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『海をあげる』

2021年10月6日

「本屋大賞」はもうお馴染みだと思いますが、
毎年11月には日本全国の書店員さんが選ぶ
「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」が発表されます。

小説では無く、ノンフィクション本が対象です。
2018年に始まり、今年で4回目です。

去年の大賞は、在宅での終末医療の現場を綴った
佐々涼子さんの『エンド・オブ・ライフ』でした。
ラジオでもご紹介しています。

◎田島の本の紹介は コチラ

なお一昨年は、ブレイディみかこさんの
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でした。

4回目となる今年は、6冊がノミネートされています。

*『あの夏の正解/早見和真(はやみ・かずまさ)』

*『海をあげる/上間陽子(うえま・ようこ)』

*『キツネ目 グリコ森永事件全真相/岩瀬達哉(いわせ・たつや)』

*『ゼロエフ/古川日出男(ふるかわ・ひでお)』

*『デス・ゾーン 栗城史多(くりき・のぶかず)のエベレスト劇場
/河野啓(こうの・さとし)』


今日のはこの中から、上間陽子さんの『海をあげる』をご紹介します。

著者の上間さんは、琉球大学教育学研究科教授で、
普天間基地の近くにお住まいです。
90年代から2014年にかけては東京で、以降は沖縄で
未成年の少女たちの支援・調査に携わっています。

2016年夏に起きたうるま市の元海兵隊員・軍属による殺人事件を機に
沖縄の性暴力について書くことを決め、翌年刊行された
『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』はベストセラーとなりました。

現在は若年出産をした女性の調査を続けながら、
10月1日には若年出産のシングルマザーを保護するシェルターを開設したそうです。

『海をあげる』は、ちょうど一年前に発売され、
「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」にノミネートされた他、
「わたくし、つまりNobody賞」や「第7回沖縄書店大賞 沖縄部門大賞」
も受賞されています。

この本では、著者が暮らす沖縄の日常がさまざまな人の声と共に綴られています。

沖縄というと「観光」の印象が強いかもしれません。
あー、いつか旅行に行きたいー!
と頭の中に青空や青い海を思い浮かべた方もいるかもしれませんが、
この本に書かれているのは、そういった外から見た沖縄のキラキラした部分ではなく、
実際に沖縄で暮らす人たちの本音です。

上間さんが大切な人に裏切られた時に友人たちに支えられたエピソードから始まり、
沖縄での理不尽な日常や様々な人にインタビューした内容が
そのままの会話で紹介されています。

90代の女性からは戦争中のことを
沖縄出身のホストからは彼の過去から今に至るまでを丁寧に聞いていきます。
その他、10代でママになった女性や性暴力を受けた女性たちの聞き取りも
何度も継続して行っています。

しかし、上間さんは沖縄の方たちの「語らなさ」が目についたそうです。
そして、聞く耳を持つものの前でしか言葉は紡がれず、
上間さん自身、聞き逃してきた声がたくさんあると感じているそうです。

でも、「私は聞き逃したかもしれない」と思える上間さんだからこそ
聞き取れたことがこの本には詰まっていると思いました。

上間さんの文章は、静かです。
でも強さがあります。
そして、とても正直です。
まるで自分の心を確かめるように文字に起こしているようにも思えました。

なぜ沖縄に住む自分たちばかりがこんな理不尽な目にあわなければいけないのか。
なぜ若い女性たちは辛い目にあわなければいけないのか。
怒りや絶望が文章から滲み出ていました。

そして、著者は私たち読者にあることを託します。
「海をあげる」と。

タイトルにもなっている「海をあげる」とはどういうことなのか。
ぜひ本をめくって上間さんの言葉に耳を傾けてみてください。

あなたは、この本を読んで何を感じるでしょうか。

yukikotajima 11:34 am