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『夜がうたた寝してる間に』

2022年9月21日

学生時代は、周りから浮かないように
みんなに合わせることに必死だったという方もいるのでは。

学生時代だけじゃなく、大人になった今も
常に人の顔色を窺って、自分を抑えて、面白くなくてもとりあえず笑っている、
いう方もいるかもしれませんね。

今日ご紹介する小説の主人公も周りに溶け込むべく頑張っています。

『夜がうたた寝してる間に(よるがうたたねしてるあいだに)
/君嶋彼方(きみじま・かなた)【株式会社KADOKAWA】』


君嶋さんは去年の秋に『君の顔では泣けない』でデビューしました。

高校時代に入れ替わったまま15年が経った男女の日常を描いた物語で、
ラジオでもご紹介しました。

◎私の本の紹介は コチラ

入れ替わりの設定はファンタジーですが、感覚的なものはリアルなので、
読んでいる時の気持ちは現実的で、とても楽しく読めました。

新作の『夜がうたた寝してる間に』も
主人公の男子高校生に「時間を止める」という特殊能力があるのですが、
今作も前作同様、いや、前作以上に感覚的なものはノンフィクションのようでした。

君嶋さん自身、この作品に関しては、

どんな力があっても、才能があっても、
抱える苦しみや悩みはきっとそれほど変わらない。
様々な苦悩を抱く人々が織りなすこの物語の中に、
「自分」を見つけていただけたら幸いです。

とコメントしています。

まさに、この物語では主人公をはじめ、登場人物たちが様々な悩みを抱えています。

主人公は、高校2年生の男子「旭(あさひ)」です。
彼には時間を止めるという特殊能力があります。

物語の世界では、特殊能力保持者は1万人に1人いると言われており、
旭の通う学校には彼の他に「人の心の中を読むことができる」女子や
「瞬間移動ができる」男子がいます。

そして、彼らも一般の人々とできるだけ変わらぬ生活ができるよう支援されています。

ですが、旭は自分が人と違うことにコンプレックスを感じ、
周囲に馴染むために、その場の空気に合わせて喋ったり、
楽しくなくても常に笑っています。
そうやって過ごしていれば、何の問題もなく過ごせると信じて。

ですが、ある日、学校で大量の机が窓から投げ捨てられる事件が起き、
能力者である旭は「犯人」と疑われてしまいます。

やってもいない罪で疑われるなんて理不尽すぎる!
と思った旭は真犯人を見つけて、疑いを晴らそうとするのですが、
なかなか思い通りにいきません。

それなのに、また新たな事件が起きてしまい…。

***

能力者である旭は、子どもの頃から理不尽なことに耐え続けています。

でも、読みながら気付きます。これは能力者だけじゃないと。
生きづらさは、普通の人々も変わらないのではないかと。

仲間外れにされないように自分を偽る人もいれば、
どうせわかってもらえないと一人でいることを選ぶ人もいますよね。

でも、それではいつまで経っても問題は解決しません。

主人公の旭も昼間は自分を偽ってなんとかうまくやり過ごし、
夜になると能力を使って「時間を止めて」一人きりで過ごしています。
朝が来てほしくないと思いながら。

そんな旭でしたが、事件の犯人に疑われてから少しずつ変わっていきます。

本の帯に、

必死でみっともなく生きるすべての人の背中を押す青春小説

とあります。

どんなにスマートに生きたいと思っても、
みんな結構みっともなかったりするものなのですよね。

人に合わせてばかりだったり、逆に誰ともかかわらずに一人でいたり。
いずれにしても、誰も自分のことなんてわかってくれない、
と思っている方は、とりあえずこの本のページを開いてみてください。

読んだ後は、きっと気持ちが上向くはずです。

いい物語でした!

yukikotajima 12:16 pm