ゆきれぽ

2025年5月14日

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『藍を継ぐ海』

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先週は今年の本屋大賞受賞作の『カフネ』をご紹介しましたが、
今週は直木賞受賞作をご紹介します。

『藍を継ぐ海』
伊与原新
新潮社

今年一月に直木賞に決まった作品です。
直木賞受賞おめでとうございます!

直木賞受賞作は毎回注目されますが、この作品はここ富山でも話題になっているようですよ。
と言うのも伊与原さんがかつて富山大学理学部で教員をしていたからです。
また、伊与原さんの『宙(そら)わたる教室』がドラマ化され、
このドラマが話題になる中での受賞ということもあって
受賞作以外の作品もよく売れているのだとか。

他の作品で田島のオススメは、以前、直木賞候補となった『八月の銀の雪』です。
未読の方はぜひ読んでみてください。

伊与原さんは今回二回目のノミネートで直木賞を受賞されました。

直木賞と言うと、村山由佳さんが書かれた直木賞がどうしても欲しい作家が主人公の小説
『PRIZE―プライズ―』を読んだばかりだったので、
伊与原さんも出版社の皆さんも受賞が決まって喜ばれたのはもちろん、
かなりホッとされたのではないかしらと勝手に想像してしまいました。(笑)

さて、『藍を継ぐ海』は、5つのお話が収録された短編集です。
それぞれ、山口、奈良、長崎、北海道、徳島と日本の地方が舞台となっています。
また、お話ごとに主人公も異なるのですが、
共通しているのは、みんな何かを抱えているということと、科学や自然が絡んでいるということです。

✳︎

まずは、山口の島で、萩焼に使うための伝説の土を探す男性に
関わることになった女性の物語から始まります。

女性は大学で地質学の研究をしており、島には地質調査のために訪れたのですが、
ひょんなことから男性と一緒に伝説の土を探すことになります。
とは言え、その男性の素性も目的もわからないのですが。

果たして伝説の土は見つかるのか。
そもそも彼は何者で、何のために土を探しているのでしょう。

✳︎

他には、オオカミの遠吠えを聞いた気がする女性の物語もあります。
実は彼女が暮らす奈良の村は、すでに絶滅したと考えられているニホンオオカミが
明治時代に捕獲された場所なのです。

隣に住む小学生の男子はオオカミを見たと言っているし、
オオカミは本当にいるんじゃないかと思っていたところ、
彼女はついにオオカミらしき動物を目撃します。
それはオオカミなのか。

個人的にはこのオオカミの話が一番好きです。
読みながら色々な意味でドキドキしました。

✳︎

表題作の「藍を継ぐ海」は、徳島の海辺の小さな町でウミガメの卵を孵化させて、
ひとりで育てようとする中学生の女の子の物語です。

と紹介すると、中学生とウミガメが中心の物語なのかしら?
と思いそうですが、ちょっと違います。
意外な人物たちが登場することで、物語の行方はまったくわからなくなります。
海辺の小さな町が舞台ですが、壮大な物語でした。

✳︎

こんな感じで、どの物語にもさまざまな謎が出てきます。
そして、私も登場人物たちと共にその謎を追いながら、気づけば本の世界に入り込んでいました。
短編であることを忘れてしまうくらい読み応えがありました。
また、それぞれのお話の終わり方が良いのです。
まだこの本を読んでいない方は、ぜひ一話ずつじっくりお楽しみください。
スッキリ目覚めた日のような清々しさを味わえると思いますよ。

ちなみにこの本の表紙は朝焼けの海のイラストなのですが、
読んだ後に改めて表紙を見たら、読む前よりも明るさを感じました。

なお、この装画を描かれた草野碧さんは富山出身だそうです。

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