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本と鍵の季節

2019年3月27日

ちょうど今、学生さんたちは春休み期間中ですね。
春休みはどのように過ごしていますか?
よかったら何か1冊、本を読んでみませんか?

読書なんてめんどくさい!と思うかもしれませんが、
でも、何か1冊でいいので読んでみてはいかがでしょう。

なんといっても1冊読んだという達成感が得られると思いますし、
もし今退屈な毎日を送っているのなら
きっとそれも解消できるはずです。

でも、何を読めばいいのかわからない方は、
いきなり背伸びせず、同世代が主人公の本を選んでみてはいかがでしょう?

こちらの本も男子高校生が主人公です。

今日ご紹介するのは、米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)さんの新作
『本と鍵の季節(集英社)』です。

主人公は、高校2年生の図書委員の男性二人です。

一人は、堀川次郎。
もう一人は、松倉詩門(しもん)です。

堀川君は、成績はそこそこ優秀で、
他人から頼み事をされやすい男子です。
物語は彼の目線ですすんでいきます。

一方の松倉君は、背が高く顔もよく目立ちます。
その上、スポーツも勉強もできるという
まるで少女漫画に出てきそうな男子ですが、
手先は不器用で、皮肉屋でどこか大人びています。
そして、「詩門」という自分の名前が好きではありません。

そんな二人は図書委員をしています。

二人でほとんど利用者のいない図書室で当番を務めながら、
基本的にはどうでもいい会話をして、のんびり過ごしています。

ところが、この二人のところに様々な謎が持ち込まれます。

例えば…
図書委員の先輩からは、亡くなった祖父が遺した
開かずの金庫の鍵の番号を探り当ててほしいと頼まれ、
後輩男子からは、盗みの疑いがかけられた
兄のアリバイをみつけてほしいとお願いされます。

そして、この二人で様々な謎に挑んでいくという図書室ミステリです。

短篇集ですので、少しずつ読み進めていくことができます。
でも、それぞれが独立したお話でありながらもゆるやかに繋がっています。

また、図書委員として出会ったばかりの二人の友情が
謎を解いていくうちに深まっていく様も描かれています。

そんな二人が最後にある謎を解くことになるのですが…。

***

男子高校生二人の物語ですが、
言葉遣いが大人びていて、落ち着いたテンションの二人なので
ちょっとおじさんくささもあります。(笑)

でも、ふとした瞬間に見せる初々しい姿はやはり高校生で
どこか生意気な雰囲気もあるものの、憎めません。

また、若さゆえの失敗もあります。
たとえば、正しいことは言っているけれど、
その言い方は「正解」ではないというような。

でもこれ、大人にもありますよね?
言っていることは正しい。
でも、言い方がまずいから、相手を不快な気持ちにさせてしまう。

私にも経験はあります。
言われて不快になったことも
逆に相手を不快にさせたことも。

ミステリとしての面白さはもちろん、
高校生二人のやり取りから気づかされることも多かったです。

それから、最近「図書室」や「図書館」に行っていないので
久しぶりに行ってみたくなりました。

高校生が主人公ですが、もちろん大人の方にもオススメの一冊です。
主人公二人のテンションが高くないので、
大人の方でもじっくり楽しめると思います!

yukikotajima 12:06 pm

インソムニア

2019年3月20日

今日のキノコレ(grace内コーナー13時45分頃〜)で
紀伊國屋書店富山店の奥野さんからご紹介いただく本は、
富山出身の作家、辻寛之(つじ・ひろゆき)さんの
小説『インソムニア(光文社)』です。

奥野さんが本について詳しく紹介していますので、
ぜひ コチラ をお読みください。

私もこの本を読みましたので、軽く感想を。

この本は第22回 日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した作品です。

選考委員をつとめた篠田節子さんは「テーマ、プロット、創作姿勢、すべて良し」、
朱川湊人さんは「深いリアリティーと迫力でぐいぐい読ませる作品」と絶賛しています。

物語は、アフリカに派遣されたPKO部隊の陸上自衛官七名のうち
一人が現地で死亡し、一人は帰国後自殺したことで、
メンタルヘルス官の男性が精神科医の女医と共に
残された隊員五名の心のケアをおこなっていくというものです。

ただ、現地で起きたことについての証言は全員食い違っており、
何かを隠している。。。と思った二人は、
PKO部隊の派遣先でいったい何がおこったのか調べ始めます。

フィクションですが、リアリティーがあって
まるでノンフィクションを読んでいるかのような錯覚に陥りました。

アフリカから帰ってきた隊員たちが眠れない夜を過ごしている
その理由を知りたいと思うのと同時に
踏み込んだら嫌な気持ちになりそうな気もして、
読みたい。いや、こわい。どうしよう?
といった相反する気持ちで本のページをめくっていきました。
独特な緊張感がありました。

いやあ、ほんとすごい世界でした。

ぜひあなたも本のページをめくりながら
スリリングな世界を味わってみてください。

それから、著者の辻さんは富山出身ということで
富山の食べもの&飲み物が出てきますので、
きっと富山の方はニヤニヤしてしまうと思います。

yukikotajima 11:36 am

熱帯

2019年3月13日

今日ご紹介するのは、今年デビュー15周年、
森見登美彦(もりみ・とみひこ)さんの新作『熱帯(文藝春秋)』です。

この本は、直木賞候補になったほか
4月に発表される本屋大賞にもノミネートされている話題作です。

すでにお読みの方もいらっしゃるのでは?
そんな方は是非grace宛に感想をお寄せください。

***

この『熱帯』は小説ですが、まるでエッセイのような始まりです。

まず、次にどんな小説を書くべきか分からずにいる小説家が出てくるのですが、
その方こそ森見さんご自身なのです。

森見さんは、小説が書けないので様々な本を読んで日々を過ごしています。
そんな中で最後に読み始めたのが『千一夜(せんいちや)物語』でした。

『千一夜物語』、あなたは読んだことはありますか?

この本は謎の本なんですって。
というのも、世界中に広がっていく中で
偽物が出てきたり、恣意的な翻訳がされたりしたため
物語の本当の姿を知る者はいないのだそうです。

別名、アラビアン・ナイトとも言われています。
また、有名な「シンドバッド」「アラジン」「アリババ」などは
『千一夜物語』には含まれていないのだとか。

その謎の本『千一夜物語』を読み始めてから
森見さんはある一冊の本を思い出します。

それは『熱帯』というタイトルの本でした。
森見さんが学生時代に読んだ本で、
半分ぐらいまで読んだ後、なぜかその本が消えてしまったのだそうです。

それから16年。
森見さんは幻の本『熱帯』を探し始めます。

ある日、この本の秘密を知る女性と出会うのですが、
彼女から衝撃的な一言を言われてしまいます。

「この本を最後まで読んだ人間はいないんです」と。

その後、森見さん以外にも『熱帯』を読んだ人間たちが次々に登場します。
しかし誰もが最後まで読んだことはなく、
物語の内容に関しても途中からの記憶が曖昧です。

それぞれが覚えていることを話すことで
物語が明らかになっていくかもしれないと
『熱帯』を読んだ人たちが集まって語り合います。

そして、幻の本『熱帯』をめぐる冒険が始まります。

ん?語り合うだけなのに冒険?そんな大げさな!
と思いますよね。

これがまさに「冒険」なんです。

それも、とんでもなくハチャメチャな冒険です。(笑)

どんな冒険なのかは是非本のページをめくって楽しんで頂きたいので伏せますが、
森見さんらしい世界観がこれでもかというほど詰まっています。

めまぐるしく物語が変わっていくので、
本を読みながら私はまるで夢を見ているようでもありました。

寝ている時に見る夢って突然突拍子も無いことが起こったりしません?
まさにそんな感じでした。

あっちに行ったりこっちに行ったり、
あんなことやこんなことが起こったりと
飽きることなく世界が繰り広げられていきます。

さて、幻の本『熱帯』とはどんな本なのでしょうか。
是非、あなたも大人の大冒険へ!

ただ、この本は500ページ以上ある長編ですので、
お時間のある時に読むのがいいかも。

あ、それから、私は、本を読む時に本のカバーを外してから読むのですが、
おかげで、よりこの本を楽しめました。

普段カバーを付けたまま読む方も是非外してみてください。

yukikotajima 11:15 am

そして、バトンは渡された

2019年3月6日

今日のキノコレ(grace内コーナー13時45分頃〜)で
紀伊國屋書店富山店の奥野さんにご紹介いただく本は、
『そして、バトンは渡された/瀬尾まいこ(文藝春秋)』です。

こちらの本はキノベス!で1位になった作品です。
キノベス!は紀伊國屋書店スタッフオススメの本ランキングのことです。

キノベス!について詳しくは コチラ

◎奥野さんの紹介文は コチラ

私もこちらの本を読みましたので、軽く感想を。
とても温かく優しさに満ちた一冊でした。

主人公は17歳の森宮優子です。
本のタイトルは『そして、バトンは渡された』ですが、
彼女自身がバトンのように様々な親の間をリレーされ、
4回名字が変わり、家族の形態は7回も変わっています。
でも物語はとても温かいのです。

血の繋がらない各時代の親たちは皆優しいし、ちゃんと娘を愛しています。
そして娘も親たちのことが好きです。

様々な事情があって親が次々に代わっていき、
17歳の今、彼女の父親をしているのは37歳の森宮さんです。
母親はいません。

この森宮さんとの生活をベースに
彼女がこれまでどんな親たちに育てられたのかが描かれていきます。

一番登場シーンの多いのが今のパパである森宮さんです。
この森宮さんがとてもいい人で、
血の繋がりのない17歳の娘を大切にしているのが良く伝わってきます。

でも、時々娘への思いが強すぎて失敗したり、過去の父親たちに嫉妬したりと
可愛らしい部分もあり、いい味を出しています。

17年間で7回も家族の形態が変わるというと
それだけで「不幸」だと思ってしまいそうですが、
彼女の人生は幸せです。

読みやすいのでさらりと読めてしまいますが、
でも、読んだ後もずっと心の中に作品が残り続けます。

もし私が、この物語の親の一人になったとしたら
どんなことを感じるのかな?と思わずにはいられませんでした。

様々な世代に読んで頂きたいけれど、
特に、頭がかたくなりがちな上の世代の方たちに読んで頂きたいかな。

もう若手とは言えない年齢になった私も、この本と出合えてよかったです!
この本を読む前と後では家族の形に対する思いがだいぶ変わりました。

yukikotajima 11:54 am