ゆきれぽ

2025年11月26日

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『降りる人』

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読みたい本の選び方はいろいろありますが、タイトルを見て「これってどういうことだろう?」と気になって手に取ることもあります。今日紹介する本がまさにそんなタイプの本でした。だってタイトルが『降りる人』なんですもの。

『降りる人』
木野寿彦(きの・としひこ)
KADOKAWA

『降りる人』ってどんな人なのかしら?と思って手に取ってみたところ、本の帯には有名な作家さんたちの名前が並んでいまして、全員が作品を絶賛していましたので、読んでみることにしました。

なお、作家さんたちの名前は、冲方丁さん、辻村深月さん、道尾秀介さん、森見登美彦さん、尾崎世界観さんの5名です。なんとこの本、第16回小説 野性時代 新人賞の受賞作で、尾崎さん以外の作家さんたちは選考委員の皆さんなのです。

「小説 野性時代 新人賞」は、2009年に創設された文学新人賞で、これまでの受賞者には、芦沢央さん、蝉谷めぐ実さん、君嶋彼方さんなどがいます。ちなみに、君嶋さんは受賞作の『君の顔では泣けない』が映画化され、現在公開中です。

今年の受賞作『降りる人』は、選考委員の皆さんから高い評価を受けての受賞だそうです。新人賞の受賞おめでとうございます!

『降りる人』もいつか映画化される予感がします。というか、読みながら私は映画を見ている気分になりました。それも派手では無いのだけど見た後に余韻が続くような、ミニシアターで上映されるようなタイプの映画です。

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主人公は、心身ともに疲弊して仕事を辞めて期間工となった30歳の男性、宮田です。物語では彼の日常が描かれます。

宮田は、唯一の友人である浜野から「期間工は人と接することの少ない仕事」だと言われ、浜野と共に工場で働くことにします。会社の寮に入って、そこからバスに乗って工場に行き、工場で黙々と作業をする日々が始まるのですが、実は彼には秘密があり…という物語です。

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仕事の描写、特に緊張感漂う感じがとてもリアルで、まるで私自身がその場にいるような気分になったのですが、著者の木野さんは実際に工場で働いたことがあるそうです。職場の謎のルールや、ピリっとしたバスの中などは、もはや本を読むというより体感している気分でした。思わず肩に力が入ってしまうようなイヤな緊張感がありました。

その一方で、友人の浜野と過ごす時間はゆるく、とくに二人の掛け合いがくだらなくて面白く、何度も笑ってしまいました。浜野は不器用で色々とこじらせているのですが、宮田はそんな浜野に救われてもいます。いつも中身の無い話をしているようで、時々ハッとさせられるようなことを言ったりするのです。ちなみにタイトルの「降りる人」も浜野が言った言葉です。

人と接することの少ない仕事を選んだ宮田ですが、この物語には浜野をはじめ様々な人が出てきます。宮田は期間工としてどのような日々を送っていくことになるのでしょう。

最初にこの物語は映画っぽいと言いましたが、読み終えた後も映画のエンドロールを見ている気分で、しばらく作品の余韻に浸りました。いつか本当に映画化されないかな。

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