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『リカバリー・カバヒコ』

2023年10月11日

神社やお寺に行くと、自分の治したいところをなでると良くなると言われる
「なで地蔵」などの「なで〇〇」を時々見かけますが、
あなたはいつもどこをなでますか。

私はたいてい、肩、目、頭ですかね。
肩コリ、眼精疲労をどうにかしてほしいのと、もっと頭が良くなりたいので、
欲張ってあっちもこっちもと触っています。

さて、今日ご紹介する小説は、お地蔵様ではなく
公園の古びたカバの遊具をなでる人々のお話です。

『リカバリー・カバヒコ』
青山美智子
光文社

青山さんと言いますと、作品が3年連続で本屋大賞にノミネートされるなど、
本を愛する書店員の皆さんにもファンが多い作家さんです。

私もファンの一人で、ノミネート作の
『お探し物は図書室まで』『赤と青とエスキース』『月の立つ林で』
は、いずれもラジオでご紹介しています。

(↑本のタイトルをクリックすると、私の本紹介が読めます)

新作の『リカバリー・カバヒコ』も大変良かったので、
この作品も来年の本屋大賞にノミネートされる予感がします。

今作は、とあるマンションの住人たちによる連作短編集です。

まずは、中学時代は成績が良かったのに
高校に入ってから授業にすらついていけなくなった男子高校生の物語から始まり、
その後、ママ友グループの誘いを断りたいのにできないママや、
ストレスで体調を崩して仕事を休んでいる女性、
駅伝に出たくなくて足をねんざしたと嘘をついた小学生などの物語が続いていきます。

それぞれに悩みを抱えた彼らは、マンション近くの公園に行き、
そこで古びたカバの遊具を見つけます。
そして、そのカバを触りながら悩みを打ち明けます。

実はこのカバの遊具には、自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復する
という都市伝説があるのです。

そのため「リカバリー・カバヒコ」という名前がついています。

なんて紹介すると、カバがピカーッと光って、
悪いところを治してくれて、めでたしめでたし!
というようなお話を想像される方もいるかもしれませんが、
そういったファンタジーではありません。

だって、このカバヒコは何も変わらないからです。
誰の前でも塗装が剥げたままの古びたアニマルライドのままです。

でも、カバヒコに出会った人たちには、その後、変化が生じます。
どう変わっていくのかは、ぜひ本を読んでお確かめください。

今回もいい物語でした。
読み終えた後、本の表紙に描かれたカバヒコを私も思わずなでてしまいました。

私は青山さんの作品を読む度に、心が晴れ晴れとします。
なんかモヤモヤしているのだけど、
うまく自分の気持ちを表せないことってありませんか?
そんな時に青山さんの作品を読むと、モヤモヤが取り除かれて、
「私はこう思っていたのか」と自分の気持ちに気付けるのです。

とは言え、あくまでも物語ですから、私のことが書かれているわけではありません。
でも、登場人物たちの悩みは、誰もが感じていることなのです。
だから、よりダイレクトに心に響いて、
自分の物語のように感じてしまうのかもしれません。

今回も勝手ながら私自身の物語として読ませていただきました。
特に、ストレスで仕事を休んでいる女性の話は、読みながら涙があふれてきました。

ウェディングプランナーの彼女は、仕事が好きで一生懸命仕事をしているものの、
担当した新郎が結婚式当日、ずっとむすっとしていて、
その理由がわからず、ずっと不安を感じています。
私も彼女の心の中が痛いほどわかって、他人事とは思えませんでした。
でも、彼女もカバヒコに出会ってから、ある大事なことに気付きます。

あまりにも良かったので、後日あらためてそのお話を読んだら、
同じところでまた泣けました。しかも一回目と同じ熱量で。

最近、なんかうまくいかないなあという方、
ぜひ『リカバリー・カバヒコ』を読んでみてください。

読んだ後は、きっとあなた自身もリカバリーされているはず。

yukikotajima 11:11 am