ゆきれぽ

2025年9月3日

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『翠雨の人』

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今朝は雨が降っていましたが、その雨を見て、「なぜ雨は降るだろう」と疑問を抱いたことをを機に科学者になった女性がいます。
猿橋勝子(さるはし・かつこ)さんです。
今日は実在の女性科学者の生涯が描かれた小説をご紹介します。
また今日は9月最初のゆきれぽですので、 明文堂書店とのコラボ回!高岡射水店の書籍担当 野口さんのオススメ本です。

『翠雨の人』
伊与原新
新潮社

今年一月に『藍を継ぐ海』で直木賞を受賞した伊予原さんの受賞後一作目となる長編小説です。

伊予原さんと言うと、科学を扱った作品が多いですが、伊予原さん自身、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻していた科学者です。かつて富山大学理学部で教員をしていたもあるそうですよ。

今作は日本の女性科学者の草分け、猿橋勝子さんの生涯を史実をベースに書いたというフィクションです。

猿橋勝子さんは、アメリカのビキニ水爆実験による放射能汚染の測定にたずさわり、核実験の抑止に影響を与える研究成果をあげた科学者です。また、自然科学分野で優れた業績をあげた女性研究者を表彰する「猿橋賞」の創設者でもあります。

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猿橋さんが生まれたのは1920年。大正時代です。放射能研究の先駆者の一人、マリー・キュリー(キュリー夫人)に憧れて科学者を目指すものの、当時、女性が理系の道へと進むのは簡単なことではありませんでした。ですが、日本初の女性のための理系専門学校の1回生として入学し、学ぶ機会を得ます。

その後、中央気象台研究部(現・気象庁気象研究所)の研究員になります。とは言え当時は戦時下ですから戦争関連の研究もあります。彼女は戦争のための研究はしたくないと思いながら、科学と戦争の関係を問い続けていくことになります。

そんな中、日本に原爆が落とされます。そして終戦から九年後、再び日本人に被ばく者が出てしまいます。1954年のビキニ水爆実験です。

猿橋さんは、この水爆実験による放射能汚染の調査をすることになります。

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物語では猿橋さんの科学者としての人生が丁寧に描かれています。それも、ただ史実を順に書いていくのではなく、猿橋さんの人柄が感じられる文章で、読み物として大変楽しめた一冊でした。また、この作品を朝ドラとしてドラマ化してほしいとも思いました。

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ではここで、この本を大プッシュしている明文堂書店 高岡射水店 書籍担当 野口さんのコメントをご紹介しましょう。

子どものころに抱いた疑問を持ち続け、科学に生涯をかけた、一人の女性の強い信念に心が打たれます。戦後80年を迎えた今年、ぜひ読んでいただきたい小説です!

私も全く同じ思いです。まさに今読むべき一冊だと思います。

猿橋さんは、科学を人間の殺戮と文明の破壊に使わせてはならないと言います。科学の素晴らしさも怖さも知る猿橋さんだからこその説得力のある言葉です。

ぜひあなたも真面目で、粘り強く、まっすぐな猿橋さんの言葉に耳を傾けてみてください。

『翠雨の人』は、富山県内の明文堂書店全店の
「ヨリミチトソラ ゆきれぽコーナー」にもありますので、ぜひチェックしてみてください。

◎明文堂書店のサイトは コチラ

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