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忘れられたワルツ

2018年1月31日

「恋愛とはすなわち○○である」

さて、この○○に入る言葉は何でしょう?

人によって入る言葉は異なると思いますが、
なかなかこの言葉を選ぶ方はいないのでは?

「雑用」

本のページをめくった最初の言葉が、
まさかの「恋愛とはすなわち雑用である」で、
思わず吹き出してしまいました。
その後に続く言葉が「不要ではなく雑用」。

いらないものではない。
でも、雑用だと。

この最初の一行に心をつかまれ、
本のページをめくっていきました。

***

この「恋愛とは雑用」という言葉から始まる本とは、
絲山秋子さんの『忘れられたワルツ』です。

7つのお話が収録された短篇集です。

最初の1行もそうですが、言葉選びもリズムも最高でした。
声に出して読んでいるわけでは無いのだけど、
息つぎのタイミングが心地いいので
読みながら気持ちよかったです。

この作品は、2013年に発売され、今月、文庫化されました。
ですので、以前この本を読んだという方もいらっしゃるかもしれません。

2013年といえば、東日本大震災から2年が経った頃です。
絲山さんは、この作品を震災後の空気のなかで集中して書き続けたのだそうです。

ですから「震災後」であることがいたるところで感じられます。

例えば、災害派遣の自衛隊車両を目にして涙を流す女性もいれば、
地震計の揺れを配信する強震モニタばかりを見ている女性もいます。

『忘れられたワルツ』は、震災後の日常を生きる様々な人たちの物語です。

「ふつう」がなくなってしまった世界のお話ですが、
決して暗いだけのストーリーではありません。

例えば、最初の「恋愛雑用論」のお話なんて、ほんと笑いましたから。

主人公のアラフォー独身女性の恋愛トーク、面白過ぎました。
詳しくは本を読んで楽しんで頂きたいので控えますが、
恋愛は雑用と言いつつ、不要ではないから関わってしまう、
というところが何とも可愛いなあと思うのです。

基本的に、どのお話も人間関係がベタベタしていません。
でも、決して冷たいわけではないので、読後感がいいのです。

ちなみに、恋愛は雑用と言い放つアラフォー独身女性の話以外には、
SNSを使いこなせずにいるバブル女性2人の話や
雪道の高速のパーキングエリアで
オーロラを運んでいるという女性に出会った男性の話、
鉄塔が好きな女性の話、
女装に目覚めた老人の話などがあります。

どのお話もタイプが異なるので、それぞれの世界観が楽しめます。
ちなみに私は、雪道のお話が好きです。

***

また、物語として面白かったのはもちろん、
震災についてもあらためて考えさせられました。

物語の中で、ある女性が言った「毎日が震災前」という言葉が印象的でした。

震災からまもなく丸7年を迎えます。

あの震災のことは忘れていない、と思っていても、
被災地ではない地域の皆さんは、
正直、少しずつ忘れてきてはいませんか。

私は、この本を読んで震災後の「感情」がよみがえりました。
あの頃、感じていた不安や疑問などが
主人公たちの言葉によって思い出されていきました。
そして、私も同じだ、と思いました。
当時、心の中で感じつつも言葉にしなかった、いや、できなかったことを
もしかしたら多くの人も同じように感じていたのかもしれないなあと
この本を読んで感じました。

色々な意味で読み応えのある一冊でした。

『忘れられたワルツ』は、文庫になってお求めやすくなっていますし、
短篇集ですので、まとまった時間が取れない方でも読みやすいと思います。
ぜひお読みください。

yukikotajima 11:49 am