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「倉俣史朗のデザイン——記憶のなかの小宇宙」

2024年2月28日

ヨリミチトソラで毎週水曜18時32分頃からお送りしている「ゆきれぽ」では、
本の紹介をメインに時々アートもご紹介しています。

今日は久しぶりにアートの話題です。

富山県美術館で開催中の企画展
「倉俣史朗のデザイン——記憶のなかの小宇宙」
をご紹介します。

倉俣史朗(くらまた・しろう)さんは、
1991年に56歳という若さで亡くなったデザイナーです。

造花のバラを透明のアクリル樹脂に閉じ込めた
「ミス・ブランチ」という名の椅子を見たことはありませんか。

この椅子をデザインしたのが、倉俣さんです。

アクリルと言うと、コロナ禍を経た今はすっかり飛沫防止のイメージですが、
倉俣さんは、30年以上も前にアクリルを使った
とても素敵な家具をデザインしているんです。
倉俣さんの作品を見れば、きっとアクリルの印象ががらりと変わるはずです。

この企画展は、倉俣さんがデザインした家具やインテリアのほか、
夢日記やイメージスケッチ、蔵書やレコード、それから倉俣さんの言葉を通して、
「倉俣史朗その人」を伝えることを試みているそうです。

展示は6つのコーナーにわかれていて、
デザイナーとして独立する前の「プロローグ」から始まり、
その後は時代順に作品が紹介されていきます。

家具やインテリアを美術館で紹介するってどういうこと?
と思われる方もいるかもしれませんが、
倉俣さんのデザインした家具は、とにかく見ていて楽しいのです。
自由で遊び心があって独創的です。
スパイス的に「ユーモア」が入っていて、心をくすぐられます。

例えば、椅子の上に椅子が座った「椅子の椅子」、
アクリルを使った中身が丸見えの透明の家具、
子どもがシーツをかぶってお化け遊びをしているような形のランプ
(通称「オバQ」)など、
これは何?と思わず突っ込みたくなるようなデザインのものばかりです。

また、展示の仕方も楽しくて、第3章の椅子の展示では、
私には、まるで椅子が砂浜でくつろいでいるように見えました。

しかもこの砂浜に見えたものが意外なものでした。
ぜひ会場では展示作品だけでなく足元にも注意してみてください。
きっと「おお、これは!」と驚かれることと思います。

ちなみに、この企画展は東京から始まり、
富山、そして京都でも開催されるのですが、
富山の見どころは、まさに展示そのものだそうです。

富山は、クラマタデザイン事務所のスタッフだった
インテリアデザイナーの五十嵐久枝さんが会場構成を監修・デザインした
富山でしか味わえない展覧会になっているそうですよ。

作品の魅力をより引き出しているのはもちろんのこと、
とにかく楽しく鑑賞できる会場となっていました。

楽しいと言えば、企画展を担当された稲塚展子さんの解説も面白かったです。

稲塚さんのお話を聞いていると、家具が生き物のように見えてくるのです。

例えば、造花のバラが入った椅子「ミス・ブランチ」は、
作品の前に透明の御簾(みす)がかかっているのですが、
稲塚さんは「御簾の向こうにいるお姫様にい会いに行くようじゃない?」
とおっしゃるのです。

そう言われると、椅子はもうお姫様にしか見えなくなります。

私には会場内のどの家具も「ある」のではなく、「いる」ように思えました。

ちなみに、倉俣さんはアート作品を作っている印象が強いですが、
アーティストではなくデザイナーです。
ですから、いくつも同じものが作れるように図面もひいて、
作るのは職人にお願いしていたそうです。
(会場には図面も展示されています)

職人が作っていますので、一見アート作品の様に見えるものでも
機能的にも優れているんですって。

倉俣さんは、モノに対する愛情を共有できないと納得のいくものは生まれない!と、
信頼する職人さんたちと直接やり取りをしながら制作していったそうです。

また、今回の展覧会では、倉俣その人を紹介したいということから、
本人がつけていた夢日記や蔵書、レコードなども展示されています。

学芸員の稲塚さんによると、
倉俣さんの心の中をのぞきながら歩いていくという
経験を味わっていただきたいそうです。

最後に稲塚さんがこんなことをおっしゃっていました。

実物の作品や言葉に囲まれた中を歩いていけば、
きっと何かしら自分の中にタネとなって残っていくと思うの。
その見えないタネを持って帰って欲しい。
いつか何かで芽吹くから。

稲塚さん、かっこいい〜!
私も芽吹く日を楽しみに待ちたいと思います。

なお、稲塚さんは図録も書いていらっしゃいます。
愛あふれる文章で読みながらワクワクしました!
展示と合わせてチェックしてみてください。

展覧会、とても楽しかったです。
展示作品は、何十年も前の作品なのに、全く古さを感じさせないどころか、
今の時代にあっているように感じられました。
また、アートとデザインをつなぐ富山県美術館らしい展覧会だと思いました。
ぜひあなたの心に新たなタネを植えに、富山県美術館に足を運んでみては。

企画展「倉俣史朗のデザイン——記憶のなかの小宇宙」は、
富山県美術館で4月7日(日)までの開催です。

3月1日(金)、22日(金)の13時からは、
学芸員の稲塚さんのギャラリートークが、
また、3月16日(土)には会場構成を担当した
五十嵐久枝さんの講演会もありますので、ぜひ参加してみてください。

◎詳しくは コチラ

※ブログ内の写真は特別に許可を得て撮影したものです。
会場内は撮影できませんので、ご了承ください。

yukikotajima 11:16 am