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『この夏の星を見る』

2023年8月9日

あなたは夜空を見上げてますか。

この本を読んだあとは、きっと夜空を見上げたくなると思います。
それも望遠鏡で。

『この夏の星を見る』
辻村深月
株式会社KADOKAWA

いやあ、いい本でした!
大人はもちろん、夏休み中の中高生たちにも読んで頂きたい。
それこそ、ゆきれぽの夏の課題図書にしたいくらいです。(笑)

『この夏の星を見る』は、コロナ禍の中高生のお話です。

コロナ禍では、誰もがこれまでとは異なる生活を送ることになりました。
中高生たちも部活や大会が無くなるなど、たくさんの我慢を強いられましたよね。

この物語には、茨城、渋谷、長崎の五島列島の中高生たちが登場し、
それぞれのコロナ禍が描かれます。

例えば、五島列島の高校3年生の円華(まどか)は旅館の娘なのですが、
旅館に県外からの旅行者が泊っていることが原因で、
親友から距離を置かれてしまいます。

一方、渋谷の中学1年生の真宙(まひろ)は、
ある理由から学校に行きたくないと思っており、
コロナが長引くことを願っています。

それぞれに事情を抱えた彼らでしたが、
天体観測を通して全国の中高生たちとつながっていくことになります。

といってもコロナ禍ですし、そもそも中高生ですから、
簡単に全国を行き来することはできません。

彼らはオンラインを通じてつながります。

そして、同じ日にそれぞれの場所で望遠鏡で星を見ることを計画します。
それも自分たちで作った望遠鏡で。

***

『この夏の星を見る』を読んで、
「青春って、すごく密なので」の言葉を思い出しました。
2022年に夏の甲子園で優勝した仙台育英高校の須江航監督の言葉です。

コロナ禍では誰もが日常を奪われたわけですが、
大人と中高生では時間の感覚が違うことを
この本を読んで気付いたというか、実感しました。

読んでいるうちに自分も中高生の一人の気分になってきて、実感したのです。
10代の一年の短さに。

「コロナ禍だから、しばらく待ってから」なんて、
本当に待っていたら学生生活が終わってしまいます。

この物語の生徒たちは、それぞれ色々抱えつつも、
やりたいことを見つけた後の行動はとてもはやいのです。
その瞬発力やスピード感に私は青春を感じました。
大人たちだけだったら、やっと今ごろ
「コロナも落ち着いてきたから、そろそろ始めましょうか」
なんて言ってそうだもんなあ。(笑)

でもね、この本に出てくる大人たちは違います。
子どもたちの限られた時間の大切さをちゃんとわかっています。
そんな大人たちの言葉がいいんです。
彼らの言葉に涙している私は、まるで生徒の一人のようでした。

本屋大賞を受賞した『かがみの孤城』を読んだ時にも思ったのですが、
著者の辻村さんって、人物、特に少年少女たちを丁寧に描いているというか、
ひとりひとりを本当によく見ているんですよね。

だから、『この夏の星を見る』を読んで登場人物たちの気持ちに触れることで、
「誰も私のことをわかってくれないと思っていたけど、わかってくれる人がいた」
と思う人もいるんじゃないかな。

私は、この本のおかげで、コロナ禍で感じた、
モヤモヤしつつもそのまま放置してしまった自分の気持ちと向き合えたように思います。
本当にいい物語でした。

それから!

3月に発売された辻村さん初のガイドブック
『Another side of 辻村深月』には、
『この夏の星を見る』のスピンオフ書下ろし短編「薄明の流れ星」
も収録されていますので、あわせて読んでみてください。

流れ星と言えば、今度の日曜日、13日はペルセウス座流星群の極大日です。
今年は月が無いため、流れ星が良く見えるそうですよ。
せっかくですので、小説とセットで楽しんでみては。
できれば13日までに『この夏の星を見る』とスピンオフをお読みください。
より星空観察を楽しめると思います。

ということで、さっそく読み始めましょう!(笑)

yukikotajima 11:42 am