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『今日も町の隅で』

2020年5月13日

今日ご紹介する本は、ある町に関わりのある人々について描かれた短編集です。

『今日も町の隅で/小野寺史宜(おのでら・ふみのり)【角川書店】』


小野寺さんにとって初の短編集だそうで、10の作品が収録されています。

それぞれのお話がつながっている連作ではありませんが、
全員が「みつば」という町に関わりがあります。
また、それぞれ何かしら悩みを抱えています。

物語は、まず11歳の小学生が主人公の物語から始まり、
その後、徐々に年齢が上がっていき、最後の主人公は42歳です。
なお、一人の人の成長物語ではなく、それぞれ異なる人たちです。

***

例えば、「カートおじさん」という物語の主人公は、
スーパーでレジの仕事をしている42歳の女性です。

タイトルの「カートおじさん」は、
スーパーの買い物客用のカートが乱れているのを見つけると
店員でもないのにカートを片付けるおじさんのことなのですが、
この方はカートを片付けるだけで、
普通に買い物もしてくれるし、面倒な人ではありません。

ただ、時にはやっかいな人もやってくるもので
ある日、小学生の男の子が商品のボールペンを
万引きしそうなところを目撃してしまいます。

どうすべきか悩んだ彼女は、男の子に
「レジを通してね。お願いね」とだけ言って、その場を去ります。

しかし、彼女はこの対応でよかったのか悩みます。
私は甘かったのではないか、間違ったのではないかと思っていたら
仕事に集中できず、普段はしないようなミスまでしてしまいます。

結局、小学生の男の子は万引きをしたのか。
また、カートおじさんとは何者なのか。

続きはぜひ本のページをめくってみてください。

***

他には、ある男子のせいで学校に行けなくなった女子が
その男子に誘われて一緒に地元の高校の野球の試合を見に行くお話や
高校でバンドを組んだものの、リードギターからサイドギター、
最終的にはベースになってしまった男子高校生、
作家になりたいけれどなれずに節約生活をしている30歳の男性、
妻から突然、元カレを一日だけ家に泊めてもいいか聞かれ、
心とは裏腹に「いいよ」と言ってしまった男性、
久しぶりに同窓会に出席した40歳の男性の物語などが収録されています。

登場人物は皆、普通の人たちです。
それぞれ、自分はどうしたらいいのか人知れず悩みを抱えています。
だからといって地味で暗い物語なのかといったらそんなことは無く、
どのお話も最後の一文がとてもいいのです。
登場人物たちがスッキリ明るい表情をしているのがわかります。

小野寺さんは、普通の人を描くのが素晴らしいのです。
どこにでもいそうな人たちの物語なのに全然退屈ではありません。

みんないい人なんだけど、ちょっと不器用で、
どちらかといえば、主人公ではなく脇役になりそうな人たちです。
でも実際は、脇役のほうが多いんですよね。

本を読み終えた後は、まさにタイトルの「今日も町の隅で」頑張る人たちの
幸せを願わずにはいられませんでした。

優しい気持ちになれた素敵な短編集でした。

キャラが濃かったり、激しい展開だったりする物語も面白いけれど、
こういう静かなタイプの物語も私は好きです。

最近、色々上手くいかなくてちょっとお疲れ気味という方にもオススメです。
ぜひ一作品ずつゆっくりお読みください。

また、この作品を読んでお気に召したら
以前、ラジオでご紹介した小野寺さんの『ライフ』も是非!
こちらもいい作品です。

◎私の『ライフ』の紹介は コチラ


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yukikotajima 11:39 am