ゆきれぽ

2026年5月13日

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『咲良は上手に説明したい!』

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こんな風に思ったことはありませんか。

「正しく伝えたのに、なんでわかってくれないの?」「私が言いたいのは、そういうことじゃないんだけどな…」「私が書いたことをちゃんと読んでよ」

自分の言いたいことが相手に伝わらないのはストレスですよね…。

でも!

あなたの伝え方がちょっとわかりにくかった、ということはありませんか。

今日は、相手に伝わる、わかりやすい文章の書き方が学べる小説をご紹介します。

『咲良は上手に説明したい!』
滝沢志郎
PHP研究所

2月の発売から約2か月で累計発行部数3万部を突破したという話題の小説です。

著者の滝沢さんは、2017年に『明治乙女物語』で松本清張賞を受賞し、デビューされました。(このデビュー作も当時ラジオでご紹介しています)

✳︎

物語は、台風で各路線が運休し混乱する横浜駅から始まります。駅のホワイトボードには各路線の運行状況が書かれているものの、細かすぎてわかりにくいため乗客たちは結局どうしたらいいかわからず、アルバイト駅員の桜良(さくら)は対応に追われています。

そんな中、浅倉という一人の女性が現れ、ホワイトボードの文章を端的でわかりやすい説明に書きかえます。すると、それを見た乗客たちは納得してその場を離れ、駅の混乱はおさまります。

その光景に衝撃を受けた桜良は、なんと浅倉が働く老舗マニュアル制作会社に入社してしまいます。

実は浅倉はテクニカルライターなのでした。テクニカルライターは、専門家の言葉を一般の人に、文章表現で「わかりやすく、正確に」伝える技術を身につけた職人のことです。なんと著者の滝沢さんもテクニカルライターをしていたそうですよ。(道理で小説もわかりやすいわけだ!)

桜良も浅倉に指導を受けながらテクニカルライターとして働きはじめます。

主な仕事は、家電などの製品の取扱説明書の制作ですが、それだけにとどまらず、シェアオフィスの契約者向けの利用マニュアルや、AEDの使用を想定した救命マニュアルなども作ります。

たとえば、シェアオフィスのマニュアルの中には、オフィス内に貼られる「ゴミの分別の案内」もあるのですが、よくある案内も書き方ひとつで印象がガラリと変わります。

物語では、そんなトリセツを作っていく過程が描かれるのですが、それがとても面白く、気付けば私もテクニカルライターの気分で、私だったらこのトリセツをどう書くかしら?と考えながら読んでいました。だからこそ浅倉たちプロが作ったトリセツの凄さがよりわかりましたし、大変勉強になりました。職場の雰囲気も良くて私もこの会社で働きたいと思ってしまったほどです。今の時代、AIでも文章は書けます。でも、テクニカルライターは人間だからこそできる仕事なのです。私はそこに魅力を感じ、転職したいと思いました。

まあ、本の世界の会社への転職は無理ですが(笑)、この本からたくさんのことを学ぶことはできます。
わかりやすい文章の書き方だけでなく、AEDの使い方も勉強になりました。また、トリセツそのものの印象も変わりました。私はこれまでもトリセツはわりと読んでいたのですが、小説を読んだ後にあらためて家にある家電のトリセツを読んでみたら、どれも結構わかりやすくて、そのことに感動しました。

そして、以前、先輩アナウンサーから、こう言われたことを思い出しました。
「上手いアナウンサーは上手いとは思われない。喋っている内容が自然に耳に入ってくるだけだから」

トリセツも同じですよね。ストレス無く内容を理解できるのが、いいトリセツということですよね。そして、この小説ももちろん気持ち良く読めましたよ。

楽しい上にスキルアップもできる一冊です。ふだん小説はあまり読まないという方もぜひ。

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