ゆきれぽ

2026年5月27日

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『見えるか保己一』

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今日ご紹介する本は、5月14日(木)に「第39回山本周五郎賞」を受賞した話題の小説です。

『見えるか保己一(ほきいち)』
蝉谷めぐ実(せみたに・めぐみ)
株式会社KADOKAWA

まずは受賞おめでとうございます!

私は蝉谷さんの文体が好きなのです。特にはじめて読んだ『おんなの女房』はお気に入りの一冊です。本を読むというより、お話を聞く感覚で楽しめます。それも江戸の言葉で。リズミカルで息継ぎまでが気持ち良く、あっという間に江戸の世界へと連れていってくれます。

蝉谷さんの作品からは声が聞こえてくるのですが、新刊の『見えるか保己一』は、書籍だけでなく、オーディオブック化されていて、実際に聞くことができます。それも視覚に障害を持つ方にも同じタイミングで物語を届けたいと、書籍の発売日と同じ日に配信されたそうですよ。

✳︎

主人公は、ヘレンケラーも尊敬したという、江戸時代の全盲の国学者・塙保己一(はなわ・ほきいち)です。保己一は、7歳のときに病気がもとで失明してしまいます。しかし驚異的な記憶力を生かし、国内最大の叢書(そうしょ)「群書類従(ぐんしょるいじゅう)』を編さんするなど、学者として活躍します。(※叢書とは、一度世に出た書物を集めて、分野別に編さんして、書物にまとめあげたもの)

物語では、保己一の視点と、彼のまわりの人たちの視点、つまり「目が見えない世界」と「見える世界」が描かれます。特に見えない世界の描き方が印象的でした。保己一は目は見えないものの、耳、鼻、口、肌でさまざまなことを感じ取っていきます。これまでの蝉谷さんの作品は音が聞こえていましたが、今回は音だけでなく匂いや温度も感じられました。

保己一は匂いや温度、声などからその人の本心を探るのですが、本当は見えているのでは無いか?と疑われることもあるほど、彼には色々なものがわかります。でも、すべてわかるわけではなく、すれ違いも生じますし、それゆえの悩みも尽きません。『見えるか保己一』は、保己一の偉業をたたえる偉人伝ではありません。たしかに保己一は天才です。でも、彼を無闇に持ち上げることはしていません。

また、悩んでいるのは保己一だけではありません。保己一のまわりの人たちにもそれぞれ葛藤があります。物語では、そんな彼らの本心や事実も描かれます。

保己一は子どもの頃からどんなことを考えていて生きてきたのか。また視覚以外で捉える世界とはどういったものなのか。一方、彼のまわりの人たちはどんな気持ちでいたのか。ぜひそれぞれ心の中をのぞいてみてください。

私はこの本を読んだ後、世界の感じ方が変わりました。この世界が広がる感覚をぜひ多くの方に味わっていただきたいです。

それから、物語には去年の大河ドラマ『べらぼう』の主人公の蔦重(つたじゅう)”こと蔦屋重三郎をはじめ、ドラマに出てきたお馴染みのメンバーも出てきますので、べらぼうファンは必ず読みましょう。(笑)

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