ゆきれぽ

2025年7月23日

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『ひんやり、甘味』

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厳しい暑さが続いています。
こうも暑いと、おやつには冷たいものが食べたくなりますよね。
あなたが今食べたい夏のおやつは何でしょう?

アイスクリーム、かき氷、水羊羹、カルピス、サイダー、クリームソーダ、
それとも、ところてんでしょうか?

今日は、そんな夏の冷たいスイーツについて書かれたエッセイ集をご紹介します。

『ひんやり、甘味』
河出文庫

こちらは、河出書房新社の人気食べ物アンソロジー「おいしい文藝」シリーズのひとつで、
40人の夏のスイーツエッセイが収録されています。

著者は、浅田次郎さん、阿川佐和子さん、江國香織さん、沢村貞子さん、池波正太郎さん、
立川談志さん、遠藤周作さん、幸田文さん、向田邦子さんなど、豪華な顔ぶれです。

また、収録されているエッセイは昭和の夏の思い出が多めです。
それこそ氷屋さんが家に氷を配達していた時代のエッセイもあります。

でも、知らない時代の話でも私は懐かしさを感じました。
子どもの頃の思い出って、時代が違っても感覚的なところでは共感できるように思うのです。
私もすっかり小学生だった頃の自分に戻っていました。

いくつか私が印象に残ったエッセイをご紹介しますね。

まずは、女優・随筆家の沢村貞子さん。
子どもの頃、母親に頼まれて白玉を作ったものの、
気付いたら二十人前の量になっていたというお話です。
水の分量を間違えて、粉や水を足しているうちに増えてしまったそうです。

同じようなことを私はいまだにやってしまいます。
味を整えているうちに、いったい何人前よ!という量になってしまうのです。(苦笑)

さて、沢村さんのエッセイはここで終わりません。
お母さまから、こう作ったらいいよと教えてもらうのですが、
私はこのエッセイを読んで亡き祖母を思い出しました。
私も同じようなことを言われていたなあと、懐かしさでいっぱいになりました。

一番笑ったのは、落語家の立川談志さんです。
話し言葉そのままの心地いいリズムの文章で、最後の一行まで大変面白かったです。

ちなみに、談志さんは、デートは「逢い引き」、キスは「口づけ」と日本語に訳せるのに、
アイスクリームの日本語訳は無いからと、勝手に「甘味冷凍牛乳」と訳されてました。
あと「恋の涼味」とも。(笑)

あなたなら、アイスクリームをどのように訳しますか?

ちなみにこのアンソロジーは、アイスクリームとかき氷の話題が多かったです。
かき氷と言えば、以前はかき氷のことを「氷水(こおりすい)」と言っていたそうで、
氷水エピソードはいろいろな人が書いていました。

きっと今のかき氷のほうが美味しいと思うのですが、
この本を読んでいると、当時の氷水が食べたくなってくるもので、
私が今一番食べたいのは昭和の氷水です。

また、一番印象に残ったのは、童話作家の立原えりかさんです。
夏休みに空き地に自転車に乗ってアイスキャンデーを売りにきていた女性が、
毎回帰り際に三つのアイスキャンデーを地面に置いていったそうです。
なぜそんなことをしたのか。
この続きはぜひ本を読んでいただきたいのですが、私は理由を知って泣きました。
とてもいいエッセイでした。
夏の今読んでいただきたい、というか読むべきエッセイだと思いました。

このアンソロジーには他にも様々なエッセイが収録されています。
どれも短いエッセイなのですが、それぞれ心に残る文章で、
じっくり大切に読んでいきたくなりました。

大人の皆さんがこの本を読むと、きっとホッとするのではないかしら。
あなたも子どもの頃の夏にタイムスリップしてみては。
本を開けば、あの夏に行けますよ。

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