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『夜明けのすべて』

2020年11月11日

今日ご紹介する本は、
去年、『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞した
瀬尾まいこさんの受賞後最初の作品です。

『夜明けのすべて(水鈴社)』

前作は、本屋大賞のほか、
紀伊國屋書店スタッフオススメの本ランキング「キノベス」でも
1位を受賞するなど、大変話題になりました。
ラジオでももちろんご紹介しています。

◎『そして、バトンは渡された』の田島の感想は コチラ

受賞後初となる新作『夜明けのすべて』は、表紙が大変目立ちます。
鮮やかな青をベースに、中央に黄色い砂時計が描かれた
青と黄色のコントラストが目をひく表紙となっています。

そして、この本の出版社は「水鈴社(すいりんしゃ)」です。

今年7月に設立されたばかりの新しい出版社で、
この『夜明けのすべて』が創立後最初の単行本だそうです。

***

『夜明けのすべて』は、同じ会社で働く男女の物語です。

28歳の美紗は、仕事も丁寧で周りに気を遣えるので、
社員の皆さんとの関係も良好です。
ただし、ずっとPMS(月経前症候群)に苦しんでいて、
月に一度生理前になるとイライラが抑えられなくなってしまいます。

普段なら気にならないことも生理前だけではダメで、
ある日、転職してきたばかりの3つ年下の25歳の山添君に当たってしまいます。
というのも彼は仕事に対してまったくやる気がないのです。

でも、彼もまたパニック障害になって人知れず病気と闘っていたのでした。

物語は、この二人のパートが交互に描かれていきます。

***

美紗と同じようにPMS(月経前症候群)に苦しんでいる、という女性もいるのでは?

PMSは、美紗のようにイライラしたり、精神的に不安定になったり、
腹痛、頭痛、めまいに悩まされたりと人によってその症状も辛さも様々です。

そのため男性だけでなく、同性から「大げさ」と思われてしまうこともあります。

私は美紗ほどではありませんが、ほぼ毎回症状は出ています。
だから生理前に何かしらの決断をしないように決めています。
私の場合、イライラするだけでなく、
腹痛、頭痛のせいもあって投げやりになってしまうのです。
どうでもよくなって、よくない決断をしがちでして。
だから、終わるまで決断はしません。
今、「わかるー!」と頷いている女性もいるのでは?

さて。
美紗は、このPMSのせいで転職したのでした。
今の職場では最初からPMSのことを伝えているため、
職場の人たちは理解してくれています。

山添君もパニック障害が原因で今の職場にやってきたものの、
彼の場合、会社に自分の病気のことは伝えていません。

そんなある日、美紗は山添君が発作を起こす姿を見て彼の病気に気付きます。
そして、彼のことをやる気のない人だと決めつけていたことを反省し、
彼が少しでも楽になれるよう、自分にできることはないかと考えます。

一方、山添君のほうはというと、自分のほうが辛いに決まっている!と思っています。
でも、よく考えれば僕はPMSのことを知らない。
もしかしたら想像以上にしんどいのかもしれない。
と考え直し、自分も彼女の力になりたいと思い始めます。

なんと二人そろって相手を助けることを考えるようになるのです。
二人とも自分が辛いからこそ、相手の負担を減らしてあげたいと思うのですね。
優しい。。。

そして、二人で過ごす時間も増えていきます。
二人ともこれまで自分の悩みを人に打ち明けられずにいましたが、
一緒にいるときは自分の素直な気持ちを話せるようになります。
そして、少しずつ二人は変わっていきます。

でも!

二人の間に恋愛感情はありません。
職場の人たちは何かと二人をくっつけたがるのですが。(笑)

『夜明けのすべて』は優しさに満ちた物語でした。
思わず声に出して笑ってしまうようなところもあるのだけど、
私は笑いながら涙も出てきました。
良かったね、というあたたかな涙です。

出てくる人がみんないい人ばかりで、読んだ後は私の心も穏やかでした。

また、心が元気になるための小さな気付きもいくつもありました。
例えば、山添君は何を食べても美味しくないと思っていたのですが、
ただ美味しいものを食べていなかっただけだったりするのです。

たしかに美味しいものを食べた時はそれだけで元気になりますもんね!

ちなみに、著者の瀬尾さん自身、パニック障害で苦しんだ過去があるそうです。
詳しくは水鈴社のサイトに掲載されている直筆の手紙に書かれていますので、
良かったらお読みください。

◎水鈴社のサイトは コチラ

この小説には瀬尾さんの実体験も描かれているようですよ。

PMSやパニック障害は聞いたことはあっても
詳しい症状はよくわからないという方も多いのでは?
この本を読むことで、人知れず苦しむ人の気持ちを知ることができます。
そういう意味でも多くの方に読んでいただきたい一冊です。
読んだ後は、人に対して接し方や見え方が変わるはずです。
逆に登場人物たちと同じような状況にある方は、きっと心が軽くなるんじゃないかな。

とってもあたたかくて優しい物語でした。

yukikotajima 9:33 am