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『ばにらさま』

2021年9月29日

久しぶりに一日に二本の映画を見てきました。

まずは、『総理の夫』

原田マハさん原作の映画化です。
総理大臣なった妻とその夫の物語です。
女性初の総理を演じた中谷美紀さんが美しかった!

今まさに自民党の総裁選が行われており、
今日の午後3時半過ぎには新総裁が選出される予定です。

原作が出た8年前は、現実的には女性総理の誕生は今は無理かなと思っていましたが、
映画が公開された今年は、自民党の総裁選挙に女性候補が2人もいて、
時代の変化を感じます。

果たしてこのあと、この映画のように女性総理は誕生するのでしょうか。


もう一本は、7月に公開された大ヒット作『竜とそばかすの姫』です。

話題作とは言え公開から2ヶ月以上が経ち上映本数も減ってきたので
終わる前に必ずや!と見てまいりました。

こちらは、富山出身の細田守監督作品です。
主人公は、現実世界では田舎の女子高校生ですが、
ネットの仮想世界では世界で人気の歌姫という女性です。

ネットの世界では名前も顔も隠しているため、
現実では無理なことができたり、
面と向かっては言えないようなことも言えたり、
現実世界とは異なる自分を演じたり、
逆に誰だかわからないこそ本音が言えたりすることもあります。

今日のユキコレ(毎週水曜13時45分頃〜のgrace内コーナー)
でご紹介する本にもネットに自分の気持ちをさらけ出す人たちが出てきます。

『ばにらさま/山本文緒(文藝春秋)』

去年の秋に7年ぶりに発売された新刊『自転しながら公転する』が話題になった
山本文緒さんの9月13日に発売されたばかりの短編集です。

次作は何年後かしらと思っていたら一年で新刊が発売されてびっくり!
どうやら『自転しながら公転する』と同時にお書きになっていたようです。

本屋さんで表紙のキュートな女性のイラストと
『ばにらさま』というタイトルを見たときは、
まさか山本文緒さんの作品だとは思わず、
インパクトのある表紙だなくらいしか思わなかったのですが、
著者の名前を見てびっくり!名前を見なければ素通りするところでした。
ほんと気付いて良かった。

だってこの本素晴らしかったんですもの!

短編集には6作品収録されていまして、
中にはブログやSNSに自分の心のうちを書いている登場人物たちも出てきます。

ネットって不思議なもので、
誰でも見られるものなのに家族などの身近な人が見ている、
ということをつい忘れてしまいそうになるのですよね。

そして、ネット上に本音をもらしてしまうこともあります。
心の弱さだったり、怒りだったりを。

私は、Twitterを始めた当時、まるで『王様の耳はロバの耳』の穴
のようだなと思ったのですが、その印象は今も変わりません。

身近な人には言えないけれど、誰かに言いたいことを
穴に向かってみんなが叫んでいるなあと。

短編集の中身についても少しご紹介しましょう。
表題作の「ばにらさま」は、冴えない僕に初めてできた
バニラアイスみたいに白くて冷たい恋人との出来事が書かれています。
ちなみに冷たいのは、心ではなく体のことです。
薄着のためいつも体が冷たい彼女のことを彼は心配しています。

「子供おばさん」は、中学の同級生の葬儀に出席した47歳の独身女性の物語です。
彼女は遺族から形見としてあるものを託されてしまいます。
でも、ある理由からここ7年会っていなかったため、
なぜ私なの?という思いがぬぐえない彼女は、友人との思い出を振り返ります。

「わたしは大丈夫」は、必死に節約をしながら夫と子供との生活を送る主婦と、
既婚者と恋愛関係にある独身女性の話が交互に描かれる短編です。

節約のために暑い夏でもエアコンを使わずに我慢する主婦に対して、
不倫を楽しむ女性は「人妻は大変だな」くらいにしかしか思っていません。
と紹介すると、よくある話だよねと思われそうですが、そうじゃないんです!

読みながら突然、心がドクンと跳ねました。
「え?どういうこと?」と頭が混乱しながら最後まで読んだあと、
最初からまた読み直してしまいました。

本の帯に「思わず二度読み」と書かれていて、
一体どういうことかしら?と思いましたが、
まさにその通りのことをしてしまいました。

ネタバレになるので詳しいことは言えないのですが、
ガラリと物語の見え方が変わる瞬間がありまして、
最初と二度目ではもはや別の物語のように感じられました。

いやー、思い込みってこわいわ。
私はすっかり騙されました。

著者の山本文緒さんが出版社のサイトで、

どの作品にも「え?!」と驚いて頂けるような仕掛けを用意しました。

とおっしゃっているのですが、
私はまんまとその仕掛けにハマってしまいました。

皆さんにも私が感じたこの驚きを体感して頂きたい!

登場人物はよくいる人たちなんだけど、
山本文緒さんの手にかかると、物語は一味違ったものになります。

私、山本文緒さんの作品を紹介するたびに、
山本さんへ愛の告白をしているような気がしますが、
今回もあらためて好きだと実感しました。(笑)

『ばにらさま』は、読書の面白さを堪能できた作品でした。
また、人にはいろいろな面があるということに気付かされました。
良く知る身近な人にもあなたの知らない一面があるかもしれませんよ。

長編を読む時間は無いけど何か面白い作品を読みたいという方にもオススメです。
まあ、二度読みしたくなるから結局長編と変わらないかもしれませんが。(笑)

yukikotajima 11:41 am

『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』

2021年9月22日

2019年に発売された

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、お読みになりましたか?
7月に文庫化されたことで最近また話題になっているようです。

『ぼくイエ』は、イギリスに住む著者の中学生の息子について書かれた本です。
いじめ、喧嘩、差別のある中学に入学した息子君が、
それぞれの問題について真剣に向き合い
お母さんと一緒に何が正しいのか悩み、考えていくという内容で、
80万部を超えるベストセラーとなりました。
私はラジオでもご紹介し、2019年に読んで良かった本の1位に選びました。

●私の本の感想は コチラ

今日ご紹介するのは、その『ぼくイエ』の著書、ブレイディみかこさんの新作です。

『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ(文藝春秋)』

『ぼくイエ』にも「エンパシー」という言葉が登場していました。

『ぼくイエ』では、「エンパシー」とは「共感」ではない他者を理解する言葉で、
「誰かの靴を履く」ことだと解説されていました。

ただ、欧米ではエンパシーをめぐる様々な議論があり、
中にはエンパシーは良くないという考えの人もいるそうです。
そういった様々な議論を取り上げながら、
エンパシーとは何かについて掘り下げたのがこの本で、
『ぼくイエ』の副読本とも言えるそうです。

辞書によると、エンパシーは他者の感情や経験などを理解する能力です。
心で感じるものではなく「能力」なんですね。
日本語訳ではよく「共感」と訳されることが多いそうですが、
エンパシーは共感しなくてもいいのとか。
違う考えを持つ相手に対して、その人の立場だったら自分はどうだろう
と想像してみる知的作業が「エンパシー」なんですって。

つまり、他者の靴を履いてみるということです。

でも、中には相手のことを考えているつもりが
自分の靴で他者の領域をずかずか歩いているなんてこともあるのだとか。
たしかにSNSなどを見ていると、そういう方多いですよね。。。

間違えずに「他者の靴を履く」にはどうしたらいいのか。
その答えがこの本には書かれています。

大変面白い本でした!まるで楽しい大学の授業を受けている気分でした。
かなり濃い内容で読みごたえがあるものの決して難しすぎるわけではなく、
「エンパシー」について丁寧に分析されているので、
納得しながら読み進めることができました。
読み終えたときには、久しぶりに「学んだー!」という気持ちでした。(笑)

印象に残った箇所をいくつかピックアップします。

著者の息子君の学校では、『ロミオとジュリエット』の主人公になりきって
ラブレターを書くという課題が出たそうです。
それも最初の週は男女関係なく全員がロミオになりラップ調で
次の週は全員がジュリエットになってクラシックなラブレターを書け、
というものだったのだとか。

他には、赤ん坊からエンパシーを教わる
「ルーツ・オブ・エンパシー」というものもあるそうです。
赤ん坊の反応や感情表現、成長を見ることで
エンパシーを育てることができるんですって。
たとえば、おもちゃが手に届かずイライラしている赤ちゃんを見ながら、
あなたはどんな時にイライラする?と子どもたちに聞くのだとか。

他者の感情を想像しながら話し合うことで、
子どもたちは自分の意見を言うことができるようになるそうです。

知識を詰め込むだけではなく、
想像して考えるといった「ソフト・スキル」も大事なのですよね。
そして、このスキルは子どもたちだけでなく大人にも、いや、大人にこそ必要です。

それから、本のタイトルには「アナ—キック・エンパシー」とあります。
ブレイディさんの言うところのアナーキーとは?
詳しくは、本を読んでみてね。

そうそう!

ブレイディさんと言いますと、
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の完結編となる
続編『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2』が
9月16日発売されたそうです。

こちらも読まねば!

yukikotajima 11:10 am

アイアムマイヒーロー!

2021年9月15日

あなたには、今までの自分を捨て去って
新たな自分として生まれ変わりたいと思ったことはありますか?

私は子どもの頃よく思っていました。
寝るときに、朝目覚めたら別人に生まれ変わってないかな
と密かに何度も願っていました。
嫌なことがあるたび現実逃避をしていたのだと思います。

さすがに大人になった今は思わないけど、
あの頃に戻って人生をやり直したいと思うことは今でもあります。
ちなみに「あの頃」はその時の気分で毎回変わります。(笑)


今日ご紹介する本は、「赤の他人」として
10年前にタイムスリップしてしまった男子大学生の物語です。

『アイアムマイヒーロー!/鯨井あめ(講談社)』

主人公は、授業には行かずバイトもしていない
自堕落な生活を送る大学生のタカナリです。
自分のことをプライドは高いくせに繊細で傷つきやすいと思っています。

ある日、そんな自分を変えてくれる劇的な何かがあったらいいなと期待して
同窓会に参加するのですが、話の途中にカッとなって途中で席を立ってしまいます。

駅へと向かったタカナリは、女性がホームから転落するのを目撃します。
助けなければと思うものの身体が動きません。
電車も迫ってきたし、やばい。どうしよう!と思った瞬間、意識が遠のき、
目が覚めると全く知らない子どもの姿となっていたのでした。
そして目の前には小学生時代の自分がいて話しかけてきます。
どうやら自分は「カズヤ」という名前で
タカナリの友だちであることがわかります。
しかし「カズヤ」なんて友だちがいた記憶はありません。

タカナリは、「赤の他人」として10年前にタイムスリップしてしまったのでした。

小学生の頃のタカナリは自分のことをヒーローだと宣言するような、
まっすぐで明るい人気者でした。

ですが、赤の他人になって客観的に少年タカナリを見てみると、
人の忠告なんて聞き入れないし、
反省もしない、我が道を行く我儘少年だったのでした。

タカナリは、少年タカナリの性格や思考回路を少しでも変えられたら、
未来の自分も変わるのでは?と矯正することを思いつきます。
と言っても少年タカナリは人の話を聞かないので、なかなかうまくいかないのですが。

タイムスリップの謎はわからないし、
少年タカナリは問題児のままだし、
このまま赤の他人である「カズヤ」として
新しい人生を歩むのもありかなという考えも芽生え始め…。

果たしてタカナリはこの先どう生きていくことになるのでしょうか。


ところで、この物語はタイムスリップの原因を究明するだけのお話ではありません。

実は本来無かったはずの事件がタイムスリップ先で立て続けに起こってしまうのです。
昆虫や鳥の死骸が次々に見つかったり、少年が不審者に声をかけられたり。

犯人は誰なのか。
そもそも何のためにこんな事をしているのか。
タカナリは自分たちで犯人を探すことにします。
事件の真相とは?

この続きはぜひ小説でお楽しみください。

***

面白かったです!
特に終わりが良かった。
ネタバレになるのでどう良かったかは言えないのですが、
きっとこの本を読んだ人は、
この先生きていく上で大切なことに気付かされると思います。
私は読後に心がすこし軽くなりました。
例えるなら、心の換気ができたような感じかな。

すぐに人のせいにしたり、
何もかもが気に入らなかったりする方は、
心が良くない感情で埋め尽くされているせいで
心が狭くなっているのだと思います。

心の風通しがよくなると感じ方や見え方も変わるものですよ。
ぜひこの本を読んで、まずは心の換気をしてみてください。


それにしてもですよ!
自分の目の前に小学生の自分が現れるって、すごい状況ですよね。
ちょっと想像してみてください。
仲良くなれそうですか?

私はどうかなあ。仲良くなれないかもなー。(笑)
でも、授業中の様子や、友だちや親とどのように接していたのかは見てみたいかな。
想像するに、生意気な気がします。(笑)

あなたはどうですか?

yukikotajima 10:47 am

『川のほとりで羽化するぼくら』

2021年9月8日

ついこの間まで行われていたオリンピック・パラリンピックでは
「多様性」という言葉をよく耳にしました。
大会ビジョンにも「互いを認め合う」という言葉が入っていました。

この東京大会を機に世界が良い方向へと変わっていったらいいなと思いますが、
今の段階では、少数派は生きづらさを感じることもあるでしょうし、
多数派の中にも息苦しさを感じている方もいるのではないでしょうか。

今日ご紹介する本は、まさに「今の時代」が切り取られた短編集です。

『川のほとりで羽化するぼくら/彩瀬まる(角川書店)』

まずは、勤め先の事業所が閉鎖されたことを機に会社を辞め、
働く妻に代わって家事育児のメインプレーヤーになると決めた夫の物語
「わたれない」です。

夫は、仕事漬けの毎日でほとんど家事や育児に参加してこなかったため、
7ヶ月の赤ちゃんの世話はうまくいかないことだらけで、
てんてこまいの毎日を送っています。
自分がママじゃないことで子どもを苦しめているのかと悩むこともあります。

そんなある日、どうしても子どもが泣き止まなかった時に
ネットでとある子育て日記を見つけ、助けられます。
それ以降、子どもへの対応で迷いが生じた時はそのブログを参考にするようになります。

しかし、子育てにもだいぶ慣れてきたあとも、
公園では他のママたちからは警戒されるし、
子どもの健診のための事前アンケートには
「ママ目線」の項目ばかりでさみしさを感じます。

そんな中、さらに彼を苦しめる出来事が起きてしまい…。

最近は、女らしさ、男らしさという言葉があまり使われなくなりました。
そして、さまざまな考え方、生き方を認めていこうという流れになっていますが、
実際のところ、古い感覚のままの方もまだまだいて、
平気で傷つけるようなことを言ってきたりもします。

その一方で、自分なりに生きやすい方法を見つける方もいます。
どうせわかってもらえないと諦めたり自棄になったりするのではなく、
どうしたら自分らしく生きられるのかを考えて。

今まさに少数派に属していて生きづらさを感じている方は、
このお話からきっとたくさんのヒントが貰えると思います。

老若男女問わず多くの方に読んで頂きたいお話でした。
それこそ教科書に載せてほしいくらい!

✴︎✴︎✴︎

それから、最後に収録されたお話「ひかるほし」も良かったです。
こちらは高齢のご夫婦の物語です。お話は妻目線で進んでいきます。

80歳を過ぎて夫は勲章をもらったのに、夫を支え続けた妻は何ももらえません。

面倒なことは全て夫から押し付けられ、妻は耐えて耐えて生きてきたのでした。
妻によると、夫は仕事の面では有能だけれど、
それ以外の面はことごとく自分勝手で、幼稚だそうです。
また、妻のことはどんなことでも干渉してきます。

でも、夫のおかげで食うに困ったことはなかったから、自分はマシだ。
贅沢を言ったら、ばちが当たる。と呪文のように繰り返しながら生きてきました。

と同時に、予想外の物事にぶつかったとき、
どうしていいか分からず夫に対処を求めてしまう自分は、
一人で生きていけないとも思っています。

そして、自分の判断で生きている女性たちを見て、
自分にはできないことだと、どこか他人事のように考えています。

そんな妻でしたが、まわりの女性たちから影響を受け、少しずつ変わっていきます。

このお話も良かった。
読みながら涙が止まりませんでした。
いろんな女性の顔が浮かんでしまって。

この高齢のご夫婦のような関係の方は少なく無いように思うのです。
なぜならそういう時代だったから。
でも、今は令和です。時代は変わったんです。
「ばちが当たる」の一言で全ての理不尽を受け入れてきた世代の方に、
この作品が届いて欲しい。

自分には今の生き方しか無いから、今更変えるなんて無理と思いながらも
心の中には何かモヤモヤしたものがある方はいませんか?
そのモヤモヤはきっと変わりたいという思いだと思います。

大人になればなるほど変化が怖かったり面倒だったりするけれど、
でも、やってみたら拍子抜けするほど簡単だったってこともあるかもしれませんよ。

この短編集には、ご紹介した2つのお話以外には
七夕伝説がもとになったファンタジーやSFが収録されています。
でも本全体から感じられる空気感は「今」の時代そのものです。
そして、本のタイトルに「川」という言葉があるとおり、
それぞれが自分の川を越えようとします。

この本を読んだ後は、私も一歩前に踏み出し川を渡りたくなりました。

また、五感を感じさせる文章も素晴らしく
読んでいて心地良かったです。
いい本でした!

yukikotajima 11:24 am

『ワラグル』

2021年9月1日

突然ですが、質問です。

中川家
ブラックマヨネーズ
サンドウィッチマン
トレンディエンジェル
ミルクボーイ

に共通することは何でしょう?

正解は…

M-1グランプリの優勝者です。

去年はマヂカルラブリーが優勝しました。

M-1グランプリは、吉本興業が主催する
最も面白い漫才師を決める大会で、
出場資格は結成15年以内の2人以上の漫才師、
審査基準は「とにかくおもしろい漫才」です。

今年は昨日8月31日がエントリーの最終日でした。
応募した方はいますか?

1回戦、2回戦、3回戦、準々決勝、準決勝、
敗者復活戦、そして決勝が行われ、
チャンピオンには優勝賞金1000万円が贈られるほか、
知名度も上がり、仕事も爆発的に増えます。

今日ご紹介する小説は、漫才日本一を目指す漫才師たちの物語です。

『ワラグル/浜口倫太郎(小学館)』

著者の浜口さんは、漫才作家、放送作家を経て、
2010年に『アゲイン』で第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞しデビュー。
『22年目の告白ー私が殺人犯ですー』は
20万部を超えるベストセラーとなり、映画化もされました。

新作の『ワラグル』は、書店員の間で「一気読みの面白さ」
と話題になってるようです。
たしかに私も最後までノンストップでした。
431ページと結構分量はあるのですが、長さは全く気になりませんでした。
それも読んでいる間、笑ったり泣いたり驚いたりして、
ずっと心が動かされ続けました。

タイトルの「ワラグル」とは、昔の芸人用語で
「笑いに狂う」という意味なんですって。

この物語は、3人の視点で進んでいきます。

まず、崖っぷちの中堅漫才コンビの凛太(りんた)。
彼は、漫才日本一を決めるキングオブ漫才(M-1グランプリらしきもの)
に出るものの、決勝に進むための敗者復活戦で敗れ、コンビは解散。

相方はいなくなってしまった凛太ですが、漫才は続けたいと思っています。
そんな彼の前にキングオブ漫才で王者になった先輩から
死神と呼ばれる謎の放送作家ラリーにコーチに付いてもらうことを提案されます。

そして凛太はラリーのもとを訪れるのですが、ある条件を提示されます。
「来年決勝に残れなければ芸人を辞めろ」と。

凛太はその条件を受け入れ、相方探しを始めます。


2人目は、凛太の後輩の漫才師のマルコです。
「キングガン」というコンビを組んでいるのですが、コンビ仲は最悪で、
舞台上で喧嘩をしてしまったことで謹慎処分になってしまいます。

そんなキングガンにもラリーが付くことになります。

凛太は、過去の漫才も勉強もするし、ネタ合わせも何度もやる、
しっかり準備をしたいタイプです。
一方のキングガンは、のびのび自由にやりたいと考えています。

そんなタイプの異なる二つのコンビに同じ放送作家が付くことになり、
それぞれが漫才日本一を目指していくことになります。


そして、もう一組は、梓と文吾の大学生カップルです。
文吾の視点で梓のことが語られています。
ちなみに、二人は漫才師ではなく、
彼女のほうがお笑い好きで、放送作家を目指しています。

梓はいつかお笑い番組や芸人のライブの企画や構成をする仕事をしたいと、
芸人のラジオ番組にネタを投稿する日々を送っています。
面白いネタを送れば業界の人に注目されるかもと夢見ながら。
そんな彼女を文吾は心から応援しています。


物語はこの3組のお話が交互に、
そしてゆるやかに繋がりながら描かれていきます。

夢に向かって突き進む若者たちの物語は、とても面白かったですし、
漫才がどのように作られ、どういったことが大事なのかといった
「漫才」について学べたのも楽しかったです。

例えば…

・漫才は一心同体と言えるまで二人の息を合わせないと笑いは生まれない

・笑いは空気が大事。芸人とお客さんが一体にならないと笑いは生まれない

たしかに場の空気って大事ですよね。
私は漫才師ではないですが、人前に立つという点では重なるところもあり、
私自身もラリーさんに鍛えられている気分になりました。

ラリーさんは、死神と陰で言われるくらいの人なので、
決して陽気でもないし、言い方もきついのですが、教え方はうまいのです。

タイプの異なる二組のコンビをどのように指導していったのかは、
ぜひ本を読んで確かめていただきたいのですが、
これが読んでいて飽きないんです。
次はどんな指導をするのかしら?
とページをめくるのが楽しくてたまりませんでした。

正直なことを言うと、私はお笑いには詳しくありませんし、
毎年熱心にM-1を見ているわけではないのですが、
それでもこの本は楽しく読めました。
そして、今年のM-1は絶対に見たい!と思いました。

また、この小説は、夢を追う若者たちの物語としての面白さだけでなく、
文字で書かれた「小説」だからこそのお楽しみもあります。
最近は、話題になった作品は次々に映像化されていきますが、
この作品は、本じゃなきゃダメなんです。

ぜひ日本一の漫才師を目指している気分で
ドキドキ緊張しながら読んでみてください。

ずっと家にいて変わらぬ日常で退屈…
という方にはいい刺激になると思います!

中には漫才師を目指したくなる人もいるかも!?

yukikotajima 11:46 am