ゆきれぽ

2025年10月22日

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『幸せな家族 そしてその頃はやった唄』

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今日は、36年前の1989年に刊行された幻の児童ミステリをご紹介します。2023年に復刊された話題の本なのですが、この夏、本の帯を変えたことでさらに売り上げが伸び、なんと10万部を突破したのだとか。

『幸せな家族 そしてその頃はやった唄』
鈴木悦夫(すずき・えつお)
中央公論新社(中央文庫)

こちらは帯です。

もともとのカバーは青空です。

ちなみに夕方バージョンはカバーではなく帯です。上のところが少し短いの、わかります?下の青空のカバーが少し見えてますよね?

以前、作家さんから教えていただいたのですが、この場合はカバーでは無く帯なんですって。また、タイトルが「あの“戦慄(メロディ)”があなたにも聴こえる」かと思ってしまったのですが、これも帯に書かれたコメントということなんでしょうね。

『幸せな家族』というタイトルなのに、帯のイラストを見る限りまったく幸せそうには感じられません。それこどころか不気味な雰囲気です。なんなら青空のほうがまだ明るさを感じますが、実は読んだあとは青空のほうが怖く感じられます。(その理由は最後まで読めばわかります)

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さて、著者の鈴木悦夫さんは、児童文学の創作活動のほか、作詞や音楽番組の構成など多方面で活躍された方で、1989年にこの本を出されました。そして、2023年に復刊され、令和の今、「伝説のトラウマ児童文学」として話題になっています。

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『幸せな家族』は、保険会社のテレビCMのモデルに選ばれた、ある家族の物語です。CMのコンセプトが《幸せな家族》で、まさに幸せな家族の日常を撮影するために撮影スタッフたちがこの家にやってきます。ところが父親の仕事が忙しいため家族がそろわず、なかなか撮影を始めることができません。そんな中、父親が変死。さらにその後も次々と家族が亡くなっていきます。それも、とある不気味な歌の歌詞にあわせたかのように。

作品の特設サイトでは、その不気味な唄を聞くことができます。でも聞くのは本を読み終えてからにしてください。そして曲を聴き終えたら、夕暮れの帯を外して、もともとの青空のイラストをご覧になってみてください。きっと読む前とは印象が違うはずです。

具体的な感想はネタバレになってしまうので言えませんが、いろいろな意味で怖かったですし、衝撃的な作品でした。ちなみに、ホラーではありません。生きている人間の物語です。だからより怖いのです。もし令和の今、この作品が新作として発表されていたら、きっとSNS上では大変なことになっていたのでは?なんて余計な心配をしてしまったほどです。でも、書かれたのは1980年代です。そして、この物語からは当時の闇が感じられました。

それにしても、これ、児童文学なんですよね…。もし私が子どもの頃に読んでいたら、しばらく引きずりそうです。今ですら読んだ後にだいぶショックを受けたのに。この本を読むのは心に余裕がある時のほうがいいかも。

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