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あなたが消えた夜に

2015年7月29日

今日ご紹介する小説は、
中村文則(なかむら・ふみのり)さんの5月に発売された最新作

『あなたが消えた夜に(毎日新聞出版)』

です。

中村文則さんと言いますと、
作品が各国で翻訳されるなど、
日本だけでなく、世界でも注目を浴びている人気作家です。

最近は、今話題の作家、又吉直樹さんが絶賛した『教団X』が話題となっています。

私はこの『教団X』はまだ読んでいないのですよね〜。
ああ、早く読みたい!

***

さて、今日ご紹介する『あなたが消えた夜に』は、
中村さんが初めて挑んだ警察小説です。

今回のテーマは、「無意識」と、それに伴う「人間の不自由さ」なんだとか。

主人公は、刑事です。
所轄の若手刑事・中島と捜査一課の女性刑事・小橋の2人は、
郊外のある町で発生した連続通り魔殺人事件の犯人を追っています。

その犯人は、「コートを着ていた」という複数の目撃証言から
“コートの男”と呼ばれています。

コートの男を追う中島と小橋でしたが、
なんとコートの男の模倣犯が各地に現れます。

また、自分がコートの男だと名乗る人物も次々に現れ、
それに伴い、事件にかかわる警察官も増えていきます。

物語の最初は、中島・小橋の2人が事件を追っていく様子が描かれていきますが、
途中から事件を起こしたと思われる人物目線の物語が加わり、
物語がより複雑にからまっていきます。
そうなのです。刑事たちが事件を追えば追うほど、わからなくなっていくのです。

私も、刑事と一緒に犯人を追っている気分になりながら、
ああ、またふりだしに戻ってしまったか、
いったいどうなってるんだよー!
と心の中で投げやりになったり、
関連性をみつけて興奮したりしながら、
本のページをめくっていきました。

そして、最後に犯人の言葉で事件の真相が暴かれるのですが、
それは・・・。

この作品は登場人物が大変多いので、
こんがらがらないためにも、一気に読んだ方がいいと思います。

私は、えーっとこの人誰だったっけ?
と途中で一度読んだところを何度も確認してしまいました。

この人は関係なさそうだなとさらっと読んでしまっているところに限って、
重要な伏線があったりするもので。

私の読み方はなんて甘いんだ!とページを逆戻りする度、
もう見落とさないぞ!としっかり読んでみるものの、結局、逆戻り。

もどかしさでいっぱいでした。

そして、小説の後半は、別の物語を読んでいるのではないかと思えるほど、
空気感が変わっていました。

ああ、こうやって人は行動を起こし、
底なし沼にはまっていくのかと怖くなりました。

遠いどこかの誰かの物語なのだけど、心の動きや深みにはまっていく様が、
とてもリアルに感じられ、私まで共犯者の気分になり、
自分がとても嫌な奴に思えてなりませんでした。

この本の中にも書かれていたことだけど、
人には、優しい部分もあれば、醜く残酷なところもあるのですよね。
ただ、それを口にしないだけで。
でも、その残酷な部分が無意識のうちにぽろっと表に出てしまうこともあるのですよね…。

コートの男による連続通り魔事件はどのように解決するのか?
続きは、ぜひ本をよんでみてください!

そうそう。
人間の心の闇にあふれた物語ではありますが、
主人公の刑事・中島と小橋コンビのやりとりは、
まったく空気を読んでいないやりとりで、コミカルで楽しいです。

事件の重さと二人のコンビのやりとりの軽さが
いいバランスを保っているなあと思いました。

この作品、映画だとちょっと時間が足りなそうだけど、
テレビドラマになったら、毎週変化があって面白そうかも。

小説の映像化は、個人的にはあまり見たくないのだけど、
でもこの作品は、映像化されたものを見てみたいなあ。

yukikotajima 12:24 pm

過ぎ去りし王国の城

2015年7月22日

現実逃避がしたくなると、私は物語の世界に遊びに行きます。

その扉は簡単に開けることができます。
本の表紙をめくるだけです。

小学生の頃、特に小学5年生の頃の私は、本の世界にはまりすぎて、
毎日本を読んでは物語の続きを勝手に考えたり
頭に浮かんだ世界を絵に描いたりしていました。

そのせいで成績が急降下。(笑)
父から読書禁止令が出たほどです。

大人になった今は、さすがに勝手に続編を書くことは無くなりましたが、
でも本を読むことは変わらず好きです。

今より若い頃は共感できる本が好きでした。
恋愛本や自分探しの物語を読んで、
悩んでいるのは私だけじゃないんだ!
と勝手に物語の登場人物と自分を重ね涙したことも多々ありました。(笑)

でも、上橋菜穂子さんの『獣の奏者』を読んで以来、
知らない世界を味わえることこそ読書の醍醐味じゃないか!と気付き、
それまで敬遠していたファンタジーの世界にも自然に入っていけるようになりました。

今日ご紹介する本はファンタジーです。
でも、軸の部分は非常に現実的です。

一体この先どうなるんだろうと、久しぶりにドキドキしながら本を読みました。

今日ご紹介する本は、

『過ぎ去りし王国の城 /宮部みゆき』

です。

タイトルを見た瞬間、昔のヨーロッパ貴族の物語?と思いきや、
表紙をよく見れば、古城は教室の黒板にチョークで描かれていますし、
本の帯にはネグレクトやスクールカーストという言葉が並んでおり、
どうやら現代の日本の物語、それも学校のお話であるらしいことが想像できます。

***

簡単にどんなお話かご紹介しますね。

主人公は中学3年生の男子の真(しん)。

彼はひょんなことから中世ヨーロッパの古城の描かれたデッサンを拾います。

家に持ち帰り、その絵に触れてみたところ、
絵の中に吸い込まれるような不思議な感覚を味わいます。

その後、絵の中にアバター(分身)を描きこむことで、
自分もその世界に入りこめることを突き止めます。

でも、絵の苦手な真の絵では絵の中の世界ではうまく動けないことに気づき
(棒人間は絵の中でも棒人間でした。笑)、
美術部の城田さん(女子)にリアルなアバターを描いてほしいとお願いします。

ここまでの紹介だと、中学生の男女の楽しい冒険物語か?と思われそうですが、
ちょっと違います。

真は友だちも少なくクラスでも目立たない存在ですし、
一方の城田さんは成績は優秀で絵もうまいものの嫌われ者です。

そんな2人が他の人にばれないようにしながら、
こっそり絵の中を冒険していく物語です。

そして、絵の世界の塔の中にひとりの少女が閉じ込められていることを発見し…。

途中、絵の中でパクさんというおじさんに会ったり、
絵の世界から現実世界に戻ったあとは体力の消耗が激しかったりと、
読み進めていくうちに絵の世界にまつわる様々な情報が増えていきます。

また、登場人物たちの闇も明らかになっていきます。

だからと言って暗いだけのお話ではありません。
また、非現実過ぎて話についていけないこともありません。
軸の部分はとても現実的ですし。

クラスで目立たなかったり嫌われたりしていた中学生たちが、
絵の世界を冒険する中で、どう変わっていくのか。

ぜひあなたものぞいてみてください。

この本は、中学生が主人公ということで文章そのものが平易で読みやすいので、
普段読書に慣れていない方や学生さんにもオススメです。

夏休み前に読んだら、この夏の過ごし方に変化が生じるかも!?

大人の皆さんもぜひ!
中学生たちから気付かされることもあるはずです。

私はこの本を読んでよかったです。

辛いことがあった時、その状況を受け止め前に進むためには、
自分の心が「前に進もう」と思わない限り、絶対に変わることはできません。

どんなに正しいアドバイスをもらったとしても、心が動かなければ意味がありません。

この本には、それをアシストする力があるように思います。

それこそ、絵の中に逃げられるのなら逃げたいよ!と思っている方は、
まずはこの本の中に逃げてみては?

最後はきっと素直な自分にちょっとだけ近づけるはずです。

『過ぎ去りし王国の城』の特設サイトは コチラ

なんと宮部みゆきさんご本人による、この作品の朗読も聴くことができます!

yukikotajima 11:28 am

若冲

2015年7月8日

来週の木曜日、16日に「第153回芥川賞・直木賞」が発表されます。

すでに候補12作が発表されています。

芥川賞には、ラジオでもご紹介した
お笑い芸人のピース・又吉直樹さんの『火花』がノミネートされ、
話題になっています。

今日のユキコレ(grace内コーナー13:45頃〜オンエアー)でご紹介するのは、
直木賞にノミネートされている

澤田瞳子(さわだ・とうこ)さん の 『若冲(じゃくちゅう)』 です。

文藝春秋から今年4月に発売されました。

若冲は、江戸時代に京都で活躍した絵師です。

今年、生誕300年ということで、
全国各地で特別展示が行われ、
本屋さんには、若冲関係の本や雑誌、ムックなどが並んでいます。

なんといっても若冲の絵は、目立ちますからね。
本屋さんでも若冲の絵が表紙の本はすぐに見つけられます。

赤いとさかが鮮やかな鶏の絵は、若冲の名前を知らなくても
一度を見たことがあるのでは?

もちろん、鶏以外にもたくさんの絵があります。

小説『若冲』には、そんな若冲の絵がどのようにして誕生したのかが、
物語形式で描かれています。

***

簡単にストーリーをご紹介しましょう。

若冲は、京都の問屋の長男として生まれたものの、
家督を弟に譲り、自身は絵の道へと進みます。

家にひきこもり、絵だけを描く日々で、
芸事もせず、お酒も飲まず、生涯独身だったと言われているそうです。

でも、この小説には若冲の奥さまが登場します。
しかも、若いころに自ら命を絶ってしまいます。
自分のせいで、妻が亡くなったと思った若冲は、ますます絵に没頭していきます。

そして、彼の絵は注目を浴びるようになり、依頼も増えます。

そんな絵師として活躍する彼の前に、
若冲の贋作(がんさく=にせのさくひん)を描く絵師、
市川君圭(くんけい)があらわれます。

君圭の作品を見た若冲は何を感じたのでしょうか。

ちなみに、若冲と同じ時代に京都で活躍した絵師はたくさんいまして、
小説にも登場します。

たとえば、池大雅(いけのたいが)、
円山応挙(まるやま・おうきょ)、
与謝蕪村(よさ・ぶそん)など。

若冲は池大雅と仲が良かったようで、
小説にもたくさんのエピソードが出てきます。

人嫌いの若冲に対し、池大雅は人懐っこく、
若冲の描写は基本的に重苦しい空気感なのですが、
池大雅の登場により物語が軽やかに動き出します。

澤田さんの文章は、
まるで自分も江戸時代の京都にタイムスリップしたかのような、
五感を刺激するもので、
階段をのぼる様子ひとつをとっても、とても丁寧です。

まさに、物語の世界に引き込まれる作品でした。

ただ、若冲のことをよく知る人の中には、
「若冲が結婚していただって?」と思う方もいるかもしれませんが、
フィクションとノンフィクションが入り混じった
若冲の物語として読めば、きっと楽しんでいただけると思います。

この本を読んだ後は、若冲の絵を見たくなります。
いや、私は本を読んでいる時すでに見たくなったし、見たな。

ちなみに、本の帯には、小説に登場した若冲の作品のタイトルが紹介されています。

ちょうと今年は若冲生誕300年ということで、
本屋さんに行けば、たくさんの若冲関連の本や図録などがあります。

お手元に若冲の絵を置いて、
絵を見ながら本を読めばより深く味わっていただけると思います。

来週発表の直木賞を受賞すれば、さらに「若冲熱」が高まりそうですね!

取ってほしいなあ。
 

yukikotajima 12:25 pm

君の膵臓をたべたい

2015年7月1日

紀伊國屋書店富山店店長の小作さんから、
ラジオで是非紹介したい本があるんです!
と電話で興奮気味に連絡を頂き、
本のタイトルを聞いた瞬間、思わず
「その本は、猟奇的な内容のものですか?」
と言ってしまいました。

だってタイトルが、

『君の膵臓をたべたい』

ですよ。

どんな話よ?って思っちゃいますよね。
しかも、店長は「この本は、湊かなえの『告白』の時のように話題になると思います!」
とおっしゃるものだから、ますますそちらよりのお話かと思ってしまったのですが、
店長から「とりあえず読んでみて下さい」とすすめられたので、読んでみました。

本を手に取り、私が感じていた印象がくずれました。

桜の木の下にいる若い男女二人のイラスト。

全然猟奇的な雰囲気じゃない!

おそるおそる本のページをめくっていきました。

高校生の男女の物語でした。

本について詳しくは、店長が コチラ でご紹介していますので、
ぜひお読みください!

今日のキノコレ(grace内コーナー 13時45分ごろオンエアー)
でもご紹介しますので、ラジオも聴いてね♪

***

私も読みましたので、軽く感想を。

タイトルを聴いた瞬間、私のように、
猟奇的な内容か?と思ってしまう方もいるかもしれないけれど、
そうではありません。
ある高校生の男女二人の日常が男子目線で描かれています。

彼女との出会いが彼を変えていくのですが、
もともと淡々としている男子だからこそ、
その変化がわかりやすく、胸に迫ってくるものがありました。

本の帯には、大きく「涙する」と書かれていました。

私は最初から泣かせるための本はあまり好きではなく、
絶対に私は泣かない!と思って本を読んでみたものの…
そんな決意はどこへやら。
涙でぐしゃぐしゃでした。(笑)

この本を家で読んで正解でした。

もし、カフェなんかで読んでいたら、
私、間違いなく、店員さんに声をかけられるレベルだったと思います。

今日も富山は雨ですね。
雨の日の夜にでも、じっくり読んでみては?
高校生のお話ですが、大人の方こそぜひ!

そうそう、この本は、セカチューこと『世界の中心で、愛をさけぶ』
に続く話題作!などとも言われ、
『君の膵臓を食べたい』だから「キミスイ」などと略されているようです。

キミスイ、いずれ、映画化される気がしてなりません。

配役は誰がいいかなあ。
なんて考える時間も楽しい。

yukikotajima 12:25 pm