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『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか』

2021年10月27日

親元を離れて一人暮らしをしている時に
ご実家から段ボールに入った荷物が送られてきたことがある方もいるのでは?

富山の場合、富山米、家でとれた野菜、今の時期なら柿あたりが入っているのかな。
手作りのお惣菜が入っていることもあるかもしれませんね。

それに加えて、あまりオシャレじゃないババシャツや靴下、
どこかでもらった社名入りのタオルが隙間に入っていた
なんて思い出のある方もいるのでは?

こっちでも買えるし、こんなダサいの着られないよー!
と箱に向かって文句を口にしながらも、本心では嬉しかったりするのですよね。
そして、たいていの場合、「何これー」と突っ込みながらも目は潤んでいます。

ドラマなどでもよくこういうシーンが出てきますよね。
私も見るたび、もらい泣きしているような気がします。

あなたには、家族から送られてきた荷物にまつわる思い出はありますか?

今日ご紹介する本は、そんな荷物にまつわる物語です。

『母親からの小包はなぜこんなにダサいのか/原田ひ香(中央公論新社)』

原田ひ香さんというと、以前ラジオでご紹介した
『三千円の使いかた』がこの夏、文庫化され再び注目されています。
また『ランチ酒』シリーズも人気の作家さんです。

新作は、書店で本のタイトルを見た瞬間、思わず手を伸ばしてしまいました。

まるで母親からの小包を調査分析した新書のようなタイトルですが、小説です。
荷物にまつわる6つのお話が収録された短編集です。

どんなお話が入っているのか、いくつかご紹介しましょう。

「上京物語」は、短大進学を機に東京で一人暮らしを始めた岩手出身の女性の物語です。
楽しみにしていた東京生活でしたが、
頼れる知人もいなければ、友人も上手く作れず寂しい日々を送っています。
そんなある日、東京に行くことを反対し、
上京後も干渉してくる母親と電話で喧嘩をしてしまいます。
その直後、母からの小包が届きます。
そこに入っていたものを見て彼女は涙します。
いったい何が入っていたのでしょう?

「擬似家族」は、業者から買った野菜を「実家から」と偽る女性のお話です。

「北の国から」は、父亡き後、父宛に毎年、北海道から届いていた
荷物の送り主の女性が誰なのか気になって仕方ない息子の物語です。

「最後の小包」は、タイトル通りのお話です。
母から届いた最後の荷物にまつわるお話で、涙が止まりませんでした。

どのお話も普通の家族の物語です。
甘えているからこそ親に対して強い口調になってしまったり、
本心をなかなか言えなかったり、
話をしたくてももう亡くなっていてできなかったり。
中には、ひどい親から逃げた人もいます。
親子と言えども状況も関係性もバラバラです。

彼らは送られてきた「荷物」を介して、
それぞれの自分の問題と向き合っていきます。

どれも温かくていいお話でした。
中には感情の激しいものもあるけれど、その分、気持ちが伝わってきました。

秋の夜長に1話ずつ読み進めてみては?
寒い夜も温かな気持ちになれると思います。

ちなみに、今日から「読書週間」です。
毎年、読書週間に合わせて標語が発表されるのですが、
この標語を私は毎年楽しみにしています。

今年の標語はこちら。

「最後の頁を閉じた 違う私がいた」

「いいね」を押したい気分。(笑)
これ、よくわかります。
たった一冊の本を読んだだけでなのに、
読む前とは違う自分になっている感覚、私もよくあります。

普段そんなに本を読まない方や最近読書がご無沙汰気味の方は、
この読書週間中だけでも何か一冊お読みになってみてはいかがでしょう。

読書週間は11月9日(火)までです。

yukikotajima 11:46 am

『民王 シベリアの陰謀』

2021年10月20日

毎週水曜のgraceでは13時45分ごろからの「ユキコレ」で本をご紹介しています。
9月29日のユキコレでは、山本文緒さんの短編集『ばにらさま』をご紹介しました。

◎田島の本紹介は コチラ

二度読みしたくなる短編集で、短いお話ながらも「え?どういうこと?」
という驚きに満ちた読書の面白さを堪能できた一冊でした。

そして、次作も楽しみだなと思っていたところ、山本さんの訃報が飛び込んできました。

多感な学生時代、私は山本さんの作品に大変影響を受けました。
どれだけ励まされ、泣かされ、大事なことに気付かされてきたことか。
山本さんのおかげで豊かな時間を過ごすことができました。
本当にありがとうございました。
私が訃報を知ったのがランニングの途中だったのですが、
走りながらサングラスの中で涙が止まりませんでした。

これからは、これまで発表されてきた作品をあらためて読んでみます。
本のページを開けば、いつでも山本さんに会えますしね!
心よりご冥福をお祈り申し上げます。

***

さて、今日ご紹介する本は、池井戸潤さんの最新作です。

『民王(たみおう)シベリアの陰謀(角川書店)』


こちらは、2015年にドラマ化され話題になった『民王』の続編です。

総理大臣と大学生の息子の心と体が入れ替わってしまうという物語で
ドラマでは父を遠藤憲一さんが、息子を菅田将暉さんが演じました。

漢字は読めないし、すぐに逃げたがる情けない息子ですが、
性格は穏やかで優しいため、国民の心を動かすこともあります。
一方、息子になった総理は、息子のことを何も考えていないバカだと思っていましたが、
そうではないことに気付き始めます。
入れ替わったことで、お互いの気持ちがわかったり大事なことに気付いたりします。

ドラマはテンション高めの演出のなので、笑いながら楽しく見ることができます。
でも、現代的な問題もしっかり描かれているので、
ただ笑って終わりではないところがいいのです。

今回、新作の小説を読む前にドラマを見直してみたのですが、
あらためていい作品だと思いました。

ドラマはネット配信で見ることができますので、まだご覧になっていない方はぜひ!

私はドラマをみたあとは原作も読んで徹底的におさらいをしてから
最新作の『民王 シベリアの陰謀』を読みました。
ちなみに、ドラマ版より原作のほうが息子君がしっかりしているというか、
ややチャラい感じです。(笑)

新作も総理と息子の物語なのですが、
息子は大学を卒業して無事就職、父は第二次内閣を発足させたばかりです。

新作は去年から今年にかけての「今」が反映されていました。
でも、すべて同じではありません。
物語の世界ではコロナではなく「マドンナ・ウイルス」が広まっています。
このウイルスは発症すると凶暴化してしまうのです。

総理は現実世界と同じく対応に追われます。
しかし、陰謀論まで出てきてしまい、国民から嫌われる一方です。
また、野党からの攻撃や、生きる化石のような与党の長老たちからも圧力をかけられ、
気付けば周りは敵だらけです。

総理はこの状況を変えることはできるのか。
そもそもマドンナ・ウイルスとは何なのか。
総理と息子はウイルスの謎に迫ります。

今回も痛快でした!
フィクションとはいえ、これは本音だなと感じる言動も多く、
笑いながらも客観的に今の世の中を見ている気分にもなりました。

印象に残ったセリフをいくつかあげます。

・否定なんか誰にでもできる。否定するなら代替案を出せ。
・日本がダメになる前に、すでに日本人がダメになっている。
・世の中は“気分”で流されていく。

昨日公示された衆議院選挙の期日前投票が今日から始まりました。
新作の『民王 シベリアの陰謀 』は政治への関心が高まっている
今の時期にぴったりの作品だと思います。

もし自分が総理だったら?という気持ちで読んでみるのも楽しいかも!

yukikotajima 11:24 am

『かぞえきれない星の、その次の星』

2021年10月13日

最近、世の中は以前とはスタイルを変えた形で
少しずつ前へと動き始めましたが、
コロナ禍になって様々なことがストップしましたよね。

会いたい人に会えなかったり
大学に入学したものの家で一人でオンライン授業を受けていたり
仕事も職場には行かず家で一人でしていたりと
さみしさを抱えていた方もいたことと思います。
それこそ誰とも喋らない日もあった方もいるのでは?

今日ご紹介する本は、さみしさと希望を描いた重松清さんの最新作です。

『かぞえきれない星の、その次の星(角川書店)』

重松さんは今年作家デビュー30周年だそうです。
おめでとうございます!

最新作は11の物語が収録された短編集です。

私はこれまで重松さんの作品を読む度に泣いてきたので、
書店でこの本を手に取った時に、
きっと泣くのだろうなと覚悟していましたが、予想通りでした。

重松さんの優しいまなざしに泣かされました。

誰にも言えない、さみしかったり辛かったりする心の内を
重松さんは丁寧に描いていきます。

また、視点もユニークで、小学校の「こいのぼり」や
神社の「かえる」の目から見たコロナ禍の物語や
何百年も鬼退治を続ける「桃太郎」のお話もあります。

他には、感染症の流行で毎日、画面越しの娘と会話するパパの物語や
病気で亡くなった「お母さん」を迎えるお盆に
今年は新しい「ママ」がいることで
心が揺らぐ小学生姉弟のお話もあります。

新しいママは優しいから好きだけど
「お母さん」は「ママ」のことをどう思うんだろと
二人の母のことで悩む子どもたちに涙。私はおいおい泣きました。

また、日系ブラジル人三世の母と日本人の父の間に生まれた
ミックスルーツの小学生のリナの物語も印象的でした。
日本で生まれ、国籍も日本なのに「日本人っぽい」と言われることに
どこかモヤモヤしたものを感じています。
また、セイタカアワダチソウや池の中の外来種の魚などの
外国から来た植物や生き物が嫌われていることをかわいそうだと思います。

同じような話では「虫送り」に関連した物語もあります。
富山の皆さんはご存じかと思いますが、
虫送りは、稲や畑に害虫がこないようにするため行事です。

でも虫たちは悪さをするつもりなんてなくて
ただ自分たちのご飯を食べているだけなのですよね。

そこで、ある村では、居場所がなくなった虫たちを迎え入れる
「虫迎え」をするようになります。
そして今では、居場所をなくした子どもたちを迎えています。

重松さんは、どうせ私のことなんて誰もわかってくれない…
と心を閉じてしまった人たちの存在に気付き、寄り添います。

だから本を読みながら出てくる涙は、
「悲しいから」「かわいそうだから」「感動したから」
という単純な理由だけでありません。

もう仕方ないと諦めていたことや、逃げていたことに気付かされ、
そして抑え込んでいた思いが募って涙があふれてくるのです。

自分がどんなことに傷ついたり、嫌だと思ったりしているのか、
逆に、人が傷ついているのを見て見ぬふりをしてきたのかが、
心の奥から顔をのぞかせてくるようでした。

だから、きっとこの本を読んだ人は、
自分自身と向き合いたくなるのではないかしら。
少なくとも私はそうでした。

でも、心の痛みを感じつつも同時にケアもされていて、
読後感は悪くはありませんでした。

重松さんは、2021年を生きる10代の自分に届けたくて、この本を書かれたそうです。

たしかに私も10代の頃にこの本と出合いたかったなー。
もちろん、かつて10代だった大人の皆さんにもおすすめです。

秋の夜長、毎日一話ずつ読み進めてみては。
いい涙を流しながら毎日心のデトックスもできるかも!?

yukikotajima 11:35 am

『海をあげる』

2021年10月6日

「本屋大賞」はもうお馴染みだと思いますが、
毎年11月には日本全国の書店員さんが選ぶ
「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」が発表されます。

小説では無く、ノンフィクション本が対象です。
2018年に始まり、今年で4回目です。

去年の大賞は、在宅での終末医療の現場を綴った
佐々涼子さんの『エンド・オブ・ライフ』でした。
ラジオでもご紹介しています。

◎田島の本の紹介は コチラ

なお一昨年は、ブレイディみかこさんの
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でした。

4回目となる今年は、6冊がノミネートされています。

*『あの夏の正解/早見和真(はやみ・かずまさ)』

*『海をあげる/上間陽子(うえま・ようこ)』

*『キツネ目 グリコ森永事件全真相/岩瀬達哉(いわせ・たつや)』

*『ゼロエフ/古川日出男(ふるかわ・ひでお)』

*『デス・ゾーン 栗城史多(くりき・のぶかず)のエベレスト劇場
/河野啓(こうの・さとし)』


今日のはこの中から、上間陽子さんの『海をあげる』をご紹介します。

著者の上間さんは、琉球大学教育学研究科教授で、
普天間基地の近くにお住まいです。
90年代から2014年にかけては東京で、以降は沖縄で
未成年の少女たちの支援・調査に携わっています。

2016年夏に起きたうるま市の元海兵隊員・軍属による殺人事件を機に
沖縄の性暴力について書くことを決め、翌年刊行された
『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』はベストセラーとなりました。

現在は若年出産をした女性の調査を続けながら、
10月1日には若年出産のシングルマザーを保護するシェルターを開設したそうです。

『海をあげる』は、ちょうど一年前に発売され、
「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」にノミネートされた他、
「わたくし、つまりNobody賞」や「第7回沖縄書店大賞 沖縄部門大賞」
も受賞されています。

この本では、著者が暮らす沖縄の日常がさまざまな人の声と共に綴られています。

沖縄というと「観光」の印象が強いかもしれません。
あー、いつか旅行に行きたいー!
と頭の中に青空や青い海を思い浮かべた方もいるかもしれませんが、
この本に書かれているのは、そういった外から見た沖縄のキラキラした部分ではなく、
実際に沖縄で暮らす人たちの本音です。

上間さんが大切な人に裏切られた時に友人たちに支えられたエピソードから始まり、
沖縄での理不尽な日常や様々な人にインタビューした内容が
そのままの会話で紹介されています。

90代の女性からは戦争中のことを
沖縄出身のホストからは彼の過去から今に至るまでを丁寧に聞いていきます。
その他、10代でママになった女性や性暴力を受けた女性たちの聞き取りも
何度も継続して行っています。

しかし、上間さんは沖縄の方たちの「語らなさ」が目についたそうです。
そして、聞く耳を持つものの前でしか言葉は紡がれず、
上間さん自身、聞き逃してきた声がたくさんあると感じているそうです。

でも、「私は聞き逃したかもしれない」と思える上間さんだからこそ
聞き取れたことがこの本には詰まっていると思いました。

上間さんの文章は、静かです。
でも強さがあります。
そして、とても正直です。
まるで自分の心を確かめるように文字に起こしているようにも思えました。

なぜ沖縄に住む自分たちばかりがこんな理不尽な目にあわなければいけないのか。
なぜ若い女性たちは辛い目にあわなければいけないのか。
怒りや絶望が文章から滲み出ていました。

そして、著者は私たち読者にあることを託します。
「海をあげる」と。

タイトルにもなっている「海をあげる」とはどういうことなのか。
ぜひ本をめくって上間さんの言葉に耳を傾けてみてください。

あなたは、この本を読んで何を感じるでしょうか。

yukikotajima 11:34 am