ゆきれぽ

2025年9月17日

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『独り言の多い博物館』

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あなたには、ずっと大切にしてきたけど新たな一歩を踏み出すために、そろそろ手放そうかなと思っているものはありませんか。ある方はぜひこちらに預けてみてください。

「別れの博物館」に。

今日ご紹介する小説はこちら。

『独り言の多い博物館」
標野凪(しめの・なぎ)
幻冬舎

まずこの本、装丁が素敵です。単行本と文庫の間くらいのサイズで、色やデザインは柔らかく、まるで児童書のような、それこそ魔法使いが出てきそうな雰囲気です。

ですが、内容は大人向けです。それもとても美しく丁寧な文章で、じっくり読みたくなります。私はゆっくり文字を追いながら作品の世界を自分の頭の中に広げて、主人公が五感で感じたこと、例えば、やわらかな春の風や、冬に向かう雨を私も一緒に体感している気分で読み進めていきました。

✳︎

物語の舞台は、四方を海に囲まれた丘の上にある古びたレンガ積みの「別れの博物館」です。まさに自然豊かな場所にあります。こちらで展示されているのは、誰かの大切な思い出の品です。それもごくありふれたものばかりです。でもこの博物館にはいろいろな人がやってきます。収蔵品を見に来る人もいれば、思い出の品を持って来る人もいます。

例えば、とある女性は喫茶店に飾られていた絵の入った「額」を持ってきます。また、高齢の帽子作家は仕事道具の「針」を持ち込みます。針なんてとても小さいですが、それもガラスケースに入れて展示します。

博物館に思い出の品を持ち込む人たちは、さまさまな想いを抱えています。そして、この本では思い出の品がなぜ博物館に持ち込まれることになったのかが、丁寧に綴られています。それもちょっと変わった方法で。読み始めてからわりとすぐに、本のタイトルの意味に気付くと思います。

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博物館に思い出の品を持ってくる人たちは、ただいらなくなったから手放しているわけではありません。新たな一歩を踏み出すために、博物館に預けているのです。この本を読みながら、私だったら何を持ち込もうかしらとずっと考えていました。きっとこの本を読んだ方はみんな同じように考えると思います。あなたはいかがですか?何を博物館に持っていきたいですか。

ちなみに、この博物館は、開館時間が日の出から日の入りまでです。今日の富山の日の出は、5時35分。日の入りは17時56分です。来週火曜、9月23日は秋分の日ですから昼と夜の長さがほぼ同じになります。そしてこの先、昼が短くなり夜が長くなっていきます。つまり、これからの季節は開館時間が短くなっていきますから、博物館に思い出の品を持ち込みたい方はお早めに!

というのは冗談ですが、秋の夜長こそ、この本はぴったりだと思います。ぜひ長い秋の夜に「別れの博物館」にお出かけになってみてください。思い出の品を預けけなくても、ただ訪れるだけで、あなた自身の心が軽くなって、新たな一歩を踏み出したくなると思いますよ。私自身がそうでしたから。とても素敵な本でした。またいつか読み返したいな。

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