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『ブロードキャスト』『ドキュメント』

2021年7月28日

今、オリンピックが開催されていますが、
高校生たちも高校野球や高校総体など今まさに夏の大会期間中です。

また、明日はNHK杯全国高校放送コンテスト、
通称Nコンの決勝が行われます。
学生時代に放送部だった方には懐かしい響きかもしれません。

今日ご紹介する本は、高校の放送部に入部した男子高校生の物語です。

『ドキュメント/湊かなえ(角川書店)』

この本を紹介する前にまずは『ブロードキャスト』をご紹介します。
こちらはすでに文庫化されています。

実は『ドキュメント』は『ブロードキャスト』の続編なのです。

シリーズ1作目の『ブロードキャスト』では、
主人公の圭祐が高校の放送部に入るまでと、
放送部に入ってからの一年目が描かれています。

圭祐は中学時代、駅伝で全国大会を目指していたのですが、
惜しくも出場を逃してしまいます。
高校は、駅伝仲間の友人に誘われ、陸上の強豪校に進学します。
ところが、とある理由から陸上部への入部を
断念することになってしまうのです。
目標を失った圭祐でしたが、声がいいという理由から放送部に誘われます。
そして放送部に入部し、こちらでも全国を目指すことになるという、
ここまでがシリーズ1作目『ブロードキャスト』の物語です。


2作目の『ドキュメント』は、二年生になった圭祐たち放送部の物語です。

三年生の引退後、放送部では全国大会を目指して
テレビのドキュメント作品を作り始めます。

題材は陸上部の活動です。
訳あって陸上部をあきらめざるを得なかった圭祐は
複雑な思いを抱えながら陸上部を追っていきます。

そんなある日、ドローンで撮影した映像の中に、
煙草を持って陸上部の部室に入る同級生の姿が発見されます。

その同級生とは、圭祐が中学時代、同じ陸上部で
高校でも一緒に駅伝をしようと誘ってくれた友人でした。

圭祐は、彼が煙草を吸うはずはない!
と事件解決のために調べ始めます。

***

一作目の『ブロードキャスト』は
挫折した高校生が次の目標を見つけ前に進む青春小説でしたが、
続編の『ドキュメント』は、イヤミスの女王である
湊さんらしさも加わっていて、そういう意味でも楽しめました。

今回、著者の湊さんは、
対面でのコミュニケーションが難しくなった今だからこそ
「“伝える”とは何か」について真剣に考えたそうです。

放送部もその問題と向き合います。
テレビのドキュメント作品を作るうえで、
取材する側が伝えたいことと
される側の思いが一致していればいいですが、
そうではないこともあります。

今、オリンピック真っ只中ですが、
選手によっては、マスコミが伝える内容に対して、
「それはちょっと違う!」
と思うこともきっとあると思うのです。
そんな風に言ったつもりはないのに…と。

私自身、アナウンサーとして伝える仕事をしているので、
この本はかなり勉強になりました。
まっすぐな高校生たちのセリフにはドキリとさせられるものも多く、
初心を思い出しましたし、反省もしました。

そして、高校生たちにがっかりされない大人でいたいと思いました。

「そうそう。田島、しっかりね!」と今、思った方もいるかもしれませんが、
ちょっと待ったー!
「伝える」のはマスコミだけがしているわけではありませんよね?
今の時代、SNSやブログ、YouTubeなどで発信している方も多いですよね。

あなたはちゃんと伝えられていますか?
自分の思いばかりで、人の気持ちを忘れていませんか?
あなたの言葉で傷つく人がいることを考えたことはありますか?

今、ドキリとした方は、ぜひこの本を読んで、放送部のみんなと
「伝える」ということについて考えてみませんか。

また、物語としても大変面白いので、ぜひ!
私は学生時代、放送部ではありませんでしたが、
大学時代に映像制作のゼミでニュース番組やドラマを作っていたので、
自分と重ねて、なつかしさでいっぱいでした。

ところで、『ドキュメント』は、圭祐の高校二年生の物語です。
現在、湊さんは現在、充電期間中だそうですが、
いつか高校三年生の物語も読んでみたいな。

yukikotajima 10:58 am

『テスカトリポカ』

2021年7月21日

先週の水曜に2021年上半期の芥川賞・直木賞受賞作が発表されました。

【芥川賞受賞作】

石沢麻依(いしざわ・まい)『貝に続く場所にて』

李琴峰(り・ことみ)『彼岸花(ひがんばな)が咲く島』


【直木賞受賞作】

佐藤究(さとう・きわむ)『テスカトリポカ』

沢田瞳子(さわだ・とうこ)『星落ちて、なお』


4作品が一度に選ばれるのは、10年ぶりのことだそうです。

先週私がラジオでご紹介した
砂原浩太朗(すなはら・こうたろう)さんの
『高瀬庄左衛門御留書(たかせしょうざえもんおとどめがき)』
は残念ながら受賞ならず!


私も早速、受賞作を読んでみようと本屋さんに行ったところ、
佐藤究さんの『テスカトリポカ』一冊しかありませんでした。

『テスカトリポカ』は、直木賞だけでなく、
5月に発表された山本周五郎賞も受賞している話題作です。
同時受賞はなんと史上二人目のことだとか。

でも。

心の中では、『テスカトリポカ』を読むか迷っていました。

本当は、天才絵師、河鍋暁斎(きょうさい)
の娘の生涯が描かれた沢田瞳子さんの作品が読みたかったのです。

それに、『テスカトリポカ』は、見た目からして恐ろしい雰囲気だし、
内容も怖そうだし、うーん、どうしよう。
と悩みながらも手に取って少し立ち読みしてみたところ、
思いのほか読みやすく、これは続きを読んでみたいとすぐにレジへ向かいました。

ちなみに、先週の直木賞の選考会は、3時間に渡るすごい激論だったそうです。
暴力シーンの多さや臓器売買を扱っていることなどから、
読む人に嫌悪をもたらすのではないかと。
でも、これだけスケールの大きな小説を受賞作にしないのは
あまりにも惜しいという結論になったそうです。

まさにおっしゃる通りです。
正直こわかったけど、この作品には圧倒的なパワーがありました。

読む前はどうしようと悩んだものの
読み始めたらノンストップでした。
結果、読んで良かったです!

どんなお話なのか簡単にご紹介しましょう。

まずは、1996年のメキシコから始まります。
メキシコでは麻薬密売人たちが町のいたるところで目を光らせており、
次々に人が殺されていました。
17歳の少女ルシアはそんな町に別れをつげることにします。

逃げた町で「日本」のことを知った彼女は、
誰も知り合いのいない日本へと向かいます。
そして、日本人との間に「コシモ」という名の男の子がうまれます。

一方、いまだ麻薬戦争が続く2015年のメキシコでは、
麻薬カルテルの幹部であるバルミロが
対立組織との抗争の果てにメキシコから逃走します。

そして、潜伏先のジャカルタで日本人の臓器ブローカーの末永と出会います。

バルミロと末永は新たな臓器売買ビジネスを実現させるため日本へと向かいます。

その日本でバルミロは成長したコシモと出会い、仲間に加えます。

そして、コシモは知らぬ間に彼らの犯罪に巻きこまれていくことになる、
という物語です。

タイトルの「テスカトリポカ」とは、
かつてメキシコにあった王国「アステカ」の神様のことです。
アステカには神様に人の心臓を献上する儀式があり、
バルミロは、その儀式のことを
幼いころから祖母から聞かされていました。

一方、臓器ビジネスで売買しようとしている臓器も「心臓」です。
でも、この心臓は生きていなければ売り物になりません。
果たして彼らは、誰の心臓を売買しようとしているのでしょうか。

ぜひこの続きは、本のページをめくってみてください。

***

物語には大勢の登場人物が出てきますが、ほぼ悪い人たちです。
皆、自分のことしか考えていないし、
自分が悪いことをしているなんてことは思っていません。

悪でつながった人たちは、簡単に裏切るし、気に入らなけれな殺します。
「悪」の大渋滞で、読んでいる私まで麻痺してきそうなほどでした。

私は普段、本を読んでいるときは、
頭の中に映像を浮かべながら読んでいるのですが、
この本に関しては、残虐なシーンが多すぎて
途中から脳内でモザイクを入れて読んでいました。

でも、本を閉じたいとは思いませんでした。
一度読み始めたら、ぐいぐい引き寄せられてしまうのです。

ただ激しい暴力の描写だけではなく、
物語が丁寧に描かれているので、読んでしまうのだと思います。

悪人同士が、騙し合いながらも
お互い利用しようと近づいていく様はスリルがありますし、
自分がしていることに罪悪感を感じる人も心の揺れも印象的でした。

そして、気付けば夢中で最後まで読んでしまいました。

今回、あらためて小説のすごさを実感しました。

だって、先週、江戸時代の世界をのぞいたと思えば、
今週は麻薬やら臓器密売やらの世界をのぞいているんですよ。

小説だったら、絶対に関わらないタイプの人の心の内も丸見えだし、
知らない世界に足をふみいれることもできます。
それも安全な場所にいながら。

やはり読書は楽しい!

さて、次はどんな世界に行ってみようかしら。

yukikotajima 11:28 am

『高瀬庄左衛門御留書』

2021年7月14日

2021年上半期の芥川賞、直木賞の選考会が今日この後行われ、
受賞作が発表されます。

候補作はこちらです。

【芥川賞】

石沢麻依(いしざわ・まい)『貝に続く場所にて』
くどうれいん『氷柱(つらら)の声』
高瀬隼子(たかせ・じゅんこ)『水たまりで息をする』
千葉雅也(ちば・まさや)『オーバーヒート』
李琴峰(り・ことみ)『彼岸花(ひがんばな)が咲く島』


【直木賞】

一穂(いちほ)ミチ『スモールワールズ』
呉勝浩(ご・かつひろ)『おれたちの歌をうたえ』
佐藤究(さとう・きわむ)『テスカトリポカ』
沢田瞳子(さわだ・とうこ)『星落ちて、なお』
砂原浩太朗(すなはら・こうたろう)
『高瀬庄左衛門御留書(たかせしょうざえもんおとどめがき)』

一穂ミチさんの『スモールワールズ』は、以前、ラジオでご紹介しました。

◎私の感想は コチラ

***

今日は候補作の中から私が気になった一冊をご紹介します。

今回初めて直木賞候補となった砂原浩太朗さんの
『高瀬庄左衛門御留書(講談社)』です。

タイトルだけをみると、これは漢文か?と突っ込みたくなるほど漢字が並んでいて
何やら難しそうな気配を漂わせているのですが、白を基調としたシンプルな装丁を見て、
これは美しい物語のような気がすると思い、読んでみることにしました。

この本は直木賞の候補になっただけでなく
今年1月の発売以来、話題となっている時代小説です。

主人公は江戸時代の地方の藩、神山(かみやま)藩で
郡方(こおりがた)を務める高瀬庄左衛門です。

なお、神山藩は架空の藩です。

彼は20ヵ所の村をまわって米の取れ高や見聞きした現地の様子などを
帳面にしるし、上役に提出しています。

タイトルの御留書(おとどめがき)とは、この帳面のことです。

庄左衛門は息子に自分の仕事をゆずり、
のんびり趣味の絵でも描いて過ごそうと思っていたものの、
50歳を前にして妻と息子を相次いで亡くします。

息子に子どもはおらず、のこされた嫁の志穂と二人きりになった庄左衛門は、
志穂に実家に戻るよう伝えます。
ところが志穂はここに残りたいと言います。
さらに「絵を教えてほしい」とお願いしてきたのです。
この先、誰かに嫁ぐのではなく絵で身を立てるようになりたいと。

庄左衛門は妙な噂が立つことを心配し、住み込みではなく通いで、
それも仕事が休みの日だけ志穂に絵を教えることにします。

志穂もいなくなり、ひとりきりになった庄左衛門は、
はじめて自分で家事をすることになるのですが、
慣れないひとり暮らしと、亡き息子の仕事を再び自分ですることになり、
毎日へとへとです。
でも真面目で誠実な彼はしっかりと仕事をしていきます。

彼には15人の仲間がおり、それぞれが受け持ちの村をまわっているのですが、
時には愚痴を言い合ったりお酒を飲んだりして憂さ晴らしをすることもあり、
江戸時代の物語なのに、まるで今の時代のサラリーマンのようだと思いました。

ある日、庄左衛門は志穂から
「弟のことで少し気にかかることがある」と言われます。
弟が毎晩のように酒の匂いをさせて帰ってくるのが気がかりだと。

そこで庄左衛門は町へ出向き、志穂の弟が出入りしている
小料理屋の近くの二八蕎麦の屋台に通い、様子を見ることになります。

そして彼は様々な事件に巻き込まれていくことになります。

ちなみに、このお蕎麦がとても美味しそうで、
本を読んだ後にお蕎麦が食べたくなります。

このあと庄左衛門は様々な人と関わっていくことになるのですが、
彼が出会う人には魅力的な人が多いことが印象的でした。
もちろん嫌な人も出てきますが。

物語が進むにつれ、登場人物たちの過去や事件の真実が明らかになり、
後半になればなるほどページをめくる手が止まらなくなりました。

中でも後半、庄左衛門が一緒に過ごすことが多くなる
弦之助とのやり取りが良かったです。

弦之助は、見た目も家柄もいいうえに秀才で性格までいい。
すべてをもっている彼と亡き息子を比べて、嫉妬してしまいます。
ところが、この弦之助が庄左衛門になついてしまうのです。

ぜひ本を読んで、揺れる庄左衛門の心を覗いてみてください。

また、この本の何がいいって、表現が美しいのです。控えめな文章なのですが、
目の前に広がる景色はもちろん、体温や匂いまで感じられます。
そして、多くを語らずとも登場人物たちの心がわかります。
そういう意味では映画っぽくもありました。
言葉で説明するのではなく絵で見せる感じが。

またいいなと思えるセリフも多かったです。
一番印象に残ったのは、庄左衛門のこの言葉です。

人などと申すは、しょせん生きているだけで誰かのさまたげとなるもの。
されど、ときには助けとなることもできましょう……
ならして平なら、それで上等。

泣きました。
なんていい言葉。
これからの人生は、この言葉を大切に生きていきたいと思いました。

読み終えた後、ああ終わってしまったかと寂しい気持ちになったのですが、
なんとこの作品、「神山藩シリーズ」としてシリーズ化していくそうですよ!

yukikotajima 11:15 am

『2040年の未来予測』

2021年7月7日

2021年も半年が過ぎました。
今年こそ何かを始めたいと思いながらも
何もできないまま気付いたら半年が過ぎてしまった。
いや、半年どころか、もう何年も経ってしまった。
という方もいるかもしれません。

ここで質問です。
今から20年前、あなたはどちらで何をしていたでしょうか。
20年前はだいぶ前に感じますか。
それともついこの間でしょうか。

今日ご紹介する本は、今から約20年後の
2040年の未来を予測した本です。

『2040年の未来予測/成毛眞(なるけ・まこと)【日経BP】』

元日本マイクロソフト社長の成毛さんが書かれたこの本は、
今年1月に発売されて以来、すでに13万部を突破している話題作です。

先月開催したgraceのマネーセミナーでも
ファイナンシャルプランナーの先生がすすめていらっしゃったので、
私も読んでみることにしました。

20年後の話の前に、20年前と今を比べてみると、
どうでしょう?あなた自身はどんな変化がありましたか?

変わらないものもあれば、変わったものもたくさんあります。

特に大きく違うのはスマートフォンの普及です。
私もスマホの無い生活なんて考えられません。

電話以外にもビデオ通話にメール、検索、買い物もできますし、
音楽もラジオも聞けます。
映画もドラマもスポーツの試合も見られます。
また、私の場合、アクセント辞典や国語辞典も入れているので
辞書としての役割も果たしています。

でも、日本でiPhoneが発売されたのは、2008年の7月。
20年どころか、今からたった13年前のことなんです。

スマホ以外にも、Uber Eats やSpotify、Netflixなどの
新しいテクノロジーの登場によって生活様式が大きく変わりました。

でも、この新しいテクノロジーが登場したときというのは、
多くの人が反対するそうです。

例えば、カメラ、映画、テレビゲームも
当初は受け入れられなかったそうです。
今やすっかりおなじみなのに。

だからこそ、この先、新しいテクノロジーに対して
いち早くその可能性に思いを巡らせられる人には
チャンスがあると、成毛さんはおっしゃいます。

できることなら私はそのチャンスをつかみたい!と思い、
『2040年の未来予測』を読んでみました。

この本では、衣食住から年金・税金・医療費といった未来の経済、
気象にいたるまで様々なカテゴリーの2040年を予測しています。

具体的には、
・お札はなく手ぶらで買い物に行くのが主流になっている
・空飛ぶクルマが当たり前になっている
・就職に学歴が関係なくなる
・医療技術はAIのおかげで格段に進歩する
そうです。

生活が便利になったり医療が進歩したりするのは嬉しいことですね!

その一方で、高齢者が増えることでの問題も挙げています。
働き手不足、年金、医療費、GDPの減少など。
この先、日本はお先真っ暗なのか…と思ってしまうような話題が続きます。

でも、暗いだけではありません。
成毛さんはあるものによって問題がカバーできるとおっしゃいます。

その「あるもの」についてはぜひこの本を読んでお確かめください。

この本を読んで何を感じるかは人によって様々だと思いますが、
私は読んで良かったです。
大変勉強になりましたし、私自身は明るい気持ちになれました。

本の帯に「知っている人だけが悲劇を避けられる」とあります。

今もすでにそうですが、この先は知っている人と知らない人の二極化が
ますます進んでいくように思います。

大人になればなるほど世の中を知った気になってしまいがちですが、
今までの知識だけではこの先、取り残されてしまいますよー。

成毛さんによると、この先、生き残るのは優秀な人ではなく、
〇〇に××した人だそうです。

生き残れるのはどんな人だと思いますか?

yukikotajima 11:07 am