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『赤と青とエスキース』

2022年3月9日

約一ヶ月後の来月6日に今年の本屋大賞が発表されます。

全国の書店員の投票だけで選ばれる「本屋大賞」は、
大賞受賞作はもちろん上位の作品も面白いので、私も毎年楽しみにしています。
また、映像化されることも多く、
2019年の本屋大賞を受賞した瀬尾まいこさんの小説
『そして、バトンは渡された』に続き、
2020年の大賞受賞作となった凪良ゆうさんの『流浪の月』も映画化され、
5月13日に公開されます。

ちなみに、去年の大賞は、町田そのこさんの「52ヘルツのクジラたち』でした。
そして2位となったのが、青山美智子さんの『お探し物は図書室まで』でした。

いずれも以前、ラジオでご紹介しました。
(↑作品のタイトルをクリックして頂くと、私の本の紹介が読めます)

そして、今年の本屋大賞にも青山さんの作品がノミネートされています。

◎本屋大賞の公式サイトは コチラ

今日ご紹介するのは、去年11月に発売された青山さんの新作です。

『赤と青とエスキース(PHP研究所)』

エスキースとは、下絵のことです。
この本には、「本番を描く前に、構図を取るデッサンのようなもの」とあります。

物語は、メルボルンから始まります。
メルボルンに留学中の女子大生が、現地に住む日系人の男性と恋に落ちます。
そして、二人は彼女が日本に帰るまでの期間限定で付き合うことに。
帰国の直前、現地の画家の卵が、彼女をモデルにした「エスキース」を描きます。

『赤と青のエスキース』は、そのエスキースをめぐる連作短編集です。

次の物語は、30歳の額職人の男性のお話です。
彼は、学生時代にとある絵画を見た時に、
この絵の魅力をもっと引き出せるような額をつけてあげられらいいのに
と思ったことをきっかけに額職人になります。
しかし、来る発注は既製品ばかりで、なかなかオーダーメイドの依頼はありません。
そんなある日、ある絵画が工房にやってきたことで、
オリジナルの額縁を作ることになり…というお話です。

短編集の中で私はこの額職人のお話が一番好きです。
絵にぴったり合うのはどんなフレームなのか、
あれこれ考える額職人の目の輝きまでが見えるかのようで、
読んでいてワクワクしました。

この作品を読んだあと、たまたま美術館を紹介するテレビ番組を見たのですが、
作品以上にどんな額縁が使われているのか、そればかりが気になってしまいました。
今度、美術館に行ったら、額縁メインで鑑賞してしまいそうです。

その次は、40代の漫画家の男性の物語です。
彼は、大きな賞を受賞した、かつてのアシスタントから
雑誌の対談相手に指名され、久しぶりに顔を合わせることになるというお話です。

作品も素晴らしい上にモデルのようなイケメンの元弟子を前にした
中年の漫画家の正直な心のうちが綴られています。
この作品も良かった。心も瞳も潤いました。

次は、恋人と別れ輸入雑貨店で働く50代の女性のお話です。

どの短編にも「エスキース」が様々な形で出てきます。

最初のお話を読んだ時は20代の若者たちの不器用な恋物語なのねと思いましたが、
話が進むにつれ、登場人物たちの年齢が上がっていくのが興味深く、
それぞれの年代の悩みや本音が丁寧に描かれているのが印象的でした。

悩んでいるのは若者だけじゃないもんね。
その年代ごとにいろいろあるわけで。

この物語には、様々な人が出てくるのですが、
ひとりひとりに対して、著者の青山さんの優しいまなざしを感じました。

また、この本には、ほほう、なるほどそうきたか!と思うしかけがあります。
本の帯に「二度読み必至」とある通り、
最後まで読むと、もう一度読みたくなります。
そして、同じ物語なのに一度目と二度目では感じ方が変わります。
私は、最初は勢いよく、二度目はしみじみと読みました。

本を読みながら、ドキリとして頂きたいので、
まっさらな気持ちで、それこそ一度私の本紹介もいったん忘れて(笑)、
頭の中を真っ白なキャンバスにして、
本のページをめくりながら色をのせていってください。

そして最後にあらためて表紙をご覧ください。
より美しく見えるはず。

ちなみに、著者の青山さんによると、
この作品は「マンガ大賞2020」を受賞した
漫画『ブルーピリオド』からも影響を受けているそうです。
どんな作品だろうと気になり、試しにNetflixでアニメを見たところ
面白くて久しぶりに一気見してしまいました。

『ブルーピリオド』は、ある日、美術に目覚めた男子高校生が
東京藝術大学を目指すという受験物語で、
熱いストーリーや魅力的なキャラクターはもちろん、
美術についても色々学べるのも楽しかったです。

ぜひ『赤と青とエスキース』と合わせてお楽しみください。

yukikotajima 11:08 am