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落花

2019年7月10日

昨日まで東京に行っていたのですが、
私が利用した電車もバスも運転していたのは女性でした。
車内アナウンスが女性の声だったことで気付いたのですが、
都内の人たちにとってはもう当たり前のことなのでしょう。
そのことに関して車内の誰も話題にはしていませんでした。

最近、様々な分野で女性の活躍が目立ちます。

ちょうど一週間後の17日の水曜日に発表される第161回直木賞は、
なんと候補者6人全員が女性です。
候補者全員が女性となったのは、芥川賞を含め初めてのことだそうです。

ちなみに、今回の直木賞候補者は、

・朝倉かすみ「平場の月」/光文社」
・大島真寿美「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び/文藝春秋」
・窪美澄「トリニティ/新潮社」
・澤田瞳子「落花/中央公論新社」
・原田マハ「美しき愚かものたちのタブロー/文藝春秋」
・柚木麻子「マジカルグランマ/朝日新聞出版」

の6名です。

***

今日はこの中から澤田瞳子さんの『落花』をご紹介します。

澤田瞳子さんは、これまで何度か直木賞候補になっている人気作家です。

今回の『落花』は、平安時代の物語です。
主人公は、仁和寺の僧侶、寛朝(かんちょう)です。
当時は、声のいい僧侶ほど素晴らしいと言われていたそうで、
寛朝ものびやかな声の持ち主あり、
平将門から「これほど耳に心地いのは初めてだ」と絶賛されるほどでした。

それでも寛朝は、もっと上達したいと思い、
ある先生から歌を学ぶために京都から関東へと向かいます。
そこで出会ったのが、平将門でした。

将門の評判は決していいものではなかったのですが、
直接会って話をしてみると、噂と違って怖くないどころか、いい印象を持ちます。

こういうことってよくありませんか?
実際、関わってみたら、あれ?思っていたより嫌な人じゃないぞ、ということ。

将門は、不器用ゆえ、悪い噂ばかり広まって恐れられています。
実際はいい人過ぎて人から利用されることもあるほどなのに…。

寛朝は、将門とも交流しながら関東での生活が始まります。
ところが肝心の目的がなかなか果たせずにいます。
やっと見つけた先生は、寛朝に対してなぜか冷たい態度を取り続けるのです。

果たして、寛朝は歌を習うことはできるのでしょうか。
また、不器用な将門の運命は?

そしてもう一人、寛朝の従者としてともに関東にやってきた
千歳(ちとせ)の物語も同時に進んでいきます。

彼が関東にやってきた理由は、名器と言われる琵琶を手に入れるためです。

寛朝も千歳も関東へ行く目的は「音楽」です。
二人は、それぞれの音楽を得ることができるのでしょうか。

この続きは、ぜひ本のページをめくってみて下さい。

***

平安時代の物語で昔ながらの表現も多いのですが、
決して頭に入ってこないかと言ったらそんなこともなく、
気付けば物語の世界に没頭していました。

時代は違えど、人の心は今とはそれほど変わりません。
人は結局、人に悩まされ、人に癒されるのですよね。

主人公の寛朝が様々なことに悩み、考え、行動していく様は他人事とは思えず、
私ならどうするのか?と自分の心に問わずにはいられませんでした。

また、この物語は音に満ちていました。
本のページをめくりながら実際には音は聞こえないのだけど、
様々な音が心地よく聞こえてくるようでもありました。

主人公の寛朝が音に敏感なこともあり、様々な場面の音が丁寧に描かれます。
例えば、人が殺される戦場の音にさえ、寛朝は心惹かれます。
文字を目で追っているだけで戦場の音が聞こえてきます。それも美しいものとして。

ぜひあなたも本を読みながら様々な音を感じてみては?

yukikotajima 11:58 am