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20『わたしを離さないで』

2010年3月29日

先週に引き続き、今日13:45〜放送の「ユキコレ」も
紀伊國屋書店のスタッフの皆さんが選んだ文庫、
「紀選文庫(きせんぶんこ)」の中から1冊、ご紹介します。

★紀選文庫の特別サイトはコチラ↓
http://www.kinokuniya.co.jp/01f/event/kisen/koikuchi.html

今日ご紹介するのは、日本(長崎)生まれのイギリス人作家
カズオ・イシグロの『わたしを離さないで(Never Let Me Go)』です。
英米では、ベストセラーになった話題作です。
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この本は、著者のイシグロさん自身、
「一切予備知識なしに読んだ方がいい小説」とおっしゃっているとおり、
なるべく、何も知らない状態で読んだ方がいいと思います。

ですので、核となる部分には触れずにご紹介します。

舞台は、1990年代のイギリスです。
ただし、現実の世界ではありません。
イシグロさんが生み出した仮想世界です。

主人公は、31歳の女性、キャシー。優秀な介護人です。

彼女が子ども時代に育った施設ヘールシャムでのできごとを中心に、
彼女の過去が、淡々と明らかにされていきます。

本の帯に、作家の角田光代さんが、
『ページをめくるごとにあらわになる真実にがくぜんとする』
と書かれているのですが、その通りでした。

最初の方は、なんのことを言っているのか、全く分かりませんでした。
でも、徐々にあきらかになっていきます。
ただ、はっきりと「こういうこと」なのだとわかるのではなく、
なんとなく、そういうことなのかもしれないな、という勘程度ですが。

また、この作品は、仮想世界とはいえ、まったく理解できないものではありません。

子供のころの過去の出来事などは、
私自身が体験していた、といってもいいくらいに普通の出来事でしたし。

仲のいいグループがあったり、
いじめっこ、いじめられっこがいたり、
誰かを好きになったり。

そういった点では、とても懐かしく、
私も本を読みながら、どうでもいい昔の思い出がふとよみがえってきては、
あまずっぱい気持ちになっていました。

でも、ヘールシャムの人々は、私たちとは異なる運命にあります。
徐々に、自らの思い出とはかけ離れていき、
彼らのたどる運命に目が離せなくなっていきました。

もし、自分がその運命にあったら…
たぶん、もっとあがくような気がします。
でも、彼らは、静かに運命を受け入れます。
もちろん、少しはあがきますが。

設定そのものは、激しいものですが、
物語は、静かに淡々と進んでいきました。

「受け入れる」

この本を読んで、頭の中にぱっと浮かんだ言葉です。

今の時代、この「受け入れる」ことが出来なくなっている人が多い気がします。
都合が悪くなると、様々な方法で逃げてしまう人が多いような。

「わたしを離さないで」は、
若者たちの人生が描かれているので、ボリュームがありますが、
その分、「小説」として、読み応えがあります。

ちなみに、海外では「ヤングアダルトに読ませたい成人図書」にも選ばれたそうですよ。

ということで、若者の皆さん、是非、どうぞ。

yukikotajima 10:31 am