ゆきれぽ

2026年2月25日

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『グロリアソサエテ』

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先週の「ゆきれぽ」では、小説家を夢見る少女すてらの物語、原田マハさん『晴れの日の木馬たち』を紹介しました。岡山の紡績会社で働いていたすてらが、社長の大原孫三郎から「小説を書くなら、これを読んだらいい」と渡されたのが、雑誌『白樺』でした。

『白樺』は武者小路実篤や志賀直哉など学習院の友人たちによって作られた文芸・美術雑誌で、創刊メンバーの中には、柳宗悦(やなぎ・むねよし)もいます。通称「そうえつ」ですね。

柳宗悦は、河井寬次郎、濱田庄司と共に「民藝」を提唱した、民藝運動の父と呼ばれる人物です。彼らは日用の品に自由な美を見出し、「民藝」と名付けます。

さて、今日ご紹介する小説は、そんな新たな美「民藝」の世界を切り拓いた柳たちの物語です。

『グロリアソサエテ』
朝井まかて
株式会社KADOKAWA

ちなみに、先週紹介した原田マハさんの小説『晴れの日の木馬たち』の続編ではありません。著者も出版社も異なる別の本です。読みたい本を選んだら、たまたま同じ時代の本になってしまったのでした。でも、続けて読んだことで、よりその時代の空気感がわかって、どちらの作品もさらに深く楽しめたように思います。たとえば、どちらにも雑誌『白樺』に加えて、大原孫三郎の名前も出てくるのですが、まるで2冊がリンクしているかのようにも感じられ、偶然とは言え、この順で続けて読んで良かったと思いました。

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さて、朝井まかてさんの小説『グロリアソサエテ』は、柳宗悦が住む京都の家で女中奉公をはじめた少女サチの視点で進んでいきます。

ある日、柳の家に濱田庄司と河井寛次郎という2人の陶芸家が訪れます。最初はピリッとした雰囲気ながらも3人はすぐに意気投合し、共に京都の朝市に出かけるようになります。そして他の人が見向きもしない「下手物」すなわち日常遣いの品を見つけては「いいねえ」と言い合いながら、次々に購入していきます。そんな彼らにサチは荷物持ちとして同行します。

実際、柳の家には物が多いのですが、サチは部屋の中にあるたくさんの物を見ながら、心地良さを感じます。そして、段々その理由もわかるようになり、彼女自身も「民藝」に魅せられていきます。

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柳たちは、これまで見向きもされなかった無名の職人たちの手仕事に美を見出し、「民藝」と名付け、世に提唱していくわけですが、物語は柳ではなく、女中のサチの視点で描かれていきますので、「民藝の提唱だなんて、なんだか難しそう…」と思った方でも心配ありません。

それに民藝とあわせてサチの日常も描かれますし。特に料理の描写が多いのですが、どの料理も美味しそうでお腹が減ります。また、さすが柳家の食卓です。料理をどの器に盛るかが大事で、そんなこだわりが印象に残りました。でも、それこそが民藝なのですよね。そうやって自然と民藝について学べるのも楽しかったです。

また、奥様の「兼子(かねこ)」も存在感を放っています。この時代、女性がやりたいことを貫くのは大変でしたが、兼子は一流の声楽家として活躍し続けます。なんなら一家を経済面で支えていたのは、この兼子です。

『グロリアソサエテ』は、柳たちによる「民藝」の物語を軸に、柳家の日常、さらにサチ自身のお話も加わり、さまざまな角度から楽しめる一冊でした。

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私は朝井まかてさんの文章が大好きです。言葉選びや文章のリズムが心地良く、するする読めます。また、五感で味わえる文章で、今回も京都の四季や、旬の食べ物、柳が見つけ出した数々の器のほか、登場人物たちの心の動きや表情、温もりまでが感じられました。

それから、読み終えた後、2024年に富山県美術館で開催された「民藝展」の図録を持っていたことを思い出し、あらためて読んでみたのですが、図録がまるで小説のスピンオフのように感じられてしまいました。(笑)

先週は岡山の「大原美術館」に行きたいと思いましたが、今は東京の「日本民藝館」に行きたい気分です。小説を読むたび行きたいところが増えていく。(笑)でもまずは、大原孫三郎も関わった「日本民藝館」からかな。さて、いつ行こう。

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