感じです。

物語では、2人が入れ替わってからしばらく経った時に、
男性になった彼女のほうは、自分の状況を受け入れ
「私は好きなことをする」と言い出します。

それに対し、彼は相変わらず元に戻った時のことを第一に考えています。
戻った時に自然にふるまえるように
彼女らしく生きていくことに力を注いでいます。自分らしく、ではなく。

果たして入れ替わった二人はその後どう生きていくことになるのでしょうか。

***

大変面白かったです!

この二人は、入れ替わったことを二人だけの秘密にしていますが、
この世界にたった一人でも自分のことをわかってくれる人がいる、
というだけで生きやすくなったりするのですよね。
もちろん100%全てを理解し合うことは絶対に無理です。
でも、味方がいるということは心強いよなと。

ちなみに、この物語では主人公の2人は恋愛関係にはありません。
それがいいなあと思いました。
男女の友情は成り立つのか?というような議論が以前はよくありましたが、
そうえいば最近は聞かなくなりましたよね。

恋愛に発展しない男女の物語は今後増えていくのかも。

そして、この物語、近いうちにきっとドラマ化されそうな予感がするわ。

yukikotajima 11:33 am

『すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険』

2021年11月3日

コロナ禍以降、健康への意識が高まった方もいらっしゃるのでは?

私もそんな一人です。
去年一年間の運動不足の結果、体重がじわじわと増え、
これではいかん!と思って運動を再開しました。
最近は、11月7日の富山マラソンに向けて練習をする日々を送っています。
あー、いよいよだ!緊張する〜。
富山マラソンへの参加を決め、トレーニングをするようになってから、
自分の体についても考えるようになりました。

今日ご紹介するのは「人体のしくみ」について書かれた本です。

『すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険
/山本健人(やまもと・たけひと)【ダイヤモンド社】』

こちらは、9月1日の発売以来、発行部数が8万部を突破したという話題作です。

著者の山本健人さんは、現役の医師です。
また、「外科医けいゆう」としてSNSやブログで情報を発信しています。
Twitterのフォロワーは8万人という人気のお医者さまです。

山本さんによると、医学を学ぶことは、途方もなく楽しくて、
知れば知るほど、学ぶことの楽しさが増していくそうです。

そして、この学ぶこと知ることによる興奮を多くの人に味わってもらいたい!
と思ってこの本を書かれたそうです。

確かに、文章から山本さんのワクワク感が伝わってきました。
私は山本さんにお会いしたことはありませんが、
目をキラキラ輝かせながら文章をお書きになっていたのがわかりました。

医学の本と言うと、知らない&難しい言葉だらけで
頭の中に全く文章が入ってこないイメージでしたが、
この本は、まるで山本さんのお喋りを聞いているかのごとく、すいすい読めました。

もちろん知らない言葉もたくさん出てくるのですが(笑)、
実際に読者に「こうやってみて!」と自分の体で実験させたり、
難しい話もわかりやすい例えを交えながら説明しているので、
飽きずに読み進めることができるのです。

実験の例をいくつかあげますね。

2本のペン先を体の表面に当てて、その間の距離を縮めていくと、
ある距離から「二点で触れられていること」がわからなくなるのだとか。

また、右手で握りこぶしを作って親指を立てて、
目をつむって、何も見ずに左手で右手の親指をつかんでみる実験もあります。

こちらはすぐにできますので、ぜひやってみてください。
どうですか。きっと簡単につかめたのでは?

こんな感じで実際に試しながらなので理解もしやすいのです。
ちなみに、今挙げた2つの理由については、本を読んで確かめてくださいね。

他にも、高温多湿の夏に食べ物は腐るのに、なぜ人間は腐らないのかとか、
医師のガウンは白ではなく水色である理由とか、
医療ドラマでよく出てくる「メス」は意外に使わないとか、
興味がわきやすい話題が多いのです。
ちなみに、手術に使われる金属製の器具には、人物名のついたものが多いそうです。
日本語なら「田島!山口!」などど呼び続けているようなものなんですって。(笑)


さて、『すばらしい人体』は、5つの章にわかれています。

まずは、人体の構造がいかによくできているかから始まり、
その美しい人体がどのような経緯で「病気」という状態に至るのか、へと続きます。
そのほか、医学の偉人たちの功績や、最新の健康の常識、
医学に進歩をもたらした科学技術などの章もあります。

私が特に好きなのは、偉人たちの物語です。
偉人たちがどのように病気や治療薬を発見したのかが綴られているのですが、
ノーベル賞を受賞した人たちがいる一方で、
世界で初めて真実にたどり着いたのに
その功績が認められなかった天才医師も少なくないんですって。
誰よりも先取りし過ぎて誰にも理解してもらえなかったのです。

『すばらしい人体』は、医学に関する知識を得る面白さがあるのはもちろん、
読み物としても大変面白い一冊でした。

読んだ後は、日々頑張っている自分の体に対して
「いつもありがとう!」とねぎらいたくなりましたし、
大切にしていきたいとも思いました。

あなたも「人体のしくみ」について楽しく学んでみませんか?

yukikotajima 10:53 am

『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』

2021年10月27日

親元を離れて一人暮らしをしている時に
ご実家から段ボールに入った荷物が送られてきたことがある方もいるのでは?

富山の場合、富山米、家でとれた野菜、今の時期なら柿あたりが入っているのかな。
手作りのお惣菜が入っていることもあるかもしれませんね。

それに加えて、あまりオシャレじゃないババシャツや靴下、
どこかでもらった社名入りのタオルが隙間に入っていた
なんて思い出のある方もいるのでは?

こっちでも買えるし、こんなダサいの着られないよー!
と箱に向かって文句を口にしながらも、本心では嬉しかったりするのですよね。
そして、たいていの場合、「何これー」と突っ込みながらも目は潤んでいます。

ドラマなどでもよくこういうシーンが出てきますよね。
私も見るたび、もらい泣きしているような気がします。

あなたには、家族から送られてきた荷物にまつわる思い出はありますか?

今日ご紹介する本は、そんな荷物にまつわる物語です。

『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか/原田ひ香(中央公論新社)』

原田ひ香さんというと、以前ラジオでご紹介した
『三千円の使いかた』がこの夏、文庫化され再び注目されています。
また『ランチ酒』シリーズも人気の作家さんです。

新作は、書店で本のタイトルを見た瞬間、思わず手を伸ばしてしまいました。

まるで母親からの小包を調査分析した新書のようなタイトルですが、小説です。
荷物にまつわる6つのお話が収録された短編集です。

どんなお話が入っているのか、いくつかご紹介しましょう。

「上京物語」は、短大進学を機に東京で一人暮らしを始めた岩手出身の女性の物語です。
楽しみにしていた東京生活でしたが、
頼れる知人もいなければ、友人も上手く作れず寂しい日々を送っています。
そんなある日、東京に行くことを反対し、
上京後も干渉してくる母親と電話で喧嘩をしてしまいます。
その直後、母からの小包が届きます。
そこに入っていたものを見て彼女は涙します。
いったい何が入っていたのでしょう?

「擬似家族」は、業者から買った野菜を「実家から」と偽る女性のお話です。

「北の国から」は、父亡き後、父宛に毎年、北海道から届いていた
荷物の送り主の女性が誰なのか気になって仕方ない息子の物語です。

「最後の小包」は、タイトル通りのお話です。
母から届いた最後の荷物にまつわるお話で、涙が止まりませんでした。

どのお話も普通の家族の物語です。
甘えているからこそ親に対して強い口調になってしまったり、
本心をなかなか言えなかったり、
話をしたくてももう亡くなっていてできなかったり。
中には、ひどい親から逃げた人もいます。
親子と言えども状況も関係性もバラバラです。

彼らは送られてきた「荷物」を介して、
それぞれの自分の問題と向き合っていきます。

どれも温かくていいお話でした。
中には感情の激しいものもあるけれど、その分、気持ちが伝わってきました。

秋の夜長に1話ずつ読み進めてみては?
寒い夜も温かな気持ちになれると思います。

ちなみに、今日から「読書週間」です。
毎年、読書週間に合わせて標語が発表されるのですが、
この標語を私は毎年楽しみにしています。

今年の標語はこちら。

「最後の頁を閉じた 違う私がいた」

「いいね」を押したい気分。(笑)
これ、よくわかります。
たった一冊の本を読んだだけでなのに、
読む前とは違う自分になっている感覚、私もよくあります。

普段そんなに本を読まない方や最近読書がご無沙汰気味の方は、
この読書週間中だけでも何か一冊お読みになってみてはいかがでしょう。

読書週間は11月9日(火)までです。

yukikotajima 11:46 am

『民王 シベリアの陰謀』

2021年10月20日

毎週水曜のgraceでは13時45分ごろからの「ユキコレ」で本をご紹介しています。
9月29日のユキコレでは、山本文緒さんの短編集『ばにらさま』をご紹介しました。

◎田島の本紹介は コチラ

二度読みしたくなる短編集で、短いお話ながらも「え?どういうこと?」
という驚きに満ちた読書の面白さを堪能できた一冊でした。

そして、次作も楽しみだなと思っていたところ、山本さんの訃報が飛び込んできました。

多感な学生時代、私は山本さんの作品に大変影響を受けました。
どれだけ励まされ、泣かされ、大事なことに気付かされてきたことか。
山本さんのおかげで豊かな時間を過ごすことができました。
本当にありがとうございました。
私が訃報を知ったのがランニングの途中だったのですが、
走りながらサングラスの中で涙が止まりませんでした。

これからは、これまで発表されてきた作品をあらためて読んでみます。
本のページを開けば、いつでも山本さんに会えますしね!
心よりご冥福をお祈り申し上げます。

***

さて、今日ご紹介する本は、池井戸潤さんの最新作です。

『民王(たみおう)シベリアの陰謀(角川書店)』


こちらは、2015年にドラマ化され話題になった『民王』の続編です。

総理大臣と大学生の息子の心と体が入れ替わってしまうという物語で
ドラマでは父を遠藤憲一さんが、息子を菅田将暉さんが演じました。

漢字は読めないし、すぐに逃げたがる情けない息子ですが、
性格は穏やかで優しいため、国民の心を動かすこともあります。
一方、息子になった総理は、息子のことを何も考えていないバカだと思っていましたが、
そうではないことに気付き始めます。
入れ替わったことで、お互いの気持ちがわかったり大事なことに気付いたりします。

ドラマはテンション高めの演出のなので、笑いながら楽しく見ることができます。
でも、現代的な問題もしっかり描かれているので、
ただ笑って終わりではないところがいいのです。

今回、新作の小説を読む前にドラマを見直してみたのですが、
あらためていい作品だと思いました。

ドラマはネット配信で見ることができますので、まだご覧になっていない方はぜひ!

私はドラマをみたあとは原作も読んで徹底的におさらいをしてから
最新作の『民王 シベリアの陰謀』を読みました。
ちなみに、ドラマ版より原作のほうが息子君がしっかりしているというか、
ややチャラい感じです。(笑)

新作も総理と息子の物語なのですが、
息子は大学を卒業して無事就職、父は第二次内閣を発足させたばかりです。

新作は去年から今年にかけての「今」が反映されていました。
でも、すべて同じではありません。
物語の世界ではコロナではなく「マドンナ・ウイルス」が広まっています。
このウイルスは発症すると凶暴化してしまうのです。

総理は現実世界と同じく対応に追われます。
しかし、陰謀論まで出てきてしまい、国民から嫌われる一方です。
また、野党からの攻撃や、生きる化石のような与党の長老たちからも圧力をかけられ、
気付けば周りは敵だらけです。

総理はこの状況を変えることはできるのか。
そもそもマドンナ・ウイルスとは何なのか。
総理と息子はウイルスの謎に迫ります。

今回も痛快でした!
フィクションとはいえ、これは本音だなと感じる言動も多く、
笑いながらも客観的に今の世の中を見ている気分にもなりました。

印象に残ったセリフをいくつかあげます。

・否定なんか誰にでもできる。否定するなら代替案を出せ。
・日本がダメになる前に、すでに日本人がダメになっている。
・世の中は“気分”で流されていく。

昨日公示された衆議院選挙の期日前投票が今日から始まりました。
新作の『民王 シベリアの陰謀 』は政治への関心が高まっている
今の時期にぴったりの作品だと思います。

もし自分が総理だったら?という気持ちで読んでみるのも楽しいかも!

yukikotajima 11:24 am

『かぞえきれない星の、その次の星』

2021年10月13日

最近、世の中は以前とはスタイルを変えた形で
少しずつ前へと動き始めましたが、
コロナ禍になって様々なことがストップしましたよね。

会いたい人に会えなかったり
大学に入学したものの家で一人でオンライン授業を受けていたり
仕事も職場には行かず家で一人でしていたりと
さみしさを抱えていた方もいたことと思います。
それこそ誰とも喋らない日もあった方もいるのでは?

今日ご紹介する本は、さみしさと希望を描いた重松清さんの最新作です。

『かぞえきれない星の、その次の星(角川書店)』

重松さんは今年作家デビュー30周年だそうです。
おめでとうございます!

最新作は11の物語が収録された短編集です。

私はこれまで重松さんの作品を読む度に泣いてきたので、
書店でこの本を手に取った時に、
きっと泣くのだろうなと覚悟していましたが、予想通りでした。

重松さんの優しいまなざしに泣かされました。

誰にも言えない、さみしかったり辛かったりする心の内を
重松さんは丁寧に描いていきます。

また、視点もユニークで、小学校の「こいのぼり」や
神社の「かえる」の目から見たコロナ禍の物語や
何百年も鬼退治を続ける「桃太郎」のお話もあります。

他には、感染症の流行で毎日、画面越しの娘と会話するパパの物語や
病気で亡くなった「お母さん」を迎えるお盆に
今年は新しい「ママ」がいることで
心が揺らぐ小学生姉弟のお話もあります。

新しいママは優しいから好きだけど
「お母さん」は「ママ」のことをどう思うんだろと
二人の母のことで悩む子どもたちに涙。私はおいおい泣きました。

また、日系ブラジル人三世の母と日本人の父の間に生まれた
ミックスルーツの小学生のリナの物語も印象的でした。
日本で生まれ、国籍も日本なのに「日本人っぽい」と言われることに
どこかモヤモヤしたものを感じています。
また、セイタカアワダチソウや池の中の外来種の魚などの
外国から来た植物や生き物が嫌われていることをかわいそうだと思います。

同じような話では「虫送り」に関連した物語もあります。
富山の皆さんはご存じかと思いますが、
虫送りは、稲や畑に害虫がこないようにするため行事です。

でも虫たちは悪さをするつもりなんてなくて
ただ自分たちのご飯を食べているだけなのですよね。

そこで、ある村では、居場所がなくなった虫たちを迎え入れる
「虫迎え」をするようになります。
そして今では、居場所をなくした子どもたちを迎えています。

重松さんは、どうせ私のことなんて誰もわかってくれない…
と心を閉じてしまった人たちの存在に気付き、寄り添います。

だから本を読みながら出てくる涙は、
「悲しいから」「かわいそうだから」「感動したから」
という単純な理由だけでありません。

もう仕方ないと諦めていたことや、逃げていたことに気付かされ、
そして抑え込んでいた思いが募って涙があふれてくるのです。

自分がどんなことに傷ついたり、嫌だと思ったりしているのか、
逆に、人が傷ついているのを見て見ぬふりをしてきたのかが、
心の奥から顔をのぞかせてくるようでした。

だから、きっとこの本を読んだ人は、
自分自身と向き合いたくなるのではないかしら。
少なくとも私はそうでした。

でも、心の痛みを感じつつも同時にケアもされていて、
読後感は悪くはありませんでした。

重松さんは、2021年を生きる10代の自分に届けたくて、この本を書かれたそうです。

たしかに私も10代の頃にこの本と出合いたかったなー。
もちろん、かつて10代だった大人の皆さんにもおすすめです。

秋の夜長、毎日一話ずつ読み進めてみては。
いい涙を流しながら毎日心のデトックスもできるかも!?

yukikotajima 11:35 am

『海をあげる』

2021年10月6日

「本屋大賞」はもうお馴染みだと思いますが、
毎年11月には日本全国の書店員さんが選ぶ
「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」が発表されます。

小説では無く、ノンフィクション本が対象です。
2018年に始まり、今年で4回目です。

去年の大賞は、在宅での終末医療の現場を綴った
佐々涼子さんの『エンド・オブ・ライフ』でした。
ラジオでもご紹介しています。

◎田島の本の紹介は コチラ

なお一昨年は、ブレイディみかこさんの
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でした。

4回目となる今年は、6冊がノミネートされています。

*『あの夏の正解/早見和真(はやみ・かずまさ)』

*『海をあげる/上間陽子(うえま・ようこ)』

*『キツネ目 グリコ森永事件全真相/岩瀬達哉(いわせ・たつや)』

*『ゼロエフ/古川日出男(ふるかわ・ひでお)』

*『デス・ゾーン 栗城史多(くりき・のぶかず)のエベレスト劇場
/河野啓(こうの・さとし)』


今日のはこの中から、上間陽子さんの『海をあげる』をご紹介します。

著者の上間さんは、琉球大学教育学研究科教授で、
普天間基地の近くにお住まいです。
90年代から2014年にかけては東京で、以降は沖縄で
未成年の少女たちの支援・調査に携わっています。

2016年夏に起きたうるま市の元海兵隊員・軍属による殺人事件を機に
沖縄の性暴力について書くことを決め、翌年刊行された
『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』はベストセラーとなりました。

現在は若年出産をした女性の調査を続けながら、
10月1日には若年出産のシングルマザーを保護するシェルターを開設したそうです。

『海をあげる』は、ちょうど一年前に発売され、
「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」にノミネートされた他、
「わたくし、つまりNobody賞」や「第7回沖縄書店大賞 沖縄部門大賞」
も受賞されています。

この本では、著者が暮らす沖縄の日常がさまざまな人の声と共に綴られています。

沖縄というと「観光」の印象が強いかもしれません。
あー、いつか旅行に行きたいー!
と頭の中に青空や青い海を思い浮かべた方もいるかもしれませんが、
この本に書かれているのは、そういった外から見た沖縄のキラキラした部分ではなく、
実際に沖縄で暮らす人たちの本音です。

上間さんが大切な人に裏切られた時に友人たちに支えられたエピソードから始まり、
沖縄での理不尽な日常や様々な人にインタビューした内容が
そのままの会話で紹介されています。

90代の女性からは戦争中のことを
沖縄出身のホストからは彼の過去から今に至るまでを丁寧に聞いていきます。
その他、10代でママになった女性や性暴力を受けた女性たちの聞き取りも
何度も継続して行っています。

しかし、上間さんは沖縄の方たちの「語らなさ」が目についたそうです。
そして、聞く耳を持つものの前でしか言葉は紡がれず、
上間さん自身、聞き逃してきた声がたくさんあると感じているそうです。

でも、「私は聞き逃したかもしれない」と思える上間さんだからこそ
聞き取れたことがこの本には詰まっていると思いました。

上間さんの文章は、静かです。
でも強さがあります。
そして、とても正直です。
まるで自分の心を確かめるように文字に起こしているようにも思えました。

なぜ沖縄に住む自分たちばかりがこんな理不尽な目にあわなければいけないのか。
なぜ若い女性たちは辛い目にあわなければいけないのか。
怒りや絶望が文章から滲み出ていました。

そして、著者は私たち読者にあることを託します。
「海をあげる」と。

タイトルにもなっている「海をあげる」とはどういうことなのか。
ぜひ本をめくって上間さんの言葉に耳を傾けてみてください。

あなたは、この本を読んで何を感じるでしょうか。

yukikotajima 11:34 am

『ばにらさま』

2021年9月29日

久しぶりに一日に二本の映画を見てきました。

まずは、『総理の夫』

原田マハさん原作の映画化です。
総理大臣なった妻とその夫の物語です。
女性初の総理を演じた中谷美紀さんが美しかった!

今まさに自民党の総裁選が行われており、
今日の午後3時半過ぎには新総裁が選出される予定です。

原作が出た8年前は、現実的には女性総理の誕生は今は無理かなと思っていましたが、
映画が公開された今年は、自民党の総裁選挙に女性候補が2人もいて、
時代の変化を感じます。

果たしてこのあと、この映画のように女性総理は誕生するのでしょうか。


もう一本は、7月に公開された大ヒット作『竜とそばかすの姫』です。

話題作とは言え公開から2ヶ月以上が経ち上映本数も減ってきたので
終わる前に必ずや!と見てまいりました。

こちらは、富山出身の細田守監督作品です。
主人公は、現実世界では田舎の女子高校生ですが、
ネットの仮想世界では世界で人気の歌姫という女性です。

ネットの世界では名前も顔も隠しているため、
現実では無理なことができたり、
面と向かっては言えないようなことも言えたり、
現実世界とは異なる自分を演じたり、
逆に誰だかわからないこそ本音が言えたりすることもあります。

今日のユキコレ(毎週水曜13時45分頃〜のgrace内コーナー)
でご紹介する本にもネットに自分の気持ちをさらけ出す人たちが出てきます。

『ばにらさま/山本文緒(文藝春秋)』

去年の秋に7年ぶりに発売された新刊『自転しながら公転する』が話題になった
山本文緒さんの9月13日に発売されたばかりの短編集です。

次作は何年後かしらと思っていたら一年で新刊が発売されてびっくり!
どうやら『自転しながら公転する』と同時にお書きになっていたようです。

本屋さんで表紙のキュートな女性のイラストと
『ばにらさま』というタイトルを見たときは、
まさか山本文緒さんの作品だとは思わず、
インパクトのある表紙だなくらいしか思わなかったのですが、
著者の名前を見てびっくり!名前を見なければ素通りするところでした。
ほんと気付いて良かった。

だってこの本素晴らしかったんですもの!

短編集には6作品収録されていまして、
中にはブログやSNSに自分の心のうちを書いている登場人物たちも出てきます。

ネットって不思議なもので、
誰でも見られるものなのに家族などの身近な人が見ている、
ということをつい忘れてしまいそうになるのですよね。

そして、ネット上に本音をもらしてしまうこともあります。
心の弱さだったり、怒りだったりを。

私は、Twitterを始めた当時、まるで『王様の耳はロバの耳』の穴
のようだなと思ったのですが、その印象は今も変わりません。

身近な人には言えないけれど、誰かに言いたいことを
穴に向かってみんなが叫んでいるなあと。

短編集の中身についても少しご紹介しましょう。
表題作の「ばにらさま」は、冴えない僕に初めてできた
バニラアイスみたいに白くて冷たい恋人との出来事が書かれています。
ちなみに冷たいのは、心ではなく体のことです。
薄着のためいつも体が冷たい彼女のことを彼は心配しています。

「子供おばさん」は、中学の同級生の葬儀に出席した47歳の独身女性の物語です。
彼女は遺族から形見としてあるものを託されてしまいます。
でも、ある理由からここ7年会っていなかったため、
なぜ私なの?という思いがぬぐえない彼女は、友人との思い出を振り返ります。

「わたしは大丈夫」は、必死に節約をしながら夫と子供との生活を送る主婦と、
既婚者と恋愛関係にある独身女性の話が交互に描かれる短編です。

節約のために暑い夏でもエアコンを使わずに我慢する主婦に対して、
不倫を楽しむ女性は「人妻は大変だな」くらいにしかしか思っていません。
と紹介すると、よくある話だよねと思われそうですが、そうじゃないんです!

読みながら突然、心がドクンと跳ねました。
「え?どういうこと?」と頭が混乱しながら最後まで読んだあと、
最初からまた読み直してしまいました。

本の帯に「思わず二度読み」と書かれていて、
一体どういうことかしら?と思いましたが、
まさにその通りのことをしてしまいました。

ネタバレになるので詳しいことは言えないのですが、
ガラリと物語の見え方が変わる瞬間がありまして、
最初と二度目ではもはや別の物語のように感じられました。

いやー、思い込みってこわいわ。
私はすっかり騙されました。

著者の山本文緒さんが出版社のサイトで、

どの作品にも「え?!」と驚いて頂けるような仕掛けを用意しました。

とおっしゃっているのですが、
私はまんまとその仕掛けにハマってしまいました。

皆さんにも私が感じたこの驚きを体感して頂きたい!

登場人物はよくいる人たちなんだけど、
山本文緒さんの手にかかると、物語は一味違ったものになります。

私、山本文緒さんの作品を紹介するたびに、
山本さんへ愛の告白をしているような気がしますが、
今回もあらためて好きだと実感しました。(笑)

『ばにらさま』は、読書の面白さを堪能できた作品でした。
また、人にはいろいろな面があるということに気付かされました。
良く知る身近な人にもあなたの知らない一面があるかもしれませんよ。

長編を読む時間は無いけど何か面白い作品を読みたいという方にもオススメです。
まあ、二度読みしたくなるから結局長編と変わらないかもしれませんが。(笑)

yukikotajima 11:41 am

『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』

2021年9月22日

2019年に発売された

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、お読みになりましたか?
7月に文庫化されたことで最近また話題になっているようです。

『ぼくイエ』は、イギリスに住む著者の中学生の息子について書かれた本です。
いじめ、喧嘩、差別のある中学に入学した息子君が、
それぞれの問題について真剣に向き合い
お母さんと一緒に何が正しいのか悩み、考えていくという内容で、
80万部を超えるベストセラーとなりました。
私はラジオでもご紹介し、2019年に読んで良かった本の1位に選びました。

●私の本の感想は コチラ

今日ご紹介するのは、その『ぼくイエ』の著書、ブレイディみかこさんの新作です。

『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ(文藝春秋)』

『ぼくイエ』にも「エンパシー」という言葉が登場していました。

『ぼくイエ』では、「エンパシー」とは「共感」ではない他者を理解する言葉で、
「誰かの靴を履く」ことだと解説されていました。

ただ、欧米ではエンパシーをめぐる様々な議論があり、
中にはエンパシーは良くないという考えの人もいるそうです。
そういった様々な議論を取り上げながら、
エンパシーとは何かについて掘り下げたのがこの本で、
『ぼくイエ』の副読本とも言えるそうです。

辞書によると、エンパシーは他者の感情や経験などを理解する能力です。
心で感じるものではなく「能力」なんですね。
日本語訳ではよく「共感」と訳されることが多いそうですが、
エンパシーは共感しなくてもいいのとか。
違う考えを持つ相手に対して、その人の立場だったら自分はどうだろう
と想像してみる知的作業が「エンパシー」なんですって。

つまり、他者の靴を履いてみるということです。

でも、中には相手のことを考えているつもりが
自分の靴で他者の領域をずかずか歩いているなんてこともあるのだとか。
たしかにSNSなどを見ていると、そういう方多いですよね。。。

間違えずに「他者の靴を履く」にはどうしたらいいのか。
その答えがこの本には書かれています。

大変面白い本でした!まるで楽しい大学の授業を受けている気分でした。
かなり濃い内容で読みごたえがあるものの決して難しすぎるわけではなく、
「エンパシー」について丁寧に分析されているので、
納得しながら読み進めることができました。
読み終えたときには、久しぶりに「学んだー!」という気持ちでした。(笑)

印象に残った箇所をいくつかピックアップします。

著者の息子君の学校では、『ロミオとジュリエット』の主人公になりきって
ラブレターを書くという課題が出たそうです。
それも最初の週は男女関係なく全員がロミオになりラップ調で
次の週は全員がジュリエットになってクラシックなラブレターを書け、
というものだったのだとか。

他には、赤ん坊からエンパシーを教わる
「ルーツ・オブ・エンパシー」というものもあるそうです。
赤ん坊の反応や感情表現、成長を見ることで
エンパシーを育てることができるんですって。
たとえば、おもちゃが手に届かずイライラしている赤ちゃんを見ながら、
あなたはどんな時にイライラする?と子どもたちに聞くのだとか。

他者の感情を想像しながら話し合うことで、
子どもたちは自分の意見を言うことができるようになるそうです。

知識を詰め込むだけではなく、
想像して考えるといった「ソフト・スキル」も大事なのですよね。
そして、このスキルは子どもたちだけでなく大人にも、いや、大人にこそ必要です。

それから、本のタイトルには「アナ—キック・エンパシー」とあります。
ブレイディさんの言うところのアナーキーとは?
詳しくは、本を読んでみてね。

そうそう!

ブレイディさんと言いますと、
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の完結編となる
続編『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2』が
9月16日発売されたそうです。

こちらも読まねば!

yukikotajima 11:10 am

アイアムマイヒーロー!

2021年9月15日

あなたには、今までの自分を捨て去って
新たな自分として生まれ変わりたいと思ったことはありますか?

私は子どもの頃よく思っていました。
寝るときに、朝目覚めたら別人に生まれ変わってないかな
と密かに何度も願っていました。
嫌なことがあるたび現実逃避をしていたのだと思います。

さすがに大人になった今は思わないけど、
あの頃に戻って人生をやり直したいと思うことは今でもあります。
ちなみに「あの頃」はその時の気分で毎回変わります。(笑)


今日ご紹介する本は、「赤の他人」として
10年前にタイムスリップしてしまった男子大学生の物語です。

『アイアムマイヒーロー!/鯨井あめ(講談社)』

主人公は、授業には行かずバイトもしていない
自堕落な生活を送る大学生のタカナリです。
自分のことをプライドは高いくせに繊細で傷つきやすいと思っています。

ある日、そんな自分を変えてくれる劇的な何かがあったらいいなと期待して
同窓会に参加するのですが、話の途中にカッとなって途中で席を立ってしまいます。

駅へと向かったタカナリは、女性がホームから転落するのを目撃します。
助けなければと思うものの身体が動きません。
電車も迫ってきたし、やばい。どうしよう!と思った瞬間、意識が遠のき、
目が覚めると全く知らない子どもの姿となっていたのでした。
そして目の前には小学生時代の自分がいて話しかけてきます。
どうやら自分は「カズヤ」という名前で
タカナリの友だちであることがわかります。
しかし「カズヤ」なんて友だちがいた記憶はありません。

タカナリは、「赤の他人」として10年前にタイムスリップしてしまったのでした。

小学生の頃のタカナリは自分のことをヒーローだと宣言するような、
まっすぐで明るい人気者でした。

ですが、赤の他人になって客観的に少年タカナリを見てみると、
人の忠告なんて聞き入れないし、
反省もしない、我が道を行く我儘少年だったのでした。

タカナリは、少年タカナリの性格や思考回路を少しでも変えられたら、
未来の自分も変わるのでは?と矯正することを思いつきます。
と言っても少年タカナリは人の話を聞かないので、なかなかうまくいかないのですが。

タイムスリップの謎はわからないし、
少年タカナリは問題児のままだし、
このまま赤の他人である「カズヤ」として
新しい人生を歩むのもありかなという考えも芽生え始め…。

果たしてタカナリはこの先どう生きていくことになるのでしょうか。


ところで、この物語はタイムスリップの原因を究明するだけのお話ではありません。

実は本来無かったはずの事件がタイムスリップ先で立て続けに起こってしまうのです。
昆虫や鳥の死骸が次々に見つかったり、少年が不審者に声をかけられたり。

犯人は誰なのか。
そもそも何のためにこんな事をしているのか。
タカナリは自分たちで犯人を探すことにします。
事件の真相とは?

この続きはぜひ小説でお楽しみください。

***

面白かったです!
特に終わりが良かった。
ネタバレになるのでどう良かったかは言えないのですが、
きっとこの本を読んだ人は、
この先生きていく上で大切なことに気付かされると思います。
私は読後に心がすこし軽くなりました。
例えるなら、心の換気ができたような感じかな。

すぐに人のせいにしたり、
何もかもが気に入らなかったりする方は、
心が良くない感情で埋め尽くされているせいで
心が狭くなっているのだと思います。

心の風通しがよくなると感じ方や見え方も変わるものですよ。
ぜひこの本を読んで、まずは心の換気をしてみてください。


それにしてもですよ!
自分の目の前に小学生の自分が現れるって、すごい状況ですよね。
ちょっと想像してみてください。
仲良くなれそうですか?

私はどうかなあ。仲良くなれないかもなー。(笑)
でも、授業中の様子や、友だちや親とどのように接していたのかは見てみたいかな。
想像するに、生意気な気がします。(笑)

あなたはどうですか?

yukikotajima 10:47 am

『川のほとりで羽化するぼくら』

2021年9月8日

ついこの間まで行われていたオリンピック・パラリンピックでは
「多様性」という言葉をよく耳にしました。
大会ビジョンにも「互いを認め合う」という言葉が入っていました。

この東京大会を機に世界が良い方向へと変わっていったらいいなと思いますが、
今の段階では、少数派は生きづらさを感じることもあるでしょうし、
多数派の中にも息苦しさを感じている方もいるのではないでしょうか。

今日ご紹介する本は、まさに「今の時代」が切り取られた短編集です。

『川のほとりで羽化するぼくら/彩瀬まる(角川書店)』

まずは、勤め先の事業所が閉鎖されたことを機に会社を辞め、
働く妻に代わって家事育児のメインプレーヤーになると決めた夫の物語
「わたれない」です。

夫は、仕事漬けの毎日でほとんど家事や育児に参加してこなかったため、
7ヶ月の赤ちゃんの世話はうまくいかないことだらけで、
てんてこまいの毎日を送っています。
自分がママじゃないことで子どもを苦しめているのかと悩むこともあります。

そんなある日、どうしても子どもが泣き止まなかった時に
ネットでとある子育て日記を見つけ、助けられます。
それ以降、子どもへの対応で迷いが生じた時はそのブログを参考にするようになります。

しかし、子育てにもだいぶ慣れてきたあとも、
公園では他のママたちからは警戒されるし、
子どもの健診のための事前アンケートには
「ママ目線」の項目ばかりでさみしさを感じます。

そんな中、さらに彼を苦しめる出来事が起きてしまい…。

最近は、女らしさ、男らしさという言葉があまり使われなくなりました。
そして、さまざまな考え方、生き方を認めていこうという流れになっていますが、
実際のところ、古い感覚のままの方もまだまだいて、
平気で傷つけるようなことを言ってきたりもします。

その一方で、自分なりに生きやすい方法を見つける方もいます。
どうせわかってもらえないと諦めたり自棄になったりするのではなく、
どうしたら自分らしく生きられるのかを考えて。

今まさに少数派に属していて生きづらさを感じている方は、
このお話からきっとたくさんのヒントが貰えると思います。

老若男女問わず多くの方に読んで頂きたいお話でした。
それこそ教科書に載せてほしいくらい!

✴︎✴︎✴︎

それから、最後に収録されたお話「ひかるほし」も良かったです。
こちらは高齢のご夫婦の物語です。お話は妻目線で進んでいきます。

80歳を過ぎて夫は勲章をもらったのに、夫を支え続けた妻は何ももらえません。

面倒なことは全て夫から押し付けられ、妻は耐えて耐えて生きてきたのでした。
妻によると、夫は仕事の面では有能だけれど、
それ以外の面はことごとく自分勝手で、幼稚だそうです。
また、妻のことはどんなことでも干渉してきます。

でも、夫のおかげで食うに困ったことはなかったから、自分はマシだ。
贅沢を言ったら、ばちが当たる。と呪文のように繰り返しながら生きてきました。

と同時に、予想外の物事にぶつかったとき、
どうしていいか分からず夫に対処を求めてしまう自分は、
一人で生きていけないとも思っています。

そして、自分の判断で生きている女性たちを見て、
自分にはできないことだと、どこか他人事のように考えています。

そんな妻でしたが、まわりの女性たちから影響を受け、少しずつ変わっていきます。

このお話も良かった。
読みながら涙が止まりませんでした。
いろんな女性の顔が浮かんでしまって。

この高齢のご夫婦のような関係の方は少なく無いように思うのです。
なぜならそういう時代だったから。
でも、今は令和です。時代は変わったんです。
「ばちが当たる」の一言で全ての理不尽を受け入れてきた世代の方に、
この作品が届いて欲しい。

自分には今の生き方しか無いから、今更変えるなんて無理と思いながらも
心の中には何かモヤモヤしたものがある方はいませんか?
そのモヤモヤはきっと変わりたいという思いだと思います。

大人になればなるほど変化が怖かったり面倒だったりするけれど、
でも、やってみたら拍子抜けするほど簡単だったってこともあるかもしれませんよ。

この短編集には、ご紹介した2つのお話以外には
七夕伝説がもとになったファンタジーやSFが収録されています。
でも本全体から感じられる空気感は「今」の時代そのものです。
そして、本のタイトルに「川」という言葉があるとおり、
それぞれが自分の川を越えようとします。

この本を読んだ後は、私も一歩前に踏み出し川を渡りたくなりました。

また、五感を感じさせる文章も素晴らしく
読んでいて心地良かったです。
いい本でした!

yukikotajima 11:24 am

『ワラグル』

2021年9月1日

突然ですが、質問です。

中川家
ブラックマヨネーズ
サンドウィッチマン
トレンディエンジェル
ミルクボーイ

に共通することは何でしょう?

正解は…

M-1グランプリの優勝者です。

去年はマヂカルラブリーが優勝しました。

M-1グランプリは、吉本興業が主催する
最も面白い漫才師を決める大会で、
出場資格は結成15年以内の2人以上の漫才師、
審査基準は「とにかくおもしろい漫才」です。

今年は昨日8月31日がエントリーの最終日でした。
応募した方はいますか?

1回戦、2回戦、3回戦、準々決勝、準決勝、
敗者復活戦、そして決勝が行われ、
チャンピオンには優勝賞金1000万円が贈られるほか、
知名度も上がり、仕事も爆発的に増えます。

今日ご紹介する小説は、漫才日本一を目指す漫才師たちの物語です。

『ワラグル/浜口倫太郎(小学館)』

著者の浜口さんは、漫才作家、放送作家を経て、
2010年に『アゲイン』で第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞しデビュー。
『22年目の告白ー私が殺人犯ですー』は
20万部を超えるベストセラーとなり、映画化もされました。

新作の『ワラグル』は、書店員の間で「一気読みの面白さ」
と話題になってるようです。
たしかに私も最後までノンストップでした。
431ページと結構分量はあるのですが、長さは全く気になりませんでした。
それも読んでいる間、笑ったり泣いたり驚いたりして、
ずっと心が動かされ続けました。

タイトルの「ワラグル」とは、昔の芸人用語で
「笑いに狂う」という意味なんですって。

この物語は、3人の視点で進んでいきます。

まず、崖っぷちの中堅漫才コンビの凛太(りんた)。
彼は、漫才日本一を決めるキングオブ漫才(M-1グランプリらしきもの)
に出るものの、決勝に進むための敗者復活戦で敗れ、コンビは解散。

相方はいなくなってしまった凛太ですが、漫才は続けたいと思っています。
そんな彼の前にキングオブ漫才で王者になった先輩から
死神と呼ばれる謎の放送作家ラリーにコーチに付いてもらうことを提案されます。

そして凛太はラリーのもとを訪れるのですが、ある条件を提示されます。
「来年決勝に残れなければ芸人を辞めろ」と。

凛太はその条件を受け入れ、相方探しを始めます。


2人目は、凛太の後輩の漫才師のマルコです。
「キングガン」というコンビを組んでいるのですが、コンビ仲は最悪で、
舞台上で喧嘩をしてしまったことで謹慎処分になってしまいます。

そんなキングガンにもラリーが付くことになります。

凛太は、過去の漫才も勉強もするし、ネタ合わせも何度もやる、
しっかり準備をしたいタイプです。
一方のキングガンは、のびのび自由にやりたいと考えています。

そんなタイプの異なる二つのコンビに同じ放送作家が付くことになり、
それぞれが漫才日本一を目指していくことになります。


そして、もう一組は、梓と文吾の大学生カップルです。
文吾の視点で梓のことが語られています。
ちなみに、二人は漫才師ではなく、
彼女のほうがお笑い好きで、放送作家を目指しています。

梓はいつかお笑い番組や芸人のライブの企画や構成をする仕事をしたいと、
芸人のラジオ番組にネタを投稿する日々を送っています。
面白いネタを送れば業界の人に注目されるかもと夢見ながら。
そんな彼女を文吾は心から応援しています。


物語はこの3組のお話が交互に、
そしてゆるやかに繋がりながら描かれていきます。

夢に向かって突き進む若者たちの物語は、とても面白かったですし、
漫才がどのように作られ、どういったことが大事なのかといった
「漫才」について学べたのも楽しかったです。

例えば…

・漫才は一心同体と言えるまで二人の息を合わせないと笑いは生まれない

・笑いは空気が大事。芸人とお客さんが一体にならないと笑いは生まれない

たしかに場の空気って大事ですよね。
私は漫才師ではないですが、人前に立つという点では重なるところもあり、
私自身もラリーさんに鍛えられている気分になりました。

ラリーさんは、死神と陰で言われるくらいの人なので、
決して陽気でもないし、言い方もきついのですが、教え方はうまいのです。

タイプの異なる二組のコンビをどのように指導していったのかは、
ぜひ本を読んで確かめていただきたいのですが、
これが読んでいて飽きないんです。
次はどんな指導をするのかしら?
とページをめくるのが楽しくてたまりませんでした。

正直なことを言うと、私はお笑いには詳しくありませんし、
毎年熱心にM-1を見ているわけではないのですが、
それでもこの本は楽しく読めました。
そして、今年のM-1は絶対に見たい!と思いました。

また、この小説は、夢を追う若者たちの物語としての面白さだけでなく、
文字で書かれた「小説」だからこそのお楽しみもあります。
最近は、話題になった作品は次々に映像化されていきますが、
この作品は、本じゃなきゃダメなんです。

ぜひ日本一の漫才師を目指している気分で
ドキドキ緊張しながら読んでみてください。

ずっと家にいて変わらぬ日常で退屈…
という方にはいい刺激になると思います!

中には漫才師を目指したくなる人もいるかも!?

yukikotajima 11:46 am

『楽観論』

2021年8月25日

コロナ禍が長引いていることから窮屈さも増してきました。

何かをあきらめなければいけなかったり、
楽しみにしていたことがドタキャンになったり。
私の場合は仕事のキャンセルも増えてきました。

SNSを見ても最近は怒りや悲観的なコメントが増えているので、
心が疲れているときや元気が無いときは、SNSを見ないようにしています。

またネットの世界だけでなく、
リアルな人付き合いの場でも不機嫌な人が多いように思います。

そんな中、本屋さんでこの本を見つけ、
なんて素敵な言葉!とすぐに手に取ってしまいました。

『楽観論/古市憲寿(新潮新書)』

著者は社会学者、作家の古市さんです。
作家としては、『平成くん、さようなら』と『百の夜は跳ねて』の2作品が
芥川賞にノミネートされ話題となりました。
また、様々なテレビにも出演し、そのコメントがたびたび炎上しています。。。

私は以前、古市さんとトークショーをしたことがあるのですが、
炎上も多いため、正直やりづらそうだなあと思っていたものの(笑)、
実際にお会いしてみたら、とても話しやすく楽しい時間が過ごせました。

頭の回転が速く、何を聞いても面白い答えが返ってくるので
私自身も聞きたいことがどんどん湧いてくる感じでした。

古市さん自身がカラッとしているので、
毒を吐いても重い雰囲気にはならないのですよね。

本屋さんで『楽観論』というタイトルとともに
帯に描かれた「絶望って、安易じゃないですか?」
という言葉を見て、思わずマスクの中で笑ってしまいました。
なんて古市さんっぽい言葉なんだろうと。

古市さんによると、悲観論は人を賢く見せ、
楽観論は、どこか間抜けで、馬鹿らしく響いてしまうのだとか。

でも、全てを「仕方ない」とあきらめてしまう前に、
まずは、自分自身や、自分の周囲を楽観的にとらえてみるのがいいそうです。

人は、科学的根拠がなくても、ほんの些細なきっかけで自信を持ったり、
幸せな気持ちになったりするんですって。

確かに星占いがいいと、それだけでテンションが上がったりしますもんね。

『楽観論』には、悲観的にならずに生きるためのヒントが書かれています。
話題も多岐にわたっていて、楽しく読むができます。


いくつか例をあげると…

*世界進出のキーワードは「中二」

サービスでもゲームでも文学でも、ユーザーが中学生であってもわかるか、
という視点をもつことが大切なんだとか。

私もアナウンサーになる前の研修で
「ラジオでは中学生が聞いてわかるように喋りましょう」と教わりました。
やはり「わかりやすさ」って大事なんですよね。

一方、高齢者は新しいものが苦手とよく言われますが、
それに対して、古市さんは、年長者ほど社会の大変化を受け入れてきたと言います。
特に戦後の変化は大きかったと。
そして、高齢者自身が新しいものは無理と思い込んでいるのではと指摘します。

また、古市さんは何かを「難しい」と感じる場合は、
作り手のセンスのなさを疑った方がいいと言います。

この考え、古市さんっぽいわー。

でも、私もそれはよくわかります。
自分の理解力ではなく、作り手のせいだ!という考え、私もよくしてますもん。(笑)

自分の言いたいことだけを発信していて、
相手に理解してもらいたいという気持ちが少ない
商品やサイトや言葉があふれてるように思います。

あなたの会社のサイトや商品は、わかりやすいですか?


*過激な言動は落ち目のサイン

落ち目の時ほど過激になるという法則があるそうです。
たとえば、マニアックなファンの声に耳を傾け、
大衆からズレていったアーティストは多いけれど、
長年第一線で活躍している歌手はそれとは真逆の行動を採ることが多いのだとか。

たとえば、人気アーティストはドラマやCMとのタイアップも多いものの、
本当の作家性とはタイアップくらいで失われるものではない、と古市さんは言います。

やはり長年活躍している人は、ご自身に一本しっかり軸があるからこそ、
どんなことにも柔軟に対応できるものなのですよね。

私も様々な人と仕事をする機会がありますが、
本当にスゴイ!と思う人はやはり柔軟な方が多いように思います。


*締め切りのある人生を送る

コロナ禍がいつ終わるかわからないような、社会に締め切りが無い時代には、
個人的な締め切りを多く設けたほうが精神衛生上いいのだとか。

実際、作家たちも締め切りが数々の傑作を誕生させてきたそうです。

私も毎週水曜にラジオで本紹介をしていますが、
締め切りがあるから定期的に本を読めているのかもな。


本の最後には、「楽観とはどういうことか」について
古市さんがとても分かりやすく表現されています。
それが何なのか気になる方はぜひ本を読んでみてください。

『楽観論』というタイトルですが、
「ま、どうにかなるでしょ!」という、
ただノリと勢いだけの内容ではありません。

悲観的になりがちなこの時代をどう生きていけばいいかのか、
古市さんから学ぶことはきっとあると思いますし、
そもそもこの本の内容が面白いので楽しく読めます!

それから、この本とあわせて古市さんが過去に書かれた
『誰の味方でもありません』も読んでみてください。
こちらもカラッとした内容で読むと心が軽くなりますよ。

◎『誰の味方でもありません』の田島の感想は コチラ

yukikotajima 11:42 am

『ゆるい日本史』

2021年8月21日

今日のネッツカフェドライヴィンのテーマは「学び」です。

私はこの本で日本史を学び直してみました。

『東大脱力講義 ゆるい日本史 鎌倉・室町・戦国時代
監修/本郷和人  まんが/カレー沢薫』


この本では、ドラマやゲームで人気の
日本中世史(鎌倉〜室町〜戦国時代)を学ぶことができます。

この本を監修された東大教授の本郷先生によると、
歴史に名を残す武将たちも私たちと同じ人間であり、
「ズルさ」や「しょぼさ」などの「ゆるさ」に
人間の本質が垣間見られるそうです。

ちなみに、日本中世とは、
鎌倉時代から関ケ原の戦いまでの激動の時代のことで、
戦も多かったことから一番わかりにくいのだとか。

そのわかりにくい中世が学べるのがこの本です。

講義というより、楽しいお喋りを聞いているかのようでした。

どんな感じで紹介されているのかというと、

・源頼朝はすごいリーダーだったにもかかわらず、
娘の気持ちがわからなかったせいで、しくじった。

・南北朝は、まるで昼ドラ

・室町時代は、京都でごちゃごちゃやってた地味な時代

・明智光秀は、織田家というブラック企業の営業マン

などと、ざっくりまとめています。

ゆる〜いエピソードを読んでいると、
歴史上の有名人たちが現代の普通のおじさんたちのように思えてきます。

「信長、秀吉、家康のうち上司にするならだれ?選手権」
なんてものもありますし。(笑)
この本によると、やりやすい上司はあの人だそうです。
だれなのか気になる方はぜひ読んでみてください!

この本は、もう一度、日本中世の日本史を学び直したい大人の方だけでなく、
今まさに日本史を勉強中の学生の皆さんにもおすすめです。
暗記だけでない楽しい日本史が学べますよ〜。

yukikotajima 10:00 am

『硝子の塔の殺人』

2021年8月18日

家で過ごす時間が増えた今こそ、
気軽に自分のペースで楽しめる読書をしてみませんか。
それも長編のミステリにどっぷりつかるのはいかがでしょう?

今日ご紹介するのは、今話題のミステリです。

『硝子の塔の殺人/知念実希人(実業之日本社)』


著者の知念実希人(ちねん・みきと)さんは、
これまで『仮面病棟』が映画化、『神酒クリニックで乾杯を』がドラマ化されたほか、
3年連続で作品が本屋大賞にノミネートされるなど人気のミステリー作家です。

新作の『硝子の塔の殺人』は、作家デビュー10年の記念の作品で、
知念さんが本格ミステリを手掛けたのは今回が初めてだそうです。

また、知念さんは作家でありながらお医者様でもあります。
新作の『硝子の塔の殺人』も男性の医師が主人公です。

物語の舞台は、いかにもミステリ作品に出てきそうな雪深い山奥に立つ硝子の塔です。
地上11階、地下1階の円すい型の建物です。

この硝子の塔の主人は大のミステリ好きで、
館内には国内外のミステリ小説やミステリ映画などの貴重な資料が収蔵されています。
また、キッチンやシアターのほか、ゲストが宿泊できるお部屋もあります。

主人公の男性医師は、この館の主人の専属医をしています。

ある日、館の主人の呼びかけで、刑事、霊能力者、小説家といった
これまたミステリ作品によく出てきそうなゲストたちが硝子の塔に招かれます。
ちなみに全員、癖強めです。

そして予想通り館内で次々と人が殺されていきます。

さらに近くで雪崩が起き逃げることもできなければ、
電話もネットも使えなくなってしまいます。

状況が悪化していく中、主人公の男性医師は
自称名探偵の女性とともに事件の謎を追っていきます。

この自称名探偵は、探偵としては優秀なのですが、
大のミステリ好きで、シャーロック・ホームズのような格好をし、
どんな話をしていても大好きなミステリの話に脱線していきます。

そんな彼女に呆れたり尊敬したりしながら
医師は彼女とともに事件の真相に迫っていきます。

果たしてこの硝子の塔には、どんな謎が隠されているのでしょうか。

というお話なのですが、設定も登場人物も
いかにもミステリという感じのお話なのですが、
この作品は「二度読み」したくなると言われ、
SNSなどでは「面白かった」と話題になっています。

正直なことを申しますと、
読み始めてしばらくは、わりとよくあるタイプの話だなと思いまして、
この作品のどこが二度読みに値するの?
犯人はもう明らかにあの人じゃん!
ま、そんな単純な話ではないにしても
ここから話が発展していくようには思えないのだとけど…
と、やや冷め気味のまま読んでいました。

しかし、最後まで読んで私がしたことは、
最初のページから読み直したことでした。(笑)

ああ、私は絶対に二度読みなんてしない、と思っていたのに〜!
まんまとやられました。

この本は500ページ以上ある長編なのですが、
もう一度頭から読みたくなるってことは、
つまりこれはもう1000ページの本ってことでいいと思うわ。(笑)

ネタバレになるので2回目を読んでどう感じたかは言えないのですが、
とにかく一気読みからの二度読みをしたくなるというか、してしまった作品でした。

最初は、このお話、二度読みしたくなる?と思うかもしれませんが、
そこでやめずに最後まで読んでください。
後半、どんどん面白くなっていきますので!

こういう本こそ、時間のある時にオススメです。
なんといっても実質1000ページですから。(笑)
著者から読者へ送られた「挑戦状」をあなたも受け取ってみませんか。

きっと時間を忘れて作品の世界に没頭できると思います。

***

ところで、この作品にはミステリ愛が詰まっています。
主人公をはじめメインの登場人物たちがミステリ好きなので、
国内外のミステリ作家や作品が次々に登場します。

そういう意味では、ミステリ好きの方は、
登場人物たちに共感したり突っ込んだりしながら楽しめると思います。

逆にミステリに詳しくなくても大丈夫です。
ミステリ好きな登場人物の皆さんが、
ミステリの魅力や歴史、読み方を教えてくださいますので勉強になります。

それから、本の帯にはミステリ作家の皆さんのコメントがのっているですが、
本を最後まで読んだ後、あらためてコメントを読んでみてください。
きっと「そういう意味だったか!」と思えるコメントに気付くと思います。
これは最後まで読んだ人だけのお楽しみ。
ふふふ。

yukikotajima 9:28 am

『Voyage 想像見聞録』

2021年8月11日

すでに夏休み中という方もいるかもしれませんが、
今年の夏休みはどのように過ごしているでしょうか。

例年、旅行に行っているけれど、
今年もあきらめて家で過ごすという方もいることでしょう。

でも、家にいたとしても旅気分は味わえます。
先日、本屋さんに行きましたら、本の帯に書かれた

さぁ、出かけよう!「物語」という旅へ。

というコピーが目に飛び込んできました。
たしかにその通りだわ!と思い、早速この本をはじめ、
様々な本を手に取りレジへ向かいました。

読書なら県外どころか、海外にも宇宙にも
なんなら現実だって飛び越えることができます。

今日ご紹介する本はこちら。

『Voyage 想像見聞録(講談社)』

著者は、
宮内悠介(みやうち・ゆうすけ)さん
藤井太洋(ふじい・たいよう)さん
小川哲(おがわ・さとし)さん
深緑野分(ふかみどり・のわき)さん
森晶麿(もり・あきまろ)さん
石川宗生(いしかわ・むねお)さん
の人気作家6人です。

「旅」をテーマにしたアンソロジーで、
本のタイトルに「想像」とある通り、想像の翼を広げた作家さんたちが
私たち読者を様々な場所へと連れて行ってくれます。それもかなり遠くまで。

最初の作品は、宮内悠介さんの「国境の子」です。
お父さんが外国人の「ぼく」は、父のいる国までわずか一時間なのに
その距離が遠く、一度も父に会うことのないまま大人になります。
でもある日…。

このお話は、胸がチクリとしつつもいいお話でした。

次の藤井太洋さんの「月の高さ」も良かったです。
東京の小劇場劇団の大道具を積んで走るトラックに乗る2人の物語です。
トラックは青森のホールに向かってスムーズに走っていたのですが、
あるトラブルが発生し…。

と、これら2つの物語は、どこか名所を訪れて美味しいものを食べて
といったオーソドックスな旅行ではないのですが、
こんな感じの旅の物語もいいね!と思って次のお話を読んでびっくり。

小川哲さんの「ちょっとした奇跡」は、
地球の自転が止まった世界が描かれていました。
地球に二つ目の「月」が飛んできて地球を引っぱるせいで自転が止まってしまい、
人類は「昼と夜の境目」を移動し続ける生活を送っています。

次の深緑野分さんの「水星号は移動する」は、
民間宇宙船が当たり前になった時代の物語です。
ホテルも進化しており、移動式の宿が登場しています。
出かけた先の宿に泊まるのではなく、宿が自分のいる場所に来てくれます。
なんて便利!

そして、私が一番衝撃を受けたのは、石川宗生さんの「シャカシャカ」です。

「シャカシャカ」という言葉は、例えば、ポテトチップスの袋の中に
味のついた粉をいれて混ぜるときなどに使いますよね。
袋を振ることで中のものが混ざりあい美味しく食べられますが、
もし地球上の様々な場所がシャッフルされたらどうでしょう?

ある日、大きな地震が起きたかと思って外に出たところ、
目の前の道路も近所も無くなっていて、
そのかわりにシラカバの森や荒野が家の周りを取り囲んでいたそうです。
こわすぎるー!

「ぼく」が「シャカシャカ」と呼ぶその現象は、
数日起きないこともあれば、数十分ごとに起こることもあり、
家の目の前に地球上の様々な場所が現れます。

家にいるだけで地球上の色々なところに行けるなんて素敵!と思ってしまいそうですが、
次々にシャッフルしてしまうので、働くことも何かを作ることも買い物もできず、
皆、生きるために食べ物を探すことに必死です。超サバイバルです。

果たして「ぼく」は「シャカシャカ」の起こる世界を生き抜くことはできるのか。
続きは本のページをめくってください。

***

どの物語も短編なのですが、いやあ、濃かったです。
旅がテーマの本というから、世界各国を楽しむ気分が味わえるのかしら?
と思っていたのですが、全然違いました。

地球の自転が止まったり、地球上の様々な場所がシャッフルしたりと、
あまりにもぶっ飛んでいて、想像していた旅とはだいぶかけ離れていたけれど、
ずっとドキドキしていたおかげで飽きる暇はありませんでした。

まあ、このドキドキはワクワク感からくるものではなく、
ちょっとやばくない?ねえ?大丈夫?と心配が伴うドキドキではあるのですが。
でも、そのおかげで刺激的な旅を味わえました。

夏休みといっても、することも無いし暇だなあ…という方は、
ぜひ「物語」という旅へ出かけてみては?

今日ご紹介した『Voyage 想像見聞録』でもいいですし、
もちろんそれ以外の本でもいいと思います。
あなたも今年の夏休み、何か一冊でいいので本を読んでみませんか?
本選びは良かったら私のこのブログ「ゆきれぽ」も参考にしてみてね!

yukikotajima 9:40 am

『新・人間関係のルール』

2021年8月4日

あなたはには今、ストレスはありますか?

「ある!」と心の中で即答した方もいるかもしれません。

その原因は「人間関係」でしょうか。
人間関係の問題からストレスを感じることって多いですよね。
私もたいていは人に対してのストレスです。(笑)

イラっとくることを言われたり、嫌味や悪口を言われたり、無視されたり。

私は意地悪なことを言われるたび、その場では笑顔で接するものの、
心の中では私が今感じたのと同じくらいのストレスを感じる出来事が
あなたにも近々ありますように!と思うことで怒りを鎮めています。
私、性格悪いですね。(笑)

でも、そうではなく、嫌な相手に対してこそ
「相手の幸せを祈る」ことが大事なんですって。

『新・人間関係のルール/辛酸なめ子(光文社新書)』

著者は、漫画家、コラムニストの辛酸なめ子(しんさん・なめこ)さんです。

辛酸さんのことをよく知らないという方でも
ネット記事などで辛酸さんのイラストを見かけたことはあるのでは?
ゆるいタッチでありながらも特徴をとらえていて、
ひとめで辛酸さんのイラストだと分かります。

辛酸さん自身、コミュ力が不足しているそうで、
この本では、ご自身が味わった人間関係の問題や
その解決策について綴っていらっしゃいます。

タイトルは『新・人間関係のルール』ですが、
決して堅苦しいものではなく、思わず笑ってしまうようなゆるめのエッセイです。

辛酸さんの失敗談も多いので、
まるでお茶をしながら友人の話を聞いている気分でした。

この本には時代を乗り切るための教訓が書かれています。
たとえば、今、オリンピック真っ只中ですが、
たびたびSNSで炎上がおきていますよね。

なぜ炎上するのか。

人間には、他人が不幸になったりおちていく様を眺めて快感を得る、
という感情があるのだとか。人間ってなんて醜いの!

では、炎上にどう対応したらいいのか。
それは、ネガティブな意見は無視するのがいいんですって。
怖がったとしても反論したとしても
反応することで相手に娯楽を与えることになってしまうのだとか。
だから、スルーして相手の幸せを祈って、自分は徳を積むのがいいそうです。

私もこれからは徳を積んでいけるように頑張ります。
まあ、最初のうちは葛藤もありそうですが。(笑)

また、この本には、様々なコミュニケーションの場面も紹介されています。
アパレル店員さんのセールストーク、
タクシー運転手さんとのやりとり、
同窓会・異業種交流会・女子会でのコミュニケーション、
政治家のコミュ力など。
どの話題も楽しみながら読めました。

特に、アパレル定員さんのセールストークにテンションが上がって
つい商品を買ってしまったエピソードは、まるで私自身の出来事のようで共感!
ニヤニヤが止まりませんでした。

また、タクシーのエピソードも面白かったです。
辛酸さんは、これまで出会ったタクシー運転手を
「洗脳系」「説教系」「怖い話系」「感じ悪い系」「癒し系」
などと分類しています。

たしかにタクシーの運転手さんって個性的な方が多いですよね。

辛酸さんは、嫌な運転手さんとの出会いも含め、
普段の生活では接点がなさそうな人々と
短い時間ながらも交流できたのは得難い体験だった、
と前向きに受け止めています。

これ、大事ですよね!
ストレスを感じた出会いもすべて「得難い体験」と思えば、
心も落ち着きそうですもの。

最近、ストレスがたまりまくっていて
誰に対してもイライラが止まらない方は、
辛酸なめ子さんの『新・人間関係のルール』をお読みになってみては?

ゆるいタッチのイラストと、思わずクスッと笑ってしまうようなエピソードに
日頃のストレスがすうっと消えていくと思いますよ。

私はこの本を読んだ後は、友人と愚痴や失敗談を言い合って、
大いに笑ってスッキリしたあとの気分と似ていました。

本を読んでいる私は受け身のはずなのに
まるで一緒にお喋りしている気分で、
自分の心のモヤモヤを外に出せたような気がして
本を閉じたときは心がスッキリしていました。

yukikotajima 11:55 am

『ブロードキャスト』『ドキュメント』

2021年7月28日

今、オリンピックが開催されていますが、
高校生たちも高校野球や高校総体など今まさに夏の大会期間中です。

また、明日はNHK杯全国高校放送コンテスト、
通称Nコンの決勝が行われます。
学生時代に放送部だった方には懐かしい響きかもしれません。

今日ご紹介する本は、高校の放送部に入部した男子高校生の物語です。

『ドキュメント/湊かなえ(角川書店)』

この本を紹介する前にまずは『ブロードキャスト』をご紹介します。
こちらはすでに文庫化されています。

実は『ドキュメント』は『ブロードキャスト』の続編なのです。

シリーズ1作目の『ブロードキャスト』では、
主人公の圭祐が高校の放送部に入るまでと、
放送部に入ってからの一年目が描かれています。

圭祐は中学時代、駅伝で全国大会を目指していたのですが、
惜しくも出場を逃してしまいます。
高校は、駅伝仲間の友人に誘われ、陸上の強豪校に進学します。
ところが、とある理由から陸上部への入部を
断念することになってしまうのです。
目標を失った圭祐でしたが、声がいいという理由から放送部に誘われます。
そして放送部に入部し、こちらでも全国を目指すことになるという、
ここまでがシリーズ1作目『ブロードキャスト』の物語です。


2作目の『ドキュメント』は、二年生になった圭祐たち放送部の物語です。

三年生の引退後、放送部では全国大会を目指して
テレビのドキュメント作品を作り始めます。

題材は陸上部の活動です。
訳あって陸上部をあきらめざるを得なかった圭祐は
複雑な思いを抱えながら陸上部を追っていきます。

そんなある日、ドローンで撮影した映像の中に、
煙草を持って陸上部の部室に入る同級生の姿が発見されます。

その同級生とは、圭祐が中学時代、同じ陸上部で
高校でも一緒に駅伝をしようと誘ってくれた友人でした。

圭祐は、彼が煙草を吸うはずはない!
と事件解決のために調べ始めます。

***

一作目の『ブロードキャスト』は
挫折した高校生が次の目標を見つけ前に進む青春小説でしたが、
続編の『ドキュメント』は、イヤミスの女王である
湊さんらしさも加わっていて、そういう意味でも楽しめました。

今回、著者の湊さんは、
対面でのコミュニケーションが難しくなった今だからこそ
「“伝える”とは何か」について真剣に考えたそうです。

放送部もその問題と向き合います。
テレビのドキュメント作品を作るうえで、
取材する側が伝えたいことと
される側の思いが一致していればいいですが、
そうではないこともあります。

今、オリンピック真っ只中ですが、
選手によっては、マスコミが伝える内容に対して、
「それはちょっと違う!」
と思うこともきっとあると思うのです。
そんな風に言ったつもりはないのに…と。

私自身、アナウンサーとして伝える仕事をしているので、
この本はかなり勉強になりました。
まっすぐな高校生たちのセリフにはドキリとさせられるものも多く、
初心を思い出しましたし、反省もしました。

そして、高校生たちにがっかりされない大人でいたいと思いました。

「そうそう。田島、しっかりね!」と今、思った方もいるかもしれませんが、
ちょっと待ったー!
「伝える」のはマスコミだけがしているわけではありませんよね?
今の時代、SNSやブログ、YouTubeなどで発信している方も多いですよね。

あなたはちゃんと伝えられていますか?
自分の思いばかりで、人の気持ちを忘れていませんか?
あなたの言葉で傷つく人がいることを考えたことはありますか?

今、ドキリとした方は、ぜひこの本を読んで、放送部のみんなと
「伝える」ということについて考えてみませんか。

また、物語としても大変面白いので、ぜひ!
私は学生時代、放送部ではありませんでしたが、
大学時代に映像制作のゼミでニュース番組やドラマを作っていたので、
自分と重ねて、なつかしさでいっぱいでした。

ところで、『ドキュメント』は、圭祐の高校二年生の物語です。
現在、湊さんは現在、充電期間中だそうですが、
いつか高校三年生の物語も読んでみたいな。

yukikotajima 10:58 am

『テスカトリポカ』

2021年7月21日

先週の水曜に2021年上半期の芥川賞・直木賞受賞作が発表されました。

【芥川賞受賞作】

石沢麻依(いしざわ・まい)『貝に続く場所にて』

李琴峰(り・ことみ)『彼岸花(ひがんばな)が咲く島』


【直木賞受賞作】

佐藤究(さとう・きわむ)『テスカトリポカ』

沢田瞳子(さわだ・とうこ)『星落ちて、なお』


4作品が一度に選ばれるのは、10年ぶりのことだそうです。

先週私がラジオでご紹介した
砂原浩太朗(すなはら・こうたろう)さんの
『高瀬庄左衛門御留書(たかせしょうざえもんおとどめがき)』
は残念ながら受賞ならず!


私も早速、受賞作を読んでみようと本屋さんに行ったところ、
佐藤究さんの『テスカトリポカ』一冊しかありませんでした。

『テスカトリポカ』は、直木賞だけでなく、
5月に発表された山本周五郎賞も受賞している話題作です。
同時受賞はなんと史上二人目のことだとか。

でも。

心の中では、『テスカトリポカ』を読むか迷っていました。

本当は、天才絵師、河鍋暁斎(きょうさい)
の娘の生涯が描かれた沢田瞳子さんの作品が読みたかったのです。

それに、『テスカトリポカ』は、見た目からして恐ろしい雰囲気だし、
内容も怖そうだし、うーん、どうしよう。
と悩みながらも手に取って少し立ち読みしてみたところ、
思いのほか読みやすく、これは続きを読んでみたいとすぐにレジへ向かいました。

ちなみに、先週の直木賞の選考会は、3時間に渡るすごい激論だったそうです。
暴力シーンの多さや臓器売買を扱っていることなどから、
読む人に嫌悪をもたらすのではないかと。
でも、これだけスケールの大きな小説を受賞作にしないのは
あまりにも惜しいという結論になったそうです。

まさにおっしゃる通りです。
正直こわかったけど、この作品には圧倒的なパワーがありました。

読む前はどうしようと悩んだものの
読み始めたらノンストップでした。
結果、読んで良かったです!

どんなお話なのか簡単にご紹介しましょう。

まずは、1996年のメキシコから始まります。
メキシコでは麻薬密売人たちが町のいたるところで目を光らせており、
次々に人が殺されていました。
17歳の少女ルシアはそんな町に別れをつげることにします。

逃げた町で「日本」のことを知った彼女は、
誰も知り合いのいない日本へと向かいます。
そして、日本人との間に「コシモ」という名の男の子がうまれます。

一方、いまだ麻薬戦争が続く2015年のメキシコでは、
麻薬カルテルの幹部であるバルミロが
対立組織との抗争の果てにメキシコから逃走します。

そして、潜伏先のジャカルタで日本人の臓器ブローカーの末永と出会います。

バルミロと末永は新たな臓器売買ビジネスを実現させるため日本へと向かいます。

その日本でバルミロは成長したコシモと出会い、仲間に加えます。

そして、コシモは知らぬ間に彼らの犯罪に巻きこまれていくことになる、
という物語です。

タイトルの「テスカトリポカ」とは、
かつてメキシコにあった王国「アステカ」の神様のことです。
アステカには神様に人の心臓を献上する儀式があり、
バルミロは、その儀式のことを
幼いころから祖母から聞かされていました。

一方、臓器ビジネスで売買しようとしている臓器も「心臓」です。
でも、この心臓は生きていなければ売り物になりません。
果たして彼らは、誰の心臓を売買しようとしているのでしょうか。

ぜひこの続きは、本のページをめくってみてください。

***

物語には大勢の登場人物が出てきますが、ほぼ悪い人たちです。
皆、自分のことしか考えていないし、
自分が悪いことをしているなんてことは思っていません。

悪でつながった人たちは、簡単に裏切るし、気に入らなけれな殺します。
「悪」の大渋滞で、読んでいる私まで麻痺してきそうなほどでした。

私は普段、本を読んでいるときは、
頭の中に映像を浮かべながら読んでいるのですが、
この本に関しては、残虐なシーンが多すぎて
途中から脳内でモザイクを入れて読んでいました。

でも、本を閉じたいとは思いませんでした。
一度読み始めたら、ぐいぐい引き寄せられてしまうのです。

ただ激しい暴力の描写だけではなく、
物語が丁寧に描かれているので、読んでしまうのだと思います。

悪人同士が、騙し合いながらも
お互い利用しようと近づいていく様はスリルがありますし、
自分がしていることに罪悪感を感じる人も心の揺れも印象的でした。

そして、気付けば夢中で最後まで読んでしまいました。

今回、あらためて小説のすごさを実感しました。

だって、先週、江戸時代の世界をのぞいたと思えば、
今週は麻薬やら臓器密売やらの世界をのぞいているんですよ。

小説だったら、絶対に関わらないタイプの人の心の内も丸見えだし、
知らない世界に足をふみいれることもできます。
それも安全な場所にいながら。

やはり読書は楽しい!

さて、次はどんな世界に行ってみようかしら。

yukikotajima 11:28 am

『高瀬庄左衛門御留書』

2021年7月14日

2021年上半期の芥川賞、直木賞の選考会が今日この後行われ、
受賞作が発表されます。

候補作はこちらです。

【芥川賞】

石沢麻依(いしざわ・まい)『貝に続く場所にて』
くどうれいん『氷柱(つらら)の声』
高瀬隼子(たかせ・じゅんこ)『水たまりで息をする』
千葉雅也(ちば・まさや)『オーバーヒート』
李琴峰(り・ことみ)『彼岸花(ひがんばな)が咲く島』


【直木賞】

一穂(いちほ)ミチ『スモールワールズ』
呉勝浩(ご・かつひろ)『おれたちの歌をうたえ』
佐藤究(さとう・きわむ)『テスカトリポカ』
沢田瞳子(さわだ・とうこ)『星落ちて、なお』
砂原浩太朗(すなはら・こうたろう)
『高瀬庄左衛門御留書(たかせしょうざえもんおとどめがき)』

一穂ミチさんの『スモールワールズ』は、以前、ラジオでご紹介しました。

◎私の感想は コチラ

***

今日は候補作の中から私が気になった一冊をご紹介します。

今回初めて直木賞候補となった砂原浩太朗さんの
『高瀬庄左衛門御留書(講談社)』です。

タイトルだけをみると、これは漢文か?と突っ込みたくなるほど漢字が並んでいて
何やら難しそうな気配を漂わせているのですが、
白を基調としたシンプルな装丁を見て、
これは美しい物語のような気がすると思い、読んでみることにしました。

この本は、直木賞の候補になっただけでなく、
今年1月の発売以来、話題となっている時代小説です。

主人公は、江戸時代の地方の藩、神山(かみやま)藩で
郡方(こおりがた)を務める高瀬庄左衛門です。

なお、神山藩は架空の藩です。

彼は、20ヵ所の村をまわって、
米の取れ高や見聞きした現地の様子などを
帳面にしるし、上役に提出しています。

タイトルの御留書(おとどめがき)とは、この帳面のことです。

彼は息子に自分の仕事をゆずり、
のんびり趣味の絵でも描いて過ごそうと思っていたものの、
50歳を前にして妻と息子を相次いで亡くします。

息子に子どもはおらず、のこされた嫁の志穂と二人きりになった庄左衛門は、
志穂に実家に戻るよう伝えます。
ところが志穂はここに残りたいと言います。
それも「絵を教えてほしい」とお願いしてきたのです。
この先誰かに嫁ぐのではなく絵で身を立てるようになりたいと。

庄左衛門は、妙な噂が立つことを心配し、住み込みではなく通いで、
それも仕事が休みの日だけ志穂に絵を教えることになります。

志穂もいなくなり、ひとりきりになった庄左衛門は、
はじめて自分で家事をすることになりますが、
慣れないひとり暮らしと、亡き息子の仕事を再び自分ですることになり、
毎日へとへとです。

でも真面目で誠実な彼はしっかりと仕事をしていきます。

彼には15人の仲間がおり、それぞれが受け持ちの村をまわっているのですが、
時には、愚痴を言い合ったり、一緒にお酒を飲んだりして
憂さ晴らしをすることもあり、江戸時代の物語なのに、
まるで今の時代のサラリーマンのようです。

ある日、庄左衛門は志穂から「弟のことで少し気にかかることがある」と言われます。
弟が毎晩のように酒の匂いをさせて帰ってくるのが気がかりだと。

そこで庄左衛門は町へ出向き、
志穂の弟が出入りしている小料理屋の近くの
二八蕎麦の屋台に通い、様子を見ることになります。

そして彼は様々な事件に巻き込まれていくことになります。

ちなみに、このお蕎麦がとても美味しそうで、
本を読んだ後にお蕎麦が食べたくなります。

このあと、庄左衛門は様々な人と関わっていくことになります。
息子を亡くす前は一人静かに好きな絵を描きながら老後を楽しむ予定が、
仕事も一人暮らしも大変なのに事件にも巻き込まれていきます。

でも彼が出会う人には魅力的な人が多いのも印象的でした。
もちろん嫌な人も出てきますが。

物語が進むにつれ、登場人物たちの過去や、事件の真実が明らかになり、
後半になればなるほど、ページをめくる手が止まらなくなりました。

中でも後半、庄左衛門が一緒に過ごすことが多くなる弦之助
とのやり取りが良かったです。

弦之助は、見た目も家柄もいいうえに秀才で性格までいい。
すべてをもっている彼と亡き息子を比べて、嫉妬してしまいます。

ところが、この弦之助が庄左衛門になついてしまうのです。

ぜひ本を読んで、揺れる庄左衛門の心を覗いてみてください。

また、この本の何がいいって、表現が美しいことです。
控えめな文章なのですが、目の前に広がる景色はもちろん、
体温や匂いまで感じられます。
そして、多くを語らずとも登場人物たちの心がわかります。
そういう意味では映画っぽくもありました。
言葉で説明するのではなく、絵で見せる感じが。

またいいなと思えるセリフも多かったです。
一番印象に残ったのは、庄左衛門のこの言葉です。

人などと申すは、しょせん生きているだけで誰かのさまたげとなるもの。
されど、ときには助けとなることもできましょう……
ならして平なら、それで上等。

泣きました。
なんていい言葉。
これからの人生は、この言葉を大切にいきていきたいと思いました。

読み終えた後、ああ終わってしまったかと寂しい気持ちになったのですが、
なんとこの作品、「神山藩シリーズ」としてシリーズ化していくそうですよ!

yukikotajima 11:15 am

『2040年の未来予測』

2021年7月7日

2021年も半年が過ぎました。
今年こそ何かを始めたいと思いながらも
何もできないまま気付いたら半年が過ぎてしまった。
いや、半年どころか、もう何年も経ってしまった。
という方もいるかもしれません。

ここで質問です。
今から20年前、あなたはどちらで何をしていたでしょうか。
20年前はだいぶ前に感じますか。
それともついこの間でしょうか。

今日ご紹介する本は、今から約20年後の
2040年の未来を予測した本です。

『2040年の未来予測/成毛眞(なるけ・まこと)【日経BP】』

元日本マイクロソフト社長の成毛さんが書かれたこの本は、
今年1月に発売されて以来、すでに13万部を突破している話題作です。

先月開催したgraceのマネーセミナーでも
ファイナンシャルプランナーの先生がすすめていらっしゃったので、
私も読んでみることにしました。

20年後の話の前に、20年前と今を比べてみると、
どうでしょう?あなた自身はどんな変化がありましたか?

変わらないものもあれば、変わったものもたくさんあります。

特に大きく違うのはスマートフォンの普及です。
私もスマホの無い生活なんて考えられません。

電話以外にもビデオ通話にメール、検索、買い物もできますし、
音楽もラジオも聞けます。
映画もドラマもスポーツの試合も見られます。
また、私の場合、アクセント辞典や国語辞典も入れているので
辞書としての役割も果たしています。

でも、日本でiPhoneが発売されたのは、2008年の7月。
20年どころか、今からたった13年前のことなんです。

スマホ以外にも、Uber Eats やSpotify、Netflixなどの
新しいテクノロジーの登場によって生活様式が大きく変わりました。

でも、この新しいテクノロジーが登場したときというのは、
多くの人が反対するそうです。

例えば、カメラ、映画、テレビゲームも
当初は受け入れられなかったそうです。
今やすっかりおなじみなのに。

だからこそ、この先、新しいテクノロジーに対して
いち早くその可能性に思いを巡らせられる人には
チャンスがあると、成毛さんはおっしゃいます。

できることなら私はそのチャンスをつかみたい!と思い、
『2040年の未来予測』を読んでみました。

この本では、衣食住から年金・税金・医療費といった未来の経済、
気象にいたるまで様々なカテゴリーの2040年を予測しています。

具体的には、
・お札はなく手ぶらで買い物に行くのが主流になっている
・空飛ぶクルマが当たり前になっている
・就職に学歴が関係なくなる
・医療技術はAIのおかげで格段に進歩する
そうです。

生活が便利になったり医療が進歩したりするのは嬉しいことですね!

その一方で、高齢者が増えることでの問題も挙げています。
働き手不足、年金、医療費、GDPの減少など。
この先、日本はお先真っ暗なのか…と思ってしまうような話題が続きます。

でも、暗いだけではありません。
成毛さんはあるものによって問題がカバーできるとおっしゃいます。

その「あるもの」についてはぜひこの本を読んでお確かめください。

この本を読んで何を感じるかは人によって様々だと思いますが、
私は読んで良かったです。
大変勉強になりましたし、私自身は明るい気持ちになれました。

本の帯に「知っている人だけが悲劇を避けられる」とあります。

今もすでにそうですが、この先は知っている人と知らない人の二極化が
ますます進んでいくように思います。

大人になればなるほど世の中を知った気になってしまいがちですが、
今までの知識だけではこの先、取り残されてしまいますよー。

成毛さんによると、この先、生き残るのは優秀な人ではなく、
〇〇に××した人だそうです。

生き残れるのはどんな人だと思いますか?

yukikotajima 11:07 am

『げんじものがたり』

2021年6月30日

光君(ひかるくん)というと、誰が頭に浮かびますか?

「光源氏」が浮かんだ方は、先日最終回を迎えたNHKのドラマ
『いいね!光源氏くん し〜ずん2』をご覧になっていたのでは?

源氏物語の世界の光源氏が現代にやってくるという物語で、
光を千葉雄大さんが演じていました。
私も見ていましたが、ポテチが大好きなおっとりした光君、最高でした!
なお、この作品は、えすとえむさんの漫画をドラマ化したものです。

私は、源氏物語の漫画というと、
大和和紀(やまと・わき)さんの漫画『あさきゆめみし』を思い出します。
高校時代に受験勉強のために繰り返し読んだため、
今でも登場人物は漫画のキャラクターの顔で覚えています。

受験に役立ったかどうかは別として(笑)漫画のおかげで源氏物語が好きになり、
これまで本や映画、宝塚歌劇団のミュージカルなど、
様々な源氏物語の作品を楽しんできました。

でも、今の京都の言葉で書かれたものは初めて読みました。
今日ご紹介する本はこちら。

『げんじものがたり/いしいしんじ(講談社)』


この小説でもドラマのように光源氏は「光君(ひかるくん)」と呼ばれています。
ただ頭中将は「なかちゃん」ではなく「頭兄(とうにい)」ですが。(笑)

その他、紫の上は「紫ちゃん」、葵の上は「葵さん」など、
おなじみの登場人物たちが今どきの呼び方になっています。

なんと全て今の京都の言葉で書かれています。
それも原文に忠実に訳しているんですって。

平安の都で書かれた『源氏物語』は
本来は「京ことば」で書かれたはずなのに、
これまで与謝野晶子や谷崎潤一郎をはじめ
ほとんどが現代の標準語で書かれてきたのだとか。
そもそも「京ことば」で訳すことは難しいとも言われていたそうです。
その難題に挑まれたのが作家のいしいしんじさんです。

いしいさんが訳された『げんじものがたり』は、
京ことばに加えて、今どきの表現も使われています。

例えば、光君から歌が届いた女性は
「嘘やん、死ぬ!なんてリプしよ!」と言い、
光君も好きな女性のことを
「ていうか、こころの底から無限大に超ラブ」と表現しています。

なんか軽すぎやしないか…と思った方もいるかもしれません。
わかります。私も思いましたから。(笑)

でも、もう一度言います。
いしいさんは、原作に忠実に訳されたそうです。

源氏物語というと、もう少し雅で控えめな印象がありましたが、
今どきの言葉になったことで平安時代の人々が
いかに自分の心に正直であるかがよくわかりました。
特に光君!
今の人たち(私を含む)は、どこか自分の気持ちを
おさえこんでしまうところがありますが、
光君は自分の意のままに生きています。

ただ、言葉は今どきでも時代背景は平安のままですので、
現代の感覚とは異なる点も多々あるということはお忘れなく。

私は途中、平安の物語であることを忘れかけ、
次々に女性に恋していく様子に「光君サイテー!」と
心の中で突っ込んでしまいましたもん。(笑)

やはり同じ話でも使われる言葉によって印象って異なるものですね。

ちなみに、いしいさんの『げんじものがたり』は
作者である紫式部が「ちょっと聞いてよ〜!」と、
お喋りというか、噂話をする感じで進んでいきます。

例えば、光君のお母さん「桐壺の更衣」は帝の寵愛がすぎるあまり
周りの女性たちからいじめられていたのですが、
紫式部はこのように言います。

朝夕のおつとめに出はっても、
まわりからのジェラシー、イヤミばっかし積もっていくし、
それでやろか、えらい病気がちになってしまわはって。

そ・れ・が・や・ねえ!

前世からのご縁が、よっぽど深かったんやろうねえ、
おふたりの間に、ピッカピカの男の子がうまれはったん!

という感じです。笑

ね?まるで紫式部のお喋りを聞いているようでしょ。
ずっとこの調子で進んでいきます。

ちなみに、源氏物語はかなり長いお話ですが、
いしいさん版は光君が23歳の頃までの物語ですので、
それほど長くはありません。

ここのところ梅雨らしいお天気が続いていますね。
ぜひ雨の日の夜は、紫式部の噂話に耳を傾けてみては?

yukikotajima 9:33 am