ブログトップページはコチラ

『なれのはて』

2023年12月13日

私は、本は一気に読んでしまいたい派なのですが、
まとまった時間が取れない時は、何度かに分けて読むようにしています。
しかし、没頭し過ぎて時間を忘れてしまうなんてこともよくありまして、
先日も、途中までと決めていたのに結局最後まで読んでしまい、
読み終えた時には夜中でした。
しかも興奮しているから、その後全く寝付けないという。(笑)

私がノンストップで読んだ本はこちら。

『なれのはて』
加藤シゲアキ
講談社

著者の加藤さんは、アイドルグループ「NEWS」のメンバーでありながら、
作家としても活躍しています。
2012年に『ピンクとグレー』で作家デビュー。この作品は映画化もされました。
2021年には『オルタネート』で吉川英治文学賞と高校生直木賞を受賞されました。

『ピンクとグレー』も『オルタネート』も読んでいる私からすれば、
今や作家さんとしての印象のほうが強いくらいです。

そんな加藤さんの新作がこの秋発売されました。
本のタイトルは『なれのはて』です。
この本が今、大変話題になっているそうです。

たしかにすごい本でした!

主人公は、テレビ局で働く守谷(もりや)という男性です。
彼は、ある事件をきっかけに報道局からイベント事業部に異動することになります。
その異動先で、吾妻(あづま)という女性スタッフから企画の相談をされます。

それは、祖母の遺品である不思議な一枚の絵を使って
「たった一枚の展覧会」をしたいというものでした。

ところが困ったことに、この絵の裏に
「ISAMU INOMATA」という署名がある以外、
画家について何も知らないと言います。
それに、調べても情報が一切出てこないと。

絵に興味をもった守谷は、彼女とともに謎の画家の正体を探ることにします。
そして、秋田の古い新聞記事に同じ名前を見つけます。
さっそく二人は秋田へと向かい、調査を始めるのですが、
たった一枚の絵は、私たち読者を一体どこに連れていくのか。
この先は、ぜひ本のページをめくりながらお確かめください。

私は守谷たちと共に、絵の謎を探っている感覚で読んでいったのですが、
これが、大変に壮大な物語でした。
時代も大正時代までさかのぼります。
戦争も出てきます。
今回、加藤さんは「戦争」を描きたかったそうです。

また、「報道」もテーマの一つになっています。
守谷は画家の正体を探りながら、
同時に自分自身とも向き合っていくことになるのですが、
そもそもなぜ彼は報道局からイベント事業部に異動することになったのか。
そんな守谷の内面に触れるパートも興味深く、
同じメディアで働く身として、考えさせられました。

作品は熱く壮大な物語なのですが、細やかで冷静な筆致なので、
私は、がむしゃらに読むというより、丁寧に文章を追っていきました。
また、大袈裟すぎると、どこか作りこまれた感じがしてしまうものですが、
そういった力みが無い分、より現実味を帯びているように感じられました。
映像が見え、匂いがし、音が聞こえるという、リアルな感触のある作品でした。

『なれのはて』は、物語としての面白さはもちろん、
戦争、家族、報道など様々な社会的なテーマも盛り込まれた、
読み応えのある一冊でした。

あとね、ラストの一行がいいのですよ。泣きました。
まあ、そのおかげで私はその後、
興奮して寝られなくなってしまったわけですが。(笑)

きっと一気読みしたくなりますので、
皆さんはちゃんと時間のある時に読むようにして下さいね!

yukikotajima 11:49 am