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『つぎはぐ、さんかく』

2023年3月8日

私は美味しそうな食べ物が出てくる本が好きです。
いや、正しくは「文字で表現された料理が好き」かな。

今日ご紹介する本は、1行目から心をつかまれました。

『つぎはぐ、さんかく/菰野江名(こもの・えな)』ポプラ社

こちらの作品は、第11回ポプラ社小説新人賞受賞作で、
なんと選考員の満場一致で決まったのだとか。

新人賞受賞、おめでとうございます〜。

『つぎはぐ、さんかく』の表紙は3個のおにぎりの絵です。
実際、本文にもたくさんの食べ物が出てきます。

私がいきなり心をつかまれたのが、こちら。

「甘くてからい。煮詰まる音はくつくつとかわいい」

実は、この文章から物語が始まるのです。
煮詰まる音を「かわいい」と表現するなんて、
この方はよっぽど料理が好きなんだあと想像できます。

そのあとも「濃くておもい」「どきどきするような酸味」など、
まるで詩を読んでいるかのようなリズミカルな言葉が続き、
思わず声に出して読んでしまいました。

この料理の描写を読んだだけで、
まだどんな物語かわからないけれど私はこの物語が好きだ、と思いました。
そして、さっそくお腹が空きました。(笑)

料理を作っているのは、ヒロという女性で、
惣菜と珈琲のお店「△(さんかく)」を営んでいます。

ヒロは、晴太(はるた)と蒼(あお)のきょうだい三人だけで暮らしています。

お店では、ヒロがお惣菜を作って、晴太がコーヒーを淹れています。
このコーヒーも美味しそうで、まるで香りが漂ってくるようです。
そしてもう一人の蒼はと言うと、食欲旺盛で元気いっぱいの中学三年生です。

常連客もでき、お店も軌道に乗ってきたある日のこと、
蒼から中学卒業とともに家を出たいと言われてしまいます。

でも、ヒロはこれまで通り三人での暮らしを続けていきたいと思い、
蒼の気持ちを受け入れることができません。

まさに今、ヒロと同じ気持ちの方もいるかもしれませんね。
お子さんが進学や就職で家を出て行くことに対して、
応援する気持ちはあるものの、実は寂しくて仕方ない…なんて方もいるのでは。

そもそも。
なぜこのきょうだいは三人だけで暮らしているの?
彼らの親は?
と思いますよね。

その答えは読み進むにつれ明らかになっていくのですが、
多分こういうことかしら…という私の予想はことごとく外れました。

実は、この家族には秘密があるのです。
それはいったい何なのか。
三人はこれまでどんな人生を送ってきたのか。
そして、この先はどうなっていくのか。
続きはぜひ本のページをめくりながらお確かめください。

『つぎはぐ、さんかく』は、
美味しそうな料理とコーヒーに、
お店のお客さんたちとの交流、
きょうだい三人の賑やかな生活、
そして、三人の成長が
声に出して読みたくなるリズミカルな言葉で紡がれています。

家族の物語でもありますし、
それぞれの成長の物語でもあります。

今のままではいけないと思いながらも
なかなか一歩前に踏み出せずにいる方は、この本を読んでみては。
読んだ後は、次は私も。と思えるかも。

はじまりの季節の今、読むのにおすすめの一冊です。

yukikotajima 11:26 am