ゆきれぽ

2025年7月9日

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『踊りつかれて』

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SNSをしている方は、どのような使い方をしているでしょうか。

リスナーの皆さんの中には、番組にメッセージを送るために使っている方もいることでしょう。
いつも番組宛にメッセージをお送りいただき、ありがとうございます。

一方で、SNSでは良かれと思って、あえて厳しい言葉で発言をしている、
という大変正義感の強い方もいるかもしれません。

でも・・・その発言は本当に必要でしょうか。

ただの憂さ晴らしになっていませんか。
思考停止に陥って、想像力の欠けた言葉で人を傷つけていませんか。

仮にそうだとしても、自分には影響力無いから大丈夫!
と、いま思いませんでしたか?

今日は、そんなあなたに読んでいただきたい本をご紹介します。

『踊りつかれて』
塩田武士
文藝春秋

この本は、ちょうど一週間後に発表される直木賞の候補になっています。

ぜひ受賞しますように!
そして一人でも多くの人がこの本を読みますように!
と心から願っています。

さて、著者の塩田さんは、映画化された『罪の声』や『騙し絵の牙』などで知られる社会派作家です。

私も好きな作家さんの一人で、去年は『存在のすべてを』をラジオでご紹介しました。

◎『存在のすべてを』のブログは コチラ

今回の『踊りつかれて』も最高でした。
いや、これまでの作品の中で一番好きかも。

物語は序章から始まります。
ここで描かれているのは、SNSや雑誌による誹謗中傷で
自分にとって大切な2人を失った、ある人物の怒りです。

その2人というのは、
不倫を報じられてSNSでひどい誹謗中傷を受けた結果、自ら死を選んだ人気お笑い芸人と、
バブル期に写真週刊誌のデタラメな記事のせいで、人前から姿を消した伝説の歌姫のことです。

そんな自分の好きな2人の芸能人を誹謗中傷や週刊誌報道によって失ったことが赦せない
と思ったその人物は「枯葉(かれは)」と名乗って、
誹謗中傷をした83人の個人情報をブログにさらします。

ちなみに、その怒りの序章は文藝春秋のサイトで読めます。それも全文!

◎序章は コチラ

このあと、物語は第一章へと続いていきます。

第一章から先は、個人情報をさらされた加害者でもあり被害者でもある彼らの素顔や、
怒りのブログを書いた「枯葉」とはどんな人物なのかが明らかになっていきます。

そして、その後は「枯葉」を弁護することになる女性弁護士の視点で進んでいきます。
物語がここからどのように進んで、どこに着地するのかは、ご自身でお確かめください。

✳︎

500ページ近くある長編なのですが、一気読みの面白さでした。

SNSが登場して、いい面ももちろんあるけれど、匿名での誹謗中傷も増えましたよね。
私もSNSで嫌な目にあったことがあるため、
この本の序章の怒りに触れた時、わかる、と思ってしまいました。
私も同じ怒りを感じていると。

「枯葉」はただ闇雲に怒りをぶちまけているわけではありません。
口調はキツイけど、言っていることはまっとうです。

例えば、本の帯の一文。
〈誰かが死ななきゃわかんないの?〉

もちろん個人情報をさらすというケジメのつけ方がいいとは思いませんが。

でも、枯葉の言葉は心に響くんですよ。
つまり、他人事は思えないのです。
そういう意味でも、多くの人に読んでもらいたいです。
ひとりひとりが自分のこととして読めば、
現実の世界も少しはいい方に変わるんじゃ無いかなあと思いまして。

それから、この本ではSNSだけでなく、雑誌の批判もしているのですが、
この本を出したのは、「文藝春秋」です。
あの「文春砲」の出版社です。(笑)
ここに覚悟を感じませんか?

色んな意味ですごい一冊でした。

直木賞を受賞したら、売り切れになってしまうかもしれませんので、
ぜひ今のうちにゲットしておきましょう!(笑)

直木賞の発表は、来週の水曜日、7月16日です。

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