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『エレジーは流れない』

2021年5月12日

新緑の眩しい季節ですね。

人生を季節に例えることもありますが、
ちょうど今の季節は10代の青春時代真っ只中といった頃でしょうか。

大人の皆さんはどんな青春時代を送っていましたか?

今日ご紹介する本は今まさに青春時代を生きる男子高校生の物語です。

ですが、彼にはなりたい職業や将来の夢は無く、
毎日ひたすら平穏に暮らしたいと願っています。

『エレジーは流れない/三浦しをん(双葉社)』


著者の三浦さん自身、高校生の頃に大人たちから
「いまが一番いい時期」と言われてもピンと来なかったそうです。
ただ退屈で、さきが見えなくてちょっと不安で、
でも友だちとおしゃべりしているのが楽しかったのだとか。

『エレジーは流れない』の主人公もまさにそんな思いでいます。

物語の舞台は海と山に囲まれたさびれた温泉街です。
高校2年生の怜(れい)は、温泉街で土産物屋を営む母と二人で暮らしています。
彼は自分が住む温泉街のことを
「のどかを超えて、なにもかもが緩慢な町」と言い、
自分自身もなるべく静かに穏やかに日常を重ねていきたいと思っており、
そんな自分のことを、成績も生活態度も悪く無いのにモテないのは
「俺には面白味ってもんがないからだ」と自己分析しています。

一方、一緒につるむ友人たちは個性豊かで自由奔放です。
怜はそんな仲間たちに振り回されながら日々を過ごしています。

また、穏やかに過ごしたいと願いながらも
友人が父親と大喧嘩をしたり恋人にぞっこんだったりする様子を見て、
人に心を開いたり誰かを求めたりできることを
ひそかにうらやましく思っています。

友人からは「もっと正直になれ。欲しいものは欲しいって言えよ!」
と言われてしまうものの、怜にはそれができません。

というのも怜の家は複雑な家庭環境で、
どこか家族に遠慮しているところがあるのです。
実は彼にはもう一人母親がおり、
二つの家を行き来するという二重生活を送っています。
しかし、母親が二人いる理由や、会ったことの無い父親について、
これまで誰にも聞いたことはありません。
そのせいで、ずっとモヤモヤしています。

また、高校2年生になり、卒業後の進路を選択しなければいけなくなったものの、
特にやりたいこともない上に、二人の母親が進路をどう考えているかわからず、
怜は悶々とています。

そんなある日、地元の博物館から「縄文式土器」が盗まれます。
それを知った怜たちいつものメンバーは、そのニュースに興味を抱き…。

続きはぜひ本を読んでみてね!

***

この本を読みながら三浦さんの過去の作品である、
箱根駅伝に出場した大学生たちの物語『風が強く吹いている』を思い出しました。

新作の『エレジーは流れない』の高校生たちには
特に何か大きな夢があるわけではありませんが、
みんなそれなりに真面目に一生懸命生きていて、
人としていい子たちという点で重なるところがありました。

アホだねぇと突っ込みたくなるくらい
どうしようも無かったりするのですが、
でも憎めないんですよね。

のどかな温泉街のちょっとおバカな高校生たちの物語は、
愛すべき高校生たちの物語でもありました。
ネタバレになるので詳しくは言えませんが、
私は彼らが住む温泉街が大好きになりました。

うちの町も同じくさびれてるよとか、
私の毎日も穏やかというか地味な日々という方もこの物語を読むことで、
きっと大切なことに気付かされるのではないかしら。

また、将来何をしたらいいのかわからなかったり、
本心をなかなか人に言えなかったりする若者たちにもぜひ読んで頂きたいです。

こいつらアホだ!と思いながらも、彼らに救われるところもあると思います。

物語の中で怜のお母さんがとても良いことを言います。
「迷惑なんてかけあえばいい」と。
私自身、人に迷惑をかけたくないと思って生きてきたので
(ってほとんどの人がそう思っていますよね)、
この一言が大変印象に残りました。

なんだかんだで素敵な青春小説でした。

三浦先生、彼らの10年後の物語もいつか書いてくださらないかな。
アラサーになった彼らの物語もぜひ読んでみたい。
いや、アラフォーでもいいかな。
というか、10年ごとに書いて欲しい。

三浦先生いかがでしょう?

yukikotajima 10:46 am