ゆきれぽ

2025年12月17日

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『雪のしおり 冬のアンソロジー』

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富山はちょうど2週間前の水曜に初雪を観測しましたが、その後まとまった雪は降っていません。ただ天気予報を見ると、年末年始あたりに雪マークが出ています。その頃には北陸の冬らしい雪景色が楽しめるでしょうか。

今日は雪の降る冬の休日にぴったりなアンソロジーをご紹介します。

『雪のしおり 冬のアンソロジー』
だいわ文庫(大和書房)

様々な書き手による冬のアンソロジーです。

燃え殻、さくらももこ、穂村弘、佐野洋子、桜木紫乃、向田邦子、川上未映子、幸田文、植村直己、川端康成、ドストエフスキー、新美南吉、宮沢賢治(敬称略)などの39人の作品が収録されています。

共通しているのは、「冬」に関連した作品であること。

「冬」と言っても、書かれた時代も異なれば、表現方法もエッセイ、小説、童話、詩、短歌、マンガと幅広いので、全く飽きることなく最後まで楽しめます。

また、どの作品も美しかったです。冬の凛とした空気がそうさせるのか、悲しいお話も心温まるお話もそれぞれに美しさを感じました。

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私が印象に残った作品をいくつかピックアップしますね。

まず、お腹が減ったのは、作家のくどうれいんさんの「たらきく」というエッセイ。「たらきく」は東北の言葉でタラの白子のことです。仙台のとあるお店では「たらきくの麻婆」が食べられるのだとか。お豆腐の代わりに白子って、なんて贅沢な。エッセイではくどうさんが作った、とある「たらきく料理」が紹介されています。これが寒い日にぴったりの料理で、早速真似して作りたくなりました。

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随筆家の幸田文さんのエッセイ「寒さのなか」も良かったです。寒い冬の夕方、列車の中から駅の売店のわきで雑巾をゆすぐ人を目にした幸田さんは、バケツから湯気のたつのを見て幸せな気持ちになります。「冬の湯気は、人の心をあたためる」と。

そう思う幸田さんの感性も、まるでその場にいるかのような鮮やかな文章も、それがほんの一瞬の出来事であるということも、どれもが本当に素晴らしくて印象に残りました。

と同時に、電車の車内でうつむいてスマホばかり見ている自分の姿が思い出されて反省。

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詩人の小池昌代さんの百人一首の解説も楽しかったです。代表的な冬の歌が取り上げられているのですが、わかりやすい解説で、目の前に歌の世界が広がっていってワクワクしました。

他の歌の解説も読みたくなったので、今度、小池さんの本を買ってみようと思います。こうやって本の世界が広がっていくのもアンソロジーの魅力の一つです。

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他にも、桜木紫乃さん、内田洋子さんの作品も心に残りましたが、このまま挙げていったらキリがないのでやめておきます。

と言いつつ、あと少しだけ。(笑)

阿久悠さんが作詞を担当した有名な冬の曲の歌詞や、新美南吉さんの「手袋を買いに」、宮沢賢治さんの「雪渡り」などの童話も載っています。どうです?この幅の広さ。ラインナップが本当に豪華です。

だいわ文庫のアンソロジーシリーズの中で私はこれが一番好きかも。また、タイトルの『雪のしおり』も好きです。それこそ、この本は少しずつ読み進めるのがいいと思いますので、お好きなしおりとセットで買ってみるのもいいかも。また、大切なへプレゼントするのもいいと思います。ちなみに本の価格は税込1,000円を切ります。お安い!

プロの書き手の皆さんが表現した「冬」をじっくり味わってみてください。本を読んだ後は冬の見え方がきっと変わっているはず。

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最後にお知らせです。
来週のゆきれぽでは、毎年恒例!田島が選ぶ今年の本を発表します。あわせて明文堂書店 野口さんの今年の本の発表もあります。どうぞお楽しみに!

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